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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第4章 僕が【死を縫い付ける裁縫師《デス・テーラー》】と呼ばれるようになるまで
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第149話 や、優しく! か、可愛がってください!!

「誰にも見つからずここまでこれたか。はぁぁ〜やっと自室(我が家)に戻ってこれたよ。——ほら。早く入って!」

「お邪魔いたします。ここがご主人様のお部屋ですか? 意外と広くて綺麗です!」

「そりゃ〜モノが少ないからね。あまり無駄なモノは置かないんだよ」

「そうなのですか?」



 深夜——門が閉まろうが華麗に学園内に侵入し、そそくさ〜と寮の自室に戻って来た僕は、シトリンを室内に押し込むように入室を促す。僕も廊下の様子を伺いつつ、静か〜に扉を閉めてしまえば侵入ミッションコンプリートだ! 

 誰にも見つからず少女を部屋に連れ込む事に成功した僕は大きく息を吐いて安堵した。

 別に、悪い意味でコソコソした訳ではない。

 僕には全く下心はない。『女の子を部屋に連れ込む』とは文字面的に犯罪臭がプンプンとする響きであるが……ただ僕は可哀想な落とし物を拾っただけで、それを部屋に持ち帰っただけだ。だから何も問題ないはず。

 これは言い方を工夫して正当化しようとかはまったく考えていない。はい、これ大事!

 別に詭弁じゃないからね? それは念頭に置いて考えてもらいたいのだよ。



「では、ご主人様。改めまして——私、シトリンは粉骨砕身の思いで、ご主人様にお仕えする所存です。不束者ではございますが、どうかよろしくお願い致します」



 部屋に入って椅子の背もたれに自信の外套を引っ掛けて振り返る。すると、シトリンが粛々とワンピースの裾を摘みカーテシーを決めて畏まった挨拶を口にしている。その仕草はぎこちなく、見様見真似の所作だとは自ずと気づけるが、それでも小さな彼女のおませな姿からは精一杯の頑張りが伺えた。


 だが……内心、『超』がつくほど複雑な気分である。



「私はご主人様のためなら“なんでも”します! なんなりとお申し付けくださいませ!」

「そう? ならまず、女の子が“なんでも”とか言っちゃいけません」

「……え? しょ、承知致しました?」



 シトリンのやる気はヒシヒシと感じる。だがな……あんまり傅かれて甲斐甲斐しくお世話されるのも困るぞ?

 僕はあくまで普通を求める普通なクソガキだ。そもそも奴隷なんてマジで要らんのだよ。

 つい先月にはアグレッシブな奴隷を拒否ったばかりだ。それなのにすぐこれだ。

 僕にまとわりつく運命とは、どうしてこうも珍妙なんだろうか?

 まぁ、偶然だとは言え、捨て奴隷を拾ってしまったんだ。責任は取るさ。



「では……ご主人様。私はこれより何をいたしましょう? お部屋のお掃除でしょうか? それともお着替えのお手伝いを?」



 シトリンは上目遣いで僕の顔を覗き込み仕事を要求してくる。その輝くまなこは期待に満ちている。今にも自分の存在意義を証明したくて仕方ないみたいだ。

 今の彼女はまるでヴェルテみたいだな。お耳がピコピコして興奮する彼女とそっくり。まるで獣耳がついているかのように、シトリンの頭の上に可視化できてしまいそうだ。


 う〜ん?


 ただ、この子の場合は猫っぽいかな?

 


「あぁ、そういうのはいいよ。あまり甲斐甲斐しく世話しなくていい。気楽にしてよ」

「そう……ですか……」



 ま、気持ちは嬉しいんだがノーサンキューだ。

 シトリンの気遣いを僕が速攻で断ると、彼女の透明獣耳がシュンっと折れてしまった。これはヴェルテで例えると空腹状態の彼女と一緒だ。見てわかる通りのしょぼくれモードである。



「今日は疲れてんだ。とりあえずもう寝よう」

「——ッ!?」



 ただ、今日はもう夜も遅い。


 空腹だったから、保存食のパンを齧って——あとのことはもう明日考えよう。

 シトリンにも、生活用品を揃えてあげないといけないし……服装だってボロボロの白いワンピース。これを、このままにしておくわけにもいかないだろうな。

 はぁ〜〜また、お金が掛かってしまうなぁ〜〜。来月の寮費だって作らないといけないし……

 そうだ! 今日の“ゴブリンの武器(戦利品)”を買い取ってもらえる良い場所はないだろうか? ギルドに売るとギルドカードが必要になるから、正体がバレないためにもボスゆかりの戦利品を売ることができない。ここは、こっそりと手に入れた素材を心置きなく売れる場所も見つけないと……。


 急務な案件がた〜くさん。


 だが、そういった面倒臭いのも明日に持ち越しだ。とにかく今はもう、なにも考えたくない! 


 僕はもう、とっとと寝たいんだ。


 ただ……



「ひ、ヒャいッ……か、かしこまりました!!」

「……ッ?」



 シトリンは僕の提案に声を裏返らせて返事を返した。様子がおかしい。そんなにおかしな提案だったか?



「や、優しく……か、可愛いがってください!」

「……は? 可愛がる??」



 そして、このシトリンの発言とは? よくわからないな。

 だが眠気は容赦なく押し寄せてくる。僕はもう思考を働かせるのは限界に近かった。



「まぁ、なんでもいいや。シトリンはそこのベット使いなよ」

「は、はい! し、失礼します!!」



 シトリンはベット寝そべった。そしてギュッと目を閉じて震えている。何をそんなに緊張してるんだか? そこまで畏まらなくても良いのに。別に僕は取って食べたりなんてしないだけど……?



「……って、あれ? ご主人様は何をして?」

「ああ。僕はこっちの椅子で寝るから……」

「……え?」

「別に気にしないでいいよ。僕はショートスリーパーで椅子で寝るのには慣れてるんだ」

「……え?!」



 僕はアイリスから貰った毛布代わりの外套を被り、座学授業でもお世話になってるクッションを持ち出した。勉強卓に座ると、そのまま机にクッションを枕にうつ伏せになる。こうして寝るのが僕のルーティン。ベットはあるんだが、こっちの方が僕にはあってるんだよね。

 シトリンにはベットを使ってもらえて、ちょうど良いだろう。



「それじゃあ〜〜おやすみ〜〜」

「……え? えぇ〜〜ッッッ?!」



 

 一体あの反応はなんだったんだろうか?


 本当によく分からない……てか、もう考える思考は眠気が限界で働いてすらいない。

 明日——シトリンになんだったのか聞けばいいや。


 ふぁ〜〜〜〜ぁ……


 それじゃ〜あ……


 おやすみ。












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