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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第4章 僕が【死を縫い付ける裁縫師《デス・テーラー》】と呼ばれるようになるまで
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第150話 どうするべき?

 冒険者にとって慎重さは重要だ。

 危険と隣り合わせの迷宮探索が仕事場なんだから一攫千金を求めて命を失うようなのは本末転倒だろうことは誰にだって分かることさ。

 僕だって、そのことはよくわかってるつもりだよ。ダンジョンの秘密を知らない以前は『否定的』だったし、まだパン屋の方が理想的な職業だとさえ思っていたんだ。


 だと言うのに……


 いくら『神器』という唯一無二の秘密兵器があるとはいえ、命がかかってる以上、用心深くはあるべきだった。

 まさか、ダンジョン攻略初日から11階層まで進むとは思ってもみなかった。

 レベルは上がったけど、それでもやっぱりもっと慎重にはなるべきだった。少し強引な攻略となってしまったのは反省するべき点だ。

 ただ、よかったこともある。

 僕の実力がダンジョンに通用するのはわかった。いくら冒険譚の前情報があるとはいえ、本で齧った知識と現実は違う。頭の中では確信していても不足の事態というのは、いつ何時だって起こる可能性だってある。現に、トップクランの所属してるとかいうポッピーに見つかり目を付けられてしまったのも不足の事態だった。彼女の実力がそこまでではなかったからよかったものの、地下遺跡で出会った盗賊首領ほどの実力者が出てきたなら危なかったかも知れない。

 底階層は冒険者が多い。あまり目立つ行為は控えよう。

 しかし……僕の力を証明してみせた。10階層のボスを倒したんだ。しばらくは11階層付近で活動してみてもいいかもしれないな。

 ただ、目立たず慎重にね。

 

 あともう一つ……


 あの子……シトリンを救うことができた。


 これは、幸いだったんじゃないかな?


 小さな少女が、他人にいいように扱われて死にかけてたんだ。僕は英雄なんかではないけど一庶民として人助けができたことは誇らしかった。別に進んではやらないけどね。



「…………! …………!!」



 だけどなぁ……


 まさか助けた子が主人を亡くした奴隷で、拾った僕が新しい主人になるとかそんな未来が待ち受けているとは思わなんだ。


 これを一体誰が予想できただろうか?

 


「……ご……ま! ……さま!!」



 奴隷の少女【シトリン】。


 あんな幼い子がどうして奴隷になんてなったんだろうか? 彼女の取り巻く過去に一体何が? 

 まぁ、いろいろあるんだろう。彼女の取り巻く事情には思うことはあるが、別に強いて気になりはしない。シトリンが自ら語るんだったら聞いてやるが、別に僕からは率先して聞くことはない。

 ダンジョンでも言ったと思うけど、僕は気の利いた言葉を掛けてあげるのが苦手なんだ。重苦しい空気になるぐらいなら、僕は彼女の過去は知らないままでいい。だって面倒くさいでしょう。そんなの。



「……ごしゅじんさま! ……ごしゅじんさま!!」



 それはそうと……1番悩ましいのはシトリンの扱いだ。

 とりあえず寮の僕の部屋に連れてきたのはいいが、男子寮に少女を連れ込むってのはいただけない。そもそも寮はペット禁止だしな。

 シトリンのちゃんとした住まいを用意する必要があるだろう。あとは、彼女の衣服とか……ボロボロのワンピースのままで居させるわけにもいかないしな。


 はてさて……どうしたものかな〜〜?





「——ご主人様!!」

「——ふえッ?!」



 突然の大声によって僕の意識が覚醒した。



「おはようございます。ご主人様! お目覚めですか?」

「……え? シトリン??」

「はい! あなた様のシトリンです!」



 目を開けると、そこには少女の姿がある。ひょんなことから僕の奴隷となった少女【シトリン】である。僕の顔を覗き込んで微笑んでいた。

 何やら身体が揺すられていた感覚に覚えがある。この状況、どうやら彼女が僕を起こしてくれたみたいだな。



「えっと……お、おはよう?」

「はい! おはようございます!」



 まだ寝ぼけた意識のまま、彼女の挨拶に答えた。するとシトリンは再度僕の挨拶に呼応するように返事をしてきた。

 その姿は元気いっぱい。少し弱虫な印象も感じられた彼女だったが、今の姿は精神的に健康そうだ。



「…………」

「ご主人様? いかがいたしましたか? 私の顔に何かついていますでしょうか?」

「……え? いやぁ……」



 ただ、僕は呆然とシトリンを見つめてしまった。


 実は……1つ気になることがあったんだ。

 


「顔というより……服装が……」

「変だったでしょうか?」

「いや、“へん”ではないんだけどさ」

「……?」



 だって、シトリンの服装がおかしいんだ。


 昨日はところどころが煤け変色したシンプルな作りのワンピースを着ていたはずだ。だがしかし、今の彼女は、白と黒の2色を基調とした可愛らしい服に身を包んでいた。

 僕の記憶では……これは俗にいう『メイド服』という衣類だと認識している。

 ティスリさんというメイドが知り合いにいるのだ。彼女の姿とシトリンの今の姿は遜色ない。これはまごうことなき『メイド服』だ。


 だとすると……



「その服、どっから持ってきたの?」



 一瞬で眠気が覚めた。僕の頭を疑問が支配する。

 一体、シトリンはどこから『メイド服』をくすねてきたんだろうか?



「えっと、実は作り直しました」

「作り直した??」

「はい!!」



 今……シトリンは『作り直した』と言ったか? どういうことだ?



「私、裁縫が得意でして……糸と針を“おばさま”にお借りして着ていた私の衣類を手直ししたんです」

「手直し? あの白いワンピースを??」



 うん……ちっとも理解できない。











 


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