第155話 ソイツは突然やってきたトラブルメーカー
かくして……僕はキュートなメイドちゃんを引き連れて授業を受ける羽目になった。
「シトリン? 席余ってるし隣座ったら?」
「いいんですか?!」
「知らん。けどいいんじゃない? 別に誰も困らないでしょう」
「で、では失礼します」
「はい、どうぞ……」
シトリンは大真面目に僕の後ろに控えて立ち尽くしてた。そのままだと大変だろうなと思って席に座らせた。僕の隣の席だ。
周りの席は空席で未使用だったから、誰も困らんだろうと思って許可しておいた。僕は責任者でもなんでもないんだけど、こんな小さな子を立たせておくのも可哀想でしょう?
「むふふ……ウィリア様と隣の席〜♪ 幸せです〜♪」
「……なぜ?」
ただ、僕の思っている以上にシトリンは嬉しそうにしていた。
席に座ったからってなんだってんだ? 頬を赤らめてニマニマと……なんなんだよ。まぁ、嬉しそうにしてるんだったらいいんだけどさ。
てか、シトリンは本当に何しに来たんだ? このままではただ一緒に授業を聞きに来ただけだぞ?
なんだコレ??
と……シトリンに困惑させられたことを除けば、至って普通の授業風景が流れていった。
だが……
お昼休み——
ソイツらは突然やって来た。トラブルメーカー共がよ。
「——ちょっとウィル! ヴェルテから聞いたわよ。あなた抜け駆けしたそうね。許せないわ! 今すぐそこに直りなさい!!」
元公爵令嬢でアグレッシブの権化——アイリス嬢である。
彼女は教室の扉をバンッと打ち開き、ズカッズカッズカッ——と僕のもとまでやって来る。目の前のテーブルにドンッと右手を打ちつけた。
この時、僕の顔を覗き込む彼女の視線は、刺殺するんじゃないのかと思えるほど鋭利に研ぎ澄まされていた。これは明らかに恨みを買っている証拠だといえよう。
はてさて……僕はアイリスに恨みを買うようなことをしただろうか? 直近の記憶ではアイリス主催の食事会が彼女と繰り広げた最終アクションだったと思うのだが。怒ることなんて……あれ? いや……怒るアイリスを放置して逃げて来たんだっけか?
なら、怒りを買ってるということか?
いや……だが待て……
そうだとしても、ヴェルテに聞いたとは何のことだろうか?
告げ口されるような身に覚えがないぞ?
「その顔——なんのことだか分からないって、言いたそうね?」
「ほほう。よくお分かりで……」
「“お分かりで〜”じゃないわよ!」
「——ッ痛い!」
噴気したアイリスの平手打ちが僕の後頭部に命中する。
まさか暴力を振るうとは?!
まったく! そういうところだぞアイリス!
だから、アグレッシブorヒステリックって呼ばれるんだよ!
——暴力反対!!
「ウィル。アナタ昨日——ヴェルテと別れてからダンジョンに行ったでしょう?」
「——ッ!?」
だが……ここで痛みを忘れるまさかの発言。
僕が昨日、1人でダンジョンに潜っていたことがバレている?!
な、何故だ!? なぜそのことを……!?
「な、何のことでしょう〜?」
「ウィル。アナタって本当に嘘が下手ね。声がうわずっているわよ」
「気のせいだって……僕にはやましいことなんてないんだ。嘘なんてついていない」
「なら、昨日はヴェルテを先に帰らせて、一体何をしてたの?」
「何って……ちょっとお買い物を……」
「ふ〜〜ん。お買い物ね〜〜」
アイリスのジトォ〜〜とした視線が僕にまとわりつく。
アイリスからは試験のことは聞かれるかとも思っていたが、まさか『その後』の事を早々に聞かれるとは思ってもみなかった。
これは、帰路についたヴェルテと鉢合わせしているな。彼女から色々と聞いているのだろう。そこから推理して僕がダンジョンに向かったと思いこんでいる。
いや、まぁ……実際行ったんだけど……
アイリスって、アグレッシブで感覚がズレてることもあるんだけど。いらねぇ〜推理力を発揮する頭脳は持っているからな。これは要注意だ。
だが、慌てることはない。僕は正体を隠してダンジョンに踏み込んでいるんだ。ここはシラを切れば問題ないはずさ。答えとは答えなければ推測の域を出ないんだ。
僕が口を噤んでいれば、なんの問題もないはず……。
「本当に〜〜?」
「本当だって、ダンジョン用のアイテムを買いに行ったの!」
「ふ〜〜ん。なら、本当かどうか試してみましょう」
「……え?」
だが、アイリスは引き下がらなかった。
いきなり『試す』と言い出した。
なぜだ……嫌な予感がする。
「嘘発見機を連れてきているのよ。彼女に見てもらいましょう」
「……は? 嘘、発見……機??」
嘘発見機? な、な、何だ、それは……?!
「ヴェルテ! 入って来て!」
「——ッ!?」
——ま、まさか!!??
「ヤッホぉ〜〜ウィル!」
「——ヴェルテ!?」
——こ、これはマズイ!!