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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第3章 ダンジョン攻略は思いがけない出来事の連続
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第131話 彼にとって信用できる大好きな後輩

 驚愕するシャルアは驚きのあまり素っ頓狂な悲鳴を上げてしまう。



「く、く、く、クルト先輩ッッッ!?」

「どうしたの? 地面なんかに座り込んで?」

「——ッ!? にゃ、にゃ、ニャンでもニャいでしゅッ!!」

「……?」



 背後に居た人物とはシャルアの先輩であるクルトだった。

 座り込んだシャルアを心配してなのか、振り返るシャルアは訝しむような面持ちで覗き込んだ彼の姿を捉える。

 これにたまらずシャルアは飛び跳ねるように立ち上がる。大慌てでお尻の埃を払う素振りを見せた。

 この時の彼女は動揺を隠せず、心配させまいと口にした言葉はカミカミだ。心なしか頬も赤く、今の彼女の姿は可愛らしくさえもある。

 この奇妙な姿にクルトは首を傾げた。彼の懐疑心が増した。



「クルト先輩ッ——な、なんでここに?」

「なんでって……ルアちゃんが心配だったから探しにきたんだよ」

「私を……探しに??」

「だってルアちゃん。いつまでたっても酒場に姿を現さないし」

「——ッ!? それは……すいませんでした。そ、それにしても……よ、よくここがわかりましたね」

「ルアちゃんが消えていった方角に向かったら断崖に氷柱を見つけてね。きっとここだろうと思ったんだよ」



 突然、背後に現れたクルトだったが、彼の目的はいつまでたっても戻ってこないシャルアを探すことだった。それもそうだろう。シャルアが森に消えていってから30分以上は経過している。同じクランメンバーとして、これを心配しないはずがない。



「それで何かあったの?」

「——ッ!?」



 当然、クルトは本題を切り出した。シャルアの身体がビクンッと反応する。


 地面に座り込み——


 腕を天高く突き出し歓喜して——


 慌てて取り繕おうとする赤面の少女——


 行方知らずの仲間がこんな様子で見つかれば誰だって思う疑問だろう。



「——クルト先輩! 実は今ッ……!?」



 ここで、シャルアの声が跳ねた。クルトの「何があった?」との質問に答えるべく今まさに自身が体感した内容を語ろうとする。

 あの『影に縫い付け拘束する可笑しな技を使う怪しい外套男』について……。

 


「今?」

「……あッ……えっとぉ……いえ……ごめんなさい。な、なんでもないです……」

「——ッ? 本当に?」

「えッ、ええ……。ここでは何も有りませんでした」



 だが、シャルアは“怪しい人物”についてクルトに伝えなかった。


 それは、なぜなのか……?


 いや……当たり前だ。彼女は言えるはずがないのだ。


 追いかけた怪しい人物とはまさかの子供。得意げに取り押さえようとすれば反撃され、赤子の手を捻るようにシャルアの攻撃をあしらい。逆に拘束され戦闘のダメ出しまでされた。


 こんな恥ずべき報告をするなんて考えられなかった。



「ふむ……」



 シャルアの顔色を伺うクルト。顎に手を当て思案する。

 シャルアの様子は明らかにおかしい。これは誰だって気づける。

 彼は、それが分かってながら次のアクションを熟慮しているのだろう。


 そして……



「うん。分かったよ。それじゃあ行こっか?」

「……え?」

「いつまでもこんなところに居たって仕方ない。駐屯地に戻ろう」



 クルトは一瞬でケロッとしてみせると、笑顔でシャルアに呼びかける。



「……き、聞かないんですか?」

「ん? なんで?」

「なんでって……」



 だが、クルトの反応は異常である。シャルアにはそれが分かっている。

 シャルアにとってクルトとは口達者で、煩くて、アホで、変態で、軽蔑すらする相手だが——それでも馬鹿ではない。

 シャルアは動揺する自分を上手く隠せている自信はほとんどない。明らかに挙動不審だ。

 てっきり追求されるものとばかり思っていた。

 クルトは先輩であると同時に上司だ。彼が本気のトーンで追求を持ち掛ければ、シャルアは自身の羞恥の事実を赤裸々と語らなくてはならない。内心これに恐怖していた。

 だが……クルトは一瞬考える素振りを見せただけだ。いつも通りの気持ち悪い(シャルアにとって)笑顔を浮かべたお茶目(ウザイ)彼に戻っている。



「ルアちゃんは僕のことを凄く嫌ってると思うんだけどさ。僕にとって君はねクランとしての大切な仲間で信用に当たる大好きな後輩の1人なんだ」

「だ、大好きって……」

「後輩としてね。他意はないよ?」

「と、と、当然です! そんなの——わ、分かってましゅ!?」

「ふふ……そうかい?」

「ナニ笑ってるんですか!? 気持ち悪いですよ! そ、そ、それで先輩は一体何が言いたいんですか!」

「つまり、僕は君を信用してるってこと」

「——ッは? 信用……?」



 クルトの言葉選びに赤面して吠えるシャルアだったが……


 「信用」——この単語を聞かされると、静寂に収まる。シャルアは彼の次の言葉を待った。



「だから、ルアちゃんが何か隠してたって『言いたくない』『報告の必要がない』と判断したのなら、それを信用してその判断を尊重するよ。僕は君を信用してるんだから」

「私……いつも悪態()いますけど……こんな私を信用できるんですか?」

「それは……まぁ、僕にも悪いところがあるし。君を怒らせてしまったツケかな? でも、口では色々言ってても、それは闘争心の現れでさ。君の性格でもある。それだけで人格を否定したりしないし、信用を失うことにはならない。ルアちゃんはなんだかんだで良い子だって……僕は知ってるからさ」

「…………」

「だからもし……僕が信用できるようになって、話しても大丈夫だって思ったら、その時に改めて話してよ。いつでも相談には乗るから。ね?」



 クルトはシャルアへと近づき、おもむろに手を彼女の頭にポンッと置いた。それは妹を可愛がる兄のような光景だった。



「——ッ!? ッと、ごめん! 僕に触られるの嫌だったよね。悪気はないくて……」

「……うんん。気にかけていただき、ありがとうございます」

「……え? あれ??」



 だが瞬間でクルトは「ヤバい!?」と思った。手を引っ込めて大慌てで謝罪を口にする。


 しかし……



「行きましょうクルト先輩。()()()()奢ってくれるんでしょう?」

「……え?」



 シャルアは何故か大人しかった。1つ『ふぅ〜』と息を吐いたかと思えば駐屯地を目指して歩いていってしまった。



「どうしたんですか? 先輩? 惚けた顔して見つめてきて……私の顔に何かついてます?」



 シャルアは、その場で固まったクルトを気にして振り返って呼びかける。彼は、惚けた顔で立ち止まってシャルアを見つめていた。



「え? いやぁ……ルアちゃんが罵ってこなかったから、不思議で……」

「はぁあ?!」



 クルトがシャルアの頭を触ろうモノなら『気持ち悪い』『気安く触れるな』『帰ったらすぐシャワー浴びないと!?』とでも、罵声の雨あられを浴びるのは必至だ。

 にもかかわらず、彼女は柔らかい表情のまま謝意を口にしたのだ。

 これはありえない珍事である。

 クルトのこの反応も不思議ではないのだ。



「なんですかクルト先輩。罵って欲しいんですか? え? 変態であって、さらにマゾなんですか?! どうかしてますよ!!」

「——うはッ♪ いつものルアちゃんだ!」

「なんで笑って喜んでるんですかぁあ!?」

「凄く落ち着く〜〜あはは!」

「き、気持ち悪い……」



 クルトの反応に思わず悪態を吐くシャルア。

 だが、彼は罵声を浴びながらも何故か破顔している。

 その矛盾する感情にシャルアは顔を顰めて薄気味悪く思うも、今の彼女は先輩のこの反応によって、すっかりと元の自身の調子を取り戻し始めたのだ。

 心なしか彼女の表情も柔らかかった。





 ただ……






(それにしても……アイツ。黒外套は一体何者? あんな実力がある人物に心当たりはない。あんな闘い方する奴が世に知られていないはずがないし。謎だわ。——ッチ! 思い出すと腹が立ってきた。だけど、アイツの動きは完全に覚えた。もう次はないんだから! 見つけたらタダじゃおかない!!)



「(黒外套に会ったら)次はコロス……」(ボソッ)

「——ビクッ!?」



(ルアちゃんの反応が変なのは……やはり怒ってるから?! パンツか? パンツがいけなかったのか!!??)



 シャルアは、小さな胸の中に大きな闘志を燃やし、ボソッと呟いた彼女の言葉を拾ってクルトは終始怯えるのだった。








 

 


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