第142話 魔法が使えるようになったんだぜ!
マジで危なかった。
ダンジョンの中で女の子が襲われてたぞ!?
僕の目がその現場を捉えた瞬間——思わず飛び出していた。だって、んなもん『なんとしても助けなくちゃ!?』って思っちゃうでしょう!?
僕だって、ちゃ〜〜んと血の通った人間なんだよ? 人助けはするんだからな!?
面倒くさいことには首を突っ込まないし、自業自得な奴は天罰が落ちればいいとまで普段から思っている。自分のケツは自分で拭いてくれってヤツだ。
例えば〜〜1人無謀にも魔物の群れに雄叫びをあげて突っ込んでいくやつとか。ソロでボス部屋に突撃する奴とかさ! 『それで死んだらテメェ〜の責任だろう?』って考えちゃうでしょう?
……え? 僕?!
僕は……ほら……叫んでゴブリンを追いかけ回したり、ボス部屋にフラフラ〜っとソロで突っ込んだり……一見無茶なことはしてるようだけど僕って自分のケツは自分で拭けるタイプの人間だからさ。
なんせ神器を持ってるんだから!
ちょっとの無茶は無茶の内に入らないのさ。
もし……仮に不測の事態に遭遇したのなら?
それは仕方がないことさ。その時は甘んじて死を受け入れるとも。だって、力のない僕がいけないんだから。せめて、全力で逃げるか、苦しまずに死ぬようにだけ努力してみせるよ。
まぁ〜〜今はそんなことはどうだっていい。そんなのは直面してから考えよう。それが、いついかなる時に訪れるかなんて誰にもわからないんだからさ。
それで、話は戻るけど……
女の子を襲っていたのは二足歩行の牛だった。ミノタウロス——ってやつか? 2メートルを超える巨体に、手には僕の丈はありそうな手斧を持っている。絶対、僕には扱えそうにもなさそうな武器だ。
そして、その化け物は今まさに手にした凶器を振り下ろすところだ。尻餅をついて恐怖に震えた小さな女の子に向かって。今まさにその瞬間を目撃したんだ。
僕はその途端、全速力で加速する。脚に力を込めて飛んで駆ける。本当に宙に浮いているんじゃないかと思えるぐらいに……いや、もう実際飛んでると言っても過言じゃないのかもしれない。
「——影の加護」
それは、僕の唱えた祝詞に秘密がある。
〜〜レベルが上がりました〜〜
Lv.6>Level up!>Lv.10
——レベルがLv.10になりました。
>>>魔法【影の霊気】を覚えました。
>>>魔法【影の加護】を覚えました。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
♢ウィリアステータス♪♢
神器所持者【ウィリア】Lv.10
神器【虚と影】 Lv. 30《MAX》
攻撃 Lv.3 技量 Lv.3
魔力 Lv.7 魔防 Lv.7
速度 Lv.5 運命 Lv.1
抵抗 Lv.4
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【技術】・投擲(弱) ・刺突(弱)
・剣術(弱)
・糸術(弱)
【魔法】・影の魔力球(笑)
・魔装(弱)>Level up!>影の霊気 《new !》
・影の加護 《new !》
【魔技】・虚影 ・影移動
・影縫い
・影の蝶 ・誘い蝶
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10階層のボスを倒した瞬間——僕のレベルは跳ね上がっていた。
一気にレベル10まで上昇し新たな能力【魔法】を手に入れた。ついに、僕も魔法が使える日が訪れたのだ!!
これは不幸中の幸い——女の子を襲う悪い魔物を退治するのと、ついでに魔法の試運転をしようじゃないか!
今唱えたのは【影の加護】という魔法だ。ヴェルテが【風の加護】とか言って魔法を発動させていたと思うけど、それの影の魔法版って感じかな?
その肝心の効果は『物体の質量を軽くする』だ。要は身体が軽くなるというモノ——体感としては、僕は石の通路を駆けているんだけど、廊下の奥目掛けて落下していると勘違いしてしまいそうな勢いで飛んでいる。力みすぎると危うく天井に激突してしまいそうだ。ただ、その場合は天井を蹴るだけで良いんだけれど……今度は方向感覚を見失いそうだ。一見ショボそうな魔法だけれど、身体能力と合わせれば脅威的な加速とトリッキーな動きができそうだ。
ちなみに……
他人や無機物にも掛けてあげることはできるが、自身に掛けるより遥かに魔力消費が激しいので神器無しの世の人々にとっては行使は難しいのかもしれない。
そして……
僕は勢い任せにミノタウロスの横顔に蹴りを入れた。この時のポイントは、インパクトの瞬間魔法を解除すること。でないと体重が軽い状態でぶつかることになる。それだと衝撃は対象に対して伝わらないからね。
「ふぅ〜〜……さて、大丈夫だった君?」
「——ッえ? う、うん……」
魔物の巨体は蹴りの衝撃に蹌踉めいて数歩背後へと下がった。コイツは優に2メートルは超える巨体だが、僕の高速正面衝突にはこたえたようだな。
そして見事な着地をキメると魔物と少女との間に割って入り、彼女の無事を確認した。声を掛けてみた感じ問題なく受け答えしていたので、ひとまず安心である。
その子は蒲公英のように明るいイエローの髪色で長さは肩につくぐらいだ。ただ、前髪が長く彼女の片目が隠されている。今はアンバーのように黄金の輝きを放つ左目だけが確認できた。その目尻には涙を溜め込んでいる。相当怖い思いをしたんだろうな。
僕は安心させてあげるために外套のフードを取った。正体が知られてしまうのもそっちのけでな。
だって仕方ないだろう? 僕は怪しげな外套姿だったんだ。少しでも安心させたいと思ってしまったんだもん。もう無意識下でフードを取ってしまっていた。
「やべぇ?!」と思った時にはアクションを起こした後だ。
やってしまったものは後悔しても仕方ない。この子にはここで見た事について後で説明して黙っていてもらおう。
さて……そんなことよりも……
まずはコイツをどうにかするのが最優先だ。
というのも……
「——グォオッ!!」
「——ッ! 危ない!!」
「——きゃあッ!?」
突然、僕たち目掛けて凶器が落とされたんだ。