表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第4章 僕が【死を縫い付ける裁縫師《デス・テーラー》】と呼ばれるようになるまで
146/181

第145話 私のご主人様を知りませんか?

「うそ……? 異常種を……たった1人で倒したの? それも……こんなに簡単に……?」



 勝利を確信するとレイピアを影にしまう。すると僕の耳は少女の慄く声を拾っていた。その声の出所にいたのは先程の少女だ。ミノタウロスに襲われていた蒲公英のような髪色の彼女。前髪から覗く金色の瞳は大きく見開いている。その様は僕が繰り広げた一部始終を瞬き1つせずに見届けていたようで、驚愕の色にそまっていた。僕は彼女の存在に気づくと、ゆっくりと近づいて行く。



「ほらね? 大丈夫だったでしょう? もう安心していいよ」

「——ヒィイッ!?」

「…………」



 すると、近づく僕に少女は短い悲鳴を溢して這って後ずさった。人畜無害クソガキである僕としては凄くショッキングな反応である。

 少女に怯えられ——僕のガラスのハートにヒビが入った気分だ。



「——うぅ……ご、ごめん。こ、怖かった……よね? えっと……そのぉ……本当、ごめん……」



 こういう時なんて声をかけていいんだろうか?


 僕は、とりあえず『ごめん』と謝ることしかできない。情けないことにな。

 別に悪いことは何もしてないんだけど……これは心に降りかかったダメージが原因か?

 いや、こういう場面で気の利いたセリフを掛けてあげれるようなら、僕は実の妹に嫌われてないんだろうな。

 僕には妹が2人いるんだけど、ほ〜〜んと汚物を見るような視線で僕のことを見てくるんだ。

 目の前にいる少女の怯えた瞳を見た瞬間、田舎に居た頃の情景がフラッシュバックしたよ。



「——ッ!? ご、ごめんなさい! わ、わたし……助けてもらったのに……ごめんなさい。お、お兄ちゃん」

「……ッ。お兄ちゃんかぁ……そうかぁ……はぁぁ……」

「……?」



 すると、落ち込む僕の姿に少女の瞳は怯えから驚愕へと変貌していた。ようやく、自身の態度が人の心を傷つけていたんだと気づいたみたい。


 だがな……


 また、別の意味で僕の心が傷ついただなんて……この子は知らないだろうな。



「まぁ……いいや。ところで君、名前は?」



 気を取り直して……


 とりあえず彼女の名前を聞いておかなくては。この子のこと、なんて呼んでいいのかわからないしさ。


 だが……



「私は……『オマエ』です」

「……え? オマエ?? それは名前じゃないだろう」

「ご主人様は、そう呼びますから……」

「あん? ご主人様?」



 なんだろう。僕、別に難しいことを聞いたわけでもないよな?

 なのに、どうして僕はこんなにも困惑してるんだろうか?

 『オマエ』? 『ご主人様』? なんのことだこれは??



「——ッあ!? そうです! そういえば! 私のご主人様を見ませんでしたか!?」

「だから、その……ご主人様ってなに?」

「あぁ……私、実は奴隷なんです」

「奴隷?」



 仕方ない。ここは少しずつでもいいから理解を広げていこう。

 まず、彼女の口にした奴隷——どこかのお嬢様が物好きにもやってたような職業か?


 まぁ〜冗談だが……


 奴隷——それは買われて道具のように扱われる人間のこと。それぐらいは知ってる。


 まさか……こんな小さい子が?



「私はご主人様を逃がすために囮になったんです。ご主人様を知りませんか?」

「いや……知らないよ。どんな人なの?」

「えっとぉ……こんなです!!」

「……ごめん。さっぱりわからん」

「——ええッ!?」



 奴隷の少女は手を大きく広げてワタワタとしていたが、抽象の度がすぎてサッパリ分からん。

 その姿は可愛らしいんだけど、僕の心は困惑が優ってしまって、ついツッコミを入れてしまった。

 だが、唯一伝わったこともある。

 彼女のジェスチャーは顎の部分を触っている。そこでピンッときた。



「さっき顎髭を蓄えたオッサンが駆けていったけど……ロングソードを背負った」

「——ッ!? きっと、その方が私のご主人様です! その方は一体どこに行きましたか!?」

「どこって……アレは……」













「もしかしてだけどさ。あの赤く染まった汚ねぇ〜コートに見覚えある?」

「…………」

「僕も見た記憶があるんだけど……」

「…………」

「おいおい……まじかよぉ……」



 少女の質問に応えるべく、僕は彼女を連れてオッサンが走り去っていた通路へとやってきた。すると、遠い場所からでも分かる魔物の群れを確認した。

 太い石の支柱が何本も等間隔に並んだ広い空間——その一角にそれは存在している。

 散乱するカバン、投げ捨てられたロングソード、血塗られたコート、そして周囲には無我夢中で床の血を舐める赤黒い狼たち——僕はこの状況に心当たりがあった。今は柱の1つの影に隠れて状況を観察しているのだが、一緒にこれを確認している奴隷の彼女は無言である。つまり、この子も僕と理解していることは同じなんだろう。


 さて……これを踏まえて、僕はどうするべきなのかな?


 笑えばいいんだか?


 悲しめばいいんだか?


 はたまた哀れめばいいのか?


 言っておくけど……僕は気の利いたことなんて言えないからね? さっきの状況見てたでしょう? 『ご主人様を失った奴隷少女に何て言葉を掛けてやるか?』なんて難題——田舎製のクソガキになんて答えられるわけないでしょう?


 本当に面倒臭いことになった。


 奴隷少女(この子)どうしようか??


 誰か僕に……


 この厄介な問題の解決方法を教えてくれぇ……














ウィリア……ダンジョンで奴隷を拾う。


さて……


彼は彼女をどうするんでしょうかね?

ウィリアの行動をお楽しみに〜♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ