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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第4章 僕が【死を縫い付ける裁縫師《デス・テーラー》】と呼ばれるようになるまで
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第161話 アグレッシブ令嬢のお詫びの品々

 翌日——



「——ウィリア!」

「「——ッ!?」」



 教室に再びアイリス来襲。彼女の声に身体が跳ねる僕とシトリン。

 これは昨日のトラウマが原因だが——この時の僕は顔が引き攣る程度にとどめた。しかし、シトリンは僕にしがみつき瞳に涙を溜めている。これはよっぽど昨日のアイリスが怖かったのだとみた。


 てか君、僕の奴隷なんだよね? 『囮でもなんでもします!』とか言ってなかったっけ?


 なのに僕にしがみついて怯えているだと? 


 なに? 死ぬ時は一緒だよってか?


 ミノタウロスの時には囮を買って出たんだよね? なのにシトリン……君はもうアイリスには立ち向かえないのか?


 ミノタウロス < アイリス?


 それでいいのか奴隷娘シトリンよ……。



「2人とも……ちょっといい……」



 そして、肝心のアイリスなのだが……いきなり鋭い視線で睨め付けてくる。

 非常に怖い。これは、怯えても仕方がないな。だって僕だって怖いんだ。


 して……アイリスは僕たちに何用だ?


 まさか、昨日の続き血祭り(ブラッティフェス)の続きを開催しようと?

 アイリスのことだし、可能性はあるなぁ……。



「——ごめんなさい!!」

「「……ッえ?」」

 


 若干の間があったアイリスだが、深々と頭を下げた。彼女の目的とは謝罪だったようだ。



「私、昨日は早とちりしちゃったみたい」

「ほう? どうして急に気変わりを? 頭でも打ったか?」

「……は? なに? そんなに斬られたいの〜〜? ウィル〜〜?」



 しかし、彼女はいつも通りのアイリスだった。気が狂っての行為ではなさそうだ。



「聞いたわ。シトリンちゃんは主人を失った奴隷で……ウィリア、あなたに拾われたってこと」



 さて……


 彼女はその情報をどこで知ったのだろうか? 

 だが、アイリスとは元公爵令嬢である。公爵家の情報網はなかなか侮れない。もしかしたら、そこを経由して知り得たのだろうな。



「奴隷の扱いについては知っているわ。なのに軽率にあなた達を断罪したことは、本当に反省してる。ごめんなさい」



 しかし、アイリスもだいぶ丸くなったものだな。悪いと思ったら素直に頭を下げる。

 今も規律を正して頭を下げている。一般市民がいるこの教室にも関わらず。矜持ってものを気にせず仁義を慮っている。



「で……どうする? シトリン?」

「わ、私は特に怒ってなどいません。ウィリア様の判断におまかせします」

「そう? なら……」



 僕は全然許してもいいんだけどね。シトリンがトラウマになっていないか、アイリスに聞こえない小さな声で一応確認。彼女はプルプルと顔を振って見せると泣き虫顔が払拭された。気を切り替える動作なのかな? なんとも可愛らしい仕草だ。

 そして、平静を装うと僕に任せると言ってきた。

 うん。この感じは、僕がどんな選択をしたとしても大丈夫そうだな。


 それなら……



「もう気にしてないよアイリス。説明不足だった僕もいけないんだし、言葉選びをミスったシトリンにも非があった。怒ってないよ」

「そう……そう言ってもらえると助かるわ」

「アイリス。君、謝ってばかりだよね。もう少し落ち着いて状況を飲み込んでから行動を起こしたら?」

「面目ないのだけれど。ウィルに言われると……なんかムカつく」

「なんでだよ」



 とりあえず謝罪は受け入れといた。

 別に、こんな堅苦しい謝り方してこなくていいのにね。いちいち律儀なんだよなアイリスって……

 ただ、これに関しては令嬢だった時の感覚が影響してるんだろう。こればかりは仕方がないか?



「それで……2人は欲しいものとかある?」


「「欲しいもの?」」


「何かプレゼントさせて。お詫びの印によ」


「「プレゼント?」」



 そして、この提案。これもまた令嬢と言えば令嬢っぽい返しだな。賄賂を送ろうってか?



「別にいらないよ。この程度で……友達だろ? 僕たち?」

「……ッ。と、友達……」



 この時、アイリスはハッとして、ほんのり頬を赤らめていたが……なんだろうな。この反応は? よくわからないや。



「そんなわけにもいかないわ。ティスリに昨日のことで怒られたのよ。だから、気持ちを受け取ってもらえない? でないと、お姉ちゃんにまた叱られてしまうわ」

「そう言われてもなぁ……」

「別にお金の心配はしなくていいのよ? 気が引けるのなら、こないだみたいな食事をご馳走するのでもいいわよ? ヴェルテも呼んでね。私としては何かしら形だけでも受け取って欲しいの」



 なんでも、貴族ってこういうものらしい。いくらアイリスが“元”公爵令嬢だったとしても、責任ってのは大切なんだそうだ。

 でなければ、馬鹿正直に奴隷ゴッコなんてしてなかっただろうしな。それに、アイリスパパにも『コキ使え』って釘を刺されてたっけ? 問題があれば、家の方にも報告でも行くんだろうな? だから形だけでも問題対処はしなくちゃいけないと……そんなところだろうか?



「じゃあ。この子、シトリンに“髪留め”でもプレゼントしてくれる?」

「髪留め? そんなのでいいの?」

「ああ。前髪が目にかかって見づらそうにしてたからさ。ちょうど買ってあげようと思ってたんだ。昨日も紅茶を溢しちゃって……」

「そう。分かったわ。早速ティスリと選んで買ってくるわね。凄いの楽しみにしてて!」

「いや……あまり豪華なのはいらないぞ? 普通なのでお願い」

「普通に凄いのね。了解!」

「本当に分かったのか??」



 そして後日、送られたのは至って普通、猫の模様をあしらった白銀に輝く髪留めだった。だが後で知ったが……その材質はミスリル? とかいう貴重金属。軽くて丈夫というたかが髪留めにしてはオーバースペックな代物だった。馬鹿じゃね〜の?



「それじゃあ。ウィリアは何が欲しい?」

「え? だから、髪留め……」

「それはシトリンちゃんを怖がらせたことへのお詫びの品よ。ウィリアには別に贈らせて?」

「ふ〜〜ん。そうだなぁ……」



 アイリスのプレゼント企画は『髪留め』1つでは終わらなかった。


 しかしだな……


 いきなり欲しいものを聞かれたってなぁ……そんなものは急には出てこない。

 正直言ってしまえば「金!」になるのだが、そんな答えをアイリスが求めてないのは僕だって分かる。

 さて……これを踏まえて、どんな“おねだり”をアイリスにすればいいのかな?

 どうせプレゼントを貰えるのなら無駄にはしたくない。前みたいに『ランチをご馳走される』でもいいんだけど……令嬢飯にはあまり魅力を感じないんだ。お堅いランチって気疲れしちゃうんだもん。あれはあれで美味しかったけども……やっぱり普通のご飯が1番さ。

 

 さて……


 それなら他の選択肢だ。であるなら……



「……お? そうだ」

「ウィル? どうしたの? 何か思いついた?」



 1つ思いついたものがある。


 アイリスはピクッと反応している。彼女はソワソワとし始めた。要望に飢えているようだ。


 なら……それに応えてあげようじゃないか。
















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