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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第4章 僕が【死を縫い付ける裁縫師《デス・テーラー》】と呼ばれるようになるまで
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第146話 落とし“者”拾いました

 結局——名案なんてものは何も思いつかず……

 

 とりあえず魔物の群れが居なくなるのを待った。数が少なくなった頃合いを見て残った魔物を処理し遺留品を回収する。そして、僕は少女を連れてダンジョンを抜け出した。

 クリスタルに踏破階層をセーブしたことで9階層のゲートから1階層に飛ぶことができるようになったため、帰りは恐ろしく早いものだから驚愕したよ。僕じゃないよ? 連れの彼女がだ。

 奴隷である彼女の場合、主人に連れられてダンジョンを登ったのだろうが……その時との記憶の相違からか、1階層のゲートを2度見、3度見と何度も確認していたのが印象に残っている。9階層のゲートを潜ったらいきなり1階層にでたんだ。当然の反応だと思う。

 けど僕は一々説明なんてしてやらないし、彼女はただ疑問を抱えながらも僕の背中をついてくることしかできなかった。


 それで……


 やってきたのは冒険者ギルドの建物だ。昼間に1度、仮冒険のギルドカードを発行してもらうために来たが、これで本日2度目の来館となる。

 辺りはすっかり暗くなりはじめていたが、それでもギルドの営業時間内にはギリギリ間に合った。

 なんで冒険者ギルドに来たのかは……ダンジョン内で奴隷を拾った場合どう対処いいのか分からなかったからだ。


 『落とし物』ならぬ『落とし奴隷』って……一体どこに届け出ればいいんだ? 僕には皆目見当もつかなかった。


 そこで僕の平々凡々頭脳で思いついたのがギルドだったんだ。


 この子を引き取ってもらえないかな〜〜と思ってね。





 しかし、ここで……



 僕はとんでもない事実を知る事になる。





 遺留品を少女に持たせ受付に行って来るように言いつけた。一応しばらくは遠くから様子を伺っていた。

 捨てられた少女を拾ってしまった手前、僕にも責任は少なからず……ほんと極少量……あるはず……?

 だから、なるべく彼女には良い結末が訪れて欲しい。そう思う僕の責任感から、確認だけはと思ってしばらく居座っていたんだ。


 すると……


 程なくして、彼女はトボトボと戻って来る。



「あのぉ……」

「……ん? どうだった? ギルドはなんて?」

「実は……」



 彼女は僕とは目線を合わせず、両手人差し指をくっつけて申し訳なさそうにしていた。挙動不審を絵に描いたような姿だ。


 一体何を言われたんだ〜っと思っていれば……



「この子を拾ったのは、もしかして君?」



 ギルドの制服に身を包んだお姉さんが少女の背後から現れた。いきなりなんだ〜と思って周囲を見てみたが、僕以外めぼしい人物は居ない。どうやら僕に語りかけているようだ。



「——え?! えぇ〜と……そ、そうですけど……」

「なら、ちょっと話いいかしら?」

「……え?」



 お姉さんは何やら僕と話があると言う。嘘だろ? 

 できれば手短にして欲しいな。

 僕はヘトヘト、オマケにお腹はペコペコ、今すぐにでも帰りたい気分なんだ。


 なのに捕まった……


 ダンジョンで奴隷を拾うものじゃないなぁ……と、少し後悔した瞬間だ。

 


「この子から一通り話は聞いた。そこで魔力情報をギルドで調べたんだけど……管轄がワァール王国だと分かったの」

「……ワァ……え? なに??」

「知らないのも無理はない。小さな国だもの」

「はぁ……? それで、その国が何か? 僕に関係ある話ですか?」



 お姉さんの話に耳を傾ける。

 受け答えしちゃったし奴隷を拾ったことも咄嗟に認めてしまった。

 今から逃げる——という選択肢は流石にもう使えないだろう。

 さて……遠くから傍観していた意味とは、一体なんだったんだろうな?

 ちなみに、今の僕は黒い外套を脱ぎさっている。ただのウィリアに戻っていた。



「奴隷に関する管理上のルールは処理をした国の規則が順守されるの。この子の場合は、さっき言ったワァール王国って場所。奴隷の扱いが劣悪で道具としか思ってない国風でね。この子はつまり道具と同じよ」

「ど、道具と……同じ?」

「あのね〜君。私のこと変な目で見ないで。私達が居るこの国だと奴隷にも人権がある。だから私だって自分で言ってて良い気はしてないのよ」



 僕は思わず表情を顰めた。だって幼気な少女を道具だなんて……胸糞が悪くなるじゃんか。

 だけどお姉さんは僕の顰めた顔を見て怒った様子で物申した。この時の彼女は奴隷少女を抱きしめて頭を撫でている。「道具」との言葉は、心にもない発言なのは今の様子を見れば分かる。

 お姉さんは、どうしてもそのことを否定したかったのだろう。



「そこでこの子の所在だけど……さっき主人の遺留品を確認した。痕跡からヘルハウンドに襲われたみたいね。この子から簡単に経緯も聞いて、男のギルドカードの魔力残滓も拾って死亡も確認したわ」

「そ、そうですか。ぼ、僕はたまたま彼女を拾っただけなのでギルドで彼女を預かってもらえれば……」

「そう! そこなのよね!!」

「——ッえ?」



 突然——お姉さんの声が跳ねる。僕も思わずそれに釣られて声を溢し、お姉さんに抱きしめられた少女もビクッと驚いている。


 なんだろう……すごく嫌な予感がするぞ?



「冒険者がダンジョンで死亡した場合。所持品ってどうなるか知っている?」

「いえ……く、詳しくは……」

「答えはロストアイテムとして拾った冒険者のモノになるよ。ギルドに落とし物として届け出てもらう必要があるけどね」

「だ、だから……?」

「この子は『道具』だってさっき言ったでしょう? だから……」

「つまり……彼女自身が落とし物だと?」

「——そう! その通り!」

「……嘘でしょう?」



 なぜ、このお姉さんは揚々と語ってるんだ? オマケに笑顔でビシッと僕の顔を指さしてきて。



「ワァール王国でもダンジョン内での死亡によるロストは発見者に全権が渡るとあった。だから……と、その前に君、名前は?」

「うぃ……ウィリア……です」

「ウィリア君ね。私の名前はクルア。気軽にクルア姉さんって呼んで良いわよ!」

「はぁ……」

「ちょっと受付まで来てくれる? 拾った経緯を詳しく聞かせてちょうだい。あと、書類に……ってちょっと待って?! ヘルハウンドは11階層以降に出る魔物だけど……君、そういえば昼間に仮冒険者のギルドカード受け取ってた子よね? 身体が小さいからよく覚えているのよ。こんな小さな子が合格だなんてって……。それに今日の試験合格者は2人しかいなかったし。あれれ〜〜おかしいわよね? どうして仮冒険者の君が……11階層なんかにいるのぉ〜〜?」

「うわ……やっべぇ〜〜」



 こうして……


 5階層の駐屯地を乗り越えて、こっそりとダンジョンに潜っていたことがばれ、こっ酷く叱られた。オマケに沢山の書類にサインもさせられ帰りは真夜中になってしまった。


 どうしてだ……どこで選択を間違えた?!


 途中まで順風満帆なダンジョン攻略ができていたはずだが……なんでこんなことに?!



「だ、大丈夫……ですか?」



 心配してくれたのは、ダンジョンで拾ったこの子だけ。彼女の口調は辿々しかったが、それでも懸命に慰めの言葉をかけてくれる。なんともまぁ〜〜健気だよね〜〜。


 だけどさ……そもそも君だよ? 原因!!


 君を拾ったから面倒事になってるんだよなぁあ?


 まぁ〜声に出してツッコんだりしないけど。こんな小さい子責めるなんて可哀想だし。


 てか……


 これ、この後どうなるんだろうな? 


 僕は……?


 そして、この子は……?!


 








 


 


 



 



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