第141話 ワタシはまだ すがっても いいんですか?
「はぁ、はぁ、はぁッ——」
早くなる私の呼吸。
ズンッ——ズンッ——ズンッ——!!
目の前にいる化け物が私に近づいてくる。この時の重量感のある足音が私の耳に届いて、1回、2回、3回と、鼓膜に響いた数だけ鼓動は激しく脈動する。
呼吸もそれに合わせて早くなる。もう、私の肺は息をするのもままならなくなり胸が苦しかった。
だけど……
そんなことはもうどうでもよくて、私はただ恐怖に支配さた。ただ呆然と目の前の化け物に怯えることしかできない。
怖い……
怖い……
「——ッグラァア!!!!」
「——ヒィッ!?」
——ッ怖い!!
誰か……誰かァア!!
——助けてッッッ!!
魔物は手にした斧を大きく、ゆっくりと振りかぶった。天井に向かって高く持ち上がったそれは、きっと私に振り落とすためなんだろうな。私をただの肉塊に変える一撃を放つため。
私は役立たずだ。
昔から……そして今も……
ご主人様に捨てられて、今はこうして囮として魔物と向き合っているんだけど……私はこんなことでしか役に立てない。
そもそも、私がトロイからご主人様を危険な目に合わせちゃったんだ。
だから……これは罰——
ダメな私は、ダメな私なりに役にたたなくちゃいけない。
それでしか私は認められなくて、私の生きる価値はそれでしか証明できない。
うん……結局、これでいいんだ。
ご主人様はきっともう逃げ切れてるはず。私の役目は終わった。このまま凶器に潰されて私の人生に幕を下ろす。ダメダメな私が役にたったの。だからもうここでお終い。
バイバイ……
って、素直に手を振ってこの世とお別れできたらよかったんだけど……
「いや……いやぁ……」
私、気づいたらポロポロと涙をこぼしていたの。
もう……諦めたはずなのに……
これ以上、生きてたってロクなことがないのに……
ここまでで終わりだって分かってるはずなのに……
ポロポロと泣いて譫言を溢していた。
私……なぜか悔しかったの。
諦めたくないって思っちゃったの。
もうどうしようもないのにね。
「だ、誰か——ッ助けてぇえ!!!!」
諦めたくなくて……気づいたら叫んでた。誰も私なんか助けてなんてくれないのに。こんな私なんて……
でもその時——
奇跡がやってきた。
「……グルッ?」
「……え?」
魔物は突然何かに気づいたように私から視線を外した。何やら通路の奥を見つめている。
私は最初『何を見てるんだろう?』って不思議に思っちゃった。
だけど僅か数秒後——魔物が見続けてた正体が分かった。
「…………ッ……ぉぉぉ〜〜らぁぁぁ〜〜あッッッ!!」
突然、通路の奥から絶叫が飛んできた。
そこで現れたのはカラスだった。いえ……思わず、そう錯覚してしまった。そうだと勘違いしてしまったのは、その子が漆黒の外套を纏っていたから……バタバタと裾を靡かせて通路を滑空するかのように魔物目掛けて飛んできた。側から見れば大きな漆黒の巨鳥が飛んできたよう。だから間違えちゃった。
やがて……
「——オラァアアアッッッ!!」
「——グモォオ!?」
外套纏ったその子は魔物に激突した。魔物の顔面目掛けてキックして、その衝撃からか魔物はよろめいて私から距離を離す。
そして……
「ふぅ〜〜……さて、大丈夫だった君?」
魔物と私の間に割って入ってくれたその人は、フードを取ってニカッと笑っていた。その素顔は優しそうな男の子だったの。
この人は幽霊なのかな?
だって……ここに子供がいるのは可笑しい。でも……巨体の魔物を大きく退けるなんて、凄い人なんだって思えた。
この人は……私を助けてくれるの?
まだ私は、すがってもいいの?
私の心はまた1つ揺れる。
その人は、真っ黒な外套を纏っていたけど、不思議なことに……
とっても……とっても……
輝いて見えたんだ。
幽霊だなんて失礼だったよね?
この人は一体、誰なんだろう?
【第3章 ダンジョン攻略は思いがけない出来事の連続】
——閉幕——
突然ですが!
3章終了!!明日から4章!
本当は3章の区切りをもう少し先にする予定でしたが……話数が思いのほか増えてしまったのでここで一旦区切らせていただきます!
ポッピーの登場事態、思いつきの即興やったんや!許してくれ!
では——
4章でも、ウィリアの活躍にご期待を——!
ウィリア奴隷を拾う!の巻!