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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第4章 僕が【死を縫い付ける裁縫師《デス・テーラー》】と呼ばれるようになるまで
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第147話 ウィリア! 新しい妹よ!

 人の通りもまばらでしかない深夜帯となってようやく解放された。


 よくもこんな時間まで説教しやがってクルア姉さんや。


 僕は学生だぞ?! 



「ぐぅ〜〜」



 あぁ〜〜腹減ったぁあ! この時間はもう寮の学食なんてやってないぞ!!


 ——ックソ!! 


 

 それで……肝心の詳細だが……



 奴隷である少女を拾ったのは6〜8階層の間ということで納得してもらった。11階層で主人を亡くした奴隷の少女が敗走し、降りてきたところを運悪く(?)僕が見つけてしまったということだ。

 そして、こっそりと駐屯地の奥へと侵入してしまったことがバレた僕はクルア姉さんの説教を散々と聞かされたと……可哀想なことにな!! 


 あん? 他人事みたいに言うな?!


 違う違う! 僕は客観視して言ってるの! だって人の命を救った僕が何故か怒られてるんだよ?? 


 可哀想って思うでしょう? てか思ったでしょう?!


 そこは「思った」って素直に思っとけよ〜〜馬鹿野郎!! 泣くぞ!!

 


 ち・な・み・に……


 お咎めは『無し』だった。



 てっきり仮冒険者の資格剥奪だとかされるかもとヒヤヒヤしちゃったけれども説教だけで済んだ。

 仮冒険者の中には一定数抜け駆けで入っちゃうヤンチャなルーキーがいるとのこと。僕はそのヤンチャの仲間入りって認識で事なきを得た。

 

 それに……



『実はね。私って今日の試験官を務めていたクルトの姉なの。弟から、期待の新人が見つかったけどスカウトに失敗したって聞いてね。これってウィリア君、君のことでしょう? 私の弟が認めたってことは実力は申し分ないはず。だから、あまり厳しい処罰までは与えないわ。学生で羽目をはずしたい盛りなのは分かるけど……冒険者には命の危険があるんだって分かってる? 奴隷のあの子の主人だって、魔物に殺されてしまってるの! ダンジョンは危険なところだってしっかりと理解してちょうだい。良いわね?』



 ギルド受付嬢であるクルア姉さんは、昼間に会った試験官であるクルト()の姉だったそうだ。彼は僕の事を良いように伝えていたらしく……その点が考慮されたみたい。


 これについては、クルト()に感謝だな。


 グッジョブだぜ! クルトン!!



 それで……



 不問となって無事解放されたのは良い結果だ。次はもっと上手くやるさ。

 9階層まではいつでも飛べるんだ。通行禁止の5階層駐屯地を抜けるわけじゃないから僕は何も悪くはない……はずだ。


 そして今、問題視してるのはそんな事じゃない。


 それは……トボトボッ〜トボトボ〜と僕の背後を付いて来ている少女の存在だ。



「あ……あのぉ……ご、ご主人様?」

「——ッ!? はぁぁ……あのさぁ〜その呼び方やめてくれない?」

「じゃあ、なんて呼べば?」

「ウィリア……ウィルでいいよ」



 怒られて消沈するあまり、すっかり忘れてたよ〜〜この子の存在。


 蒲公英のように暖かい黄色の髪。前髪から覗く左目は綺麗なアンバー色の金眼。白いぼろぼろワンピース。僕より若干背の低い可愛らしい女の子。


 そして……


 この子は奴隷である。


 今日から“僕”の……?



「そんな!? 私のご主人様のお名前を気軽に呼ぶだなんてできません! 断じて“ご主人様”で——!!」

「あぁ〜〜そうですか〜〜もうご勝手にどうぞ〜〜」

「——ッ!? はい! ご主人様!!」

「元気なお返事大変結構。だけど、もう夜も暗いし静かにね。近所迷惑になるから」



 はぁ……“ご主人様”ね。


 僕、そう呼ばれるのに拒否反応がでるんだけどさ。さて、なんでかな?


 てかさ——それ以外の呼び方を拒否するなら始めから聞かないでくれよ。

 僕は君のご主人様なんだろう? なのにご主人様のお願いを無視してを貫くか? 繊細な子かと思いきや頑固なのね。


 だが、そんなことはどうでもいい。


 結局、僕はこの子をどうすればいいんだ?


 クルア姉さんは……『お父さん、お母さんと相談しなさい! あと、奴隷だからってエッチなことはしちゃだめだぞ! 学生は健全でいなさい!』と言っていた。


 するわけねぇ〜だろう?! こんな少女に!!


 こんなの、もう1人妹ができたもんだろ? 急に「ウィリア! 新しい妹よ! それッ!」って投げつけられた気分だよ。


 ……え? 誰に?!


 知らんわそんなもん!!



「それじゃ〜〜えっと……君……結局、名前なんだっけ?」

「——ッ!?」



 そういえば名前を聞き忘れていた。

 ず〜と『奴隷少女』って一人称のままでいるのもおかしいだろう? だから僕は振り返って彼女に聞いた。



「言っとくけど……『オマエ』はなしだからな」



 『オマエ』なんて問題外。前任の主人は本当に碌でも無い奴だったんだろうな。こんな小さな子を『オマエ』って呼ぶとか、どうかしてるぞ。



「えっと……」

「そこ、なんでどもるんだよ。どうして奴隷になったかとか知らないけど……家族に呼ばれてた名前とかあるでしょう?」

「……ッ。それは……」

「ん?」



 なぜだ。僕は難しい質問をした訳では無いんだが……なぜこの子はそんなにも名前を明かしたくないんだろう? 


 と……しばらくジト〜〜とその子を見つめていると……


 ついに観念したのか……



「しと……り……です」

「……え? なに?」

()()()()……です。私は小さい頃……そう呼ばれて居ました」



 ついに名を明かした。



「シトリン……ね。いいじゃん。綺麗な名前だ」

「……ッえ? ほ、本当……ですか?」



 黄色髪のこの少女の名前は【シトリン】というらしい。シトリン……それは黄水晶の名前か? 綺麗な髪色にあった輝かしい良い名前だと思う。


 さて……


 この子の名前が判明してスッキリしたところで……



「じゃあ、シトリン……早速だけど命令です」

「——ッ!? はい! ご主人様!!」



 僕はこの子に早速、指示を出そう!



「君を解放します!」

「……え?」

「どこでも好きな所へ行きなさい」

「ええぇぇぇえええ!!??」



 そう最初で最後のね。








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