第128話 はい僕の勝ち!
「……え?! なんでッ——う、動けない!?」
魔技【影縫い】——対象者の影に神器を突き刺すことで、影へと縫い付け拘束する技。
動きを封じられたポッピーに動揺が走った。
彼女の氷の魔弾は、弾は小さく消費魔力はおそらく少ない——これにより持久力はあると思うが、それ以外の目的として保有魔力が少ないのを誤魔化しているようにも思える。
魔技【影縫い】の拘束時間は、相手と僕……2人の保有魔力の差で決まる。あとは、影に刺さった神器の本数と刺さった深さだ。1本より2本の方が拘束力が強いし、地面に深く突き刺さっている方が尚いい。
ポッピーの見た目はまだ若く(実際いくつか分からんけど)、レベルはたぶんMAXではないと思う。それに加えて散々魔力弾を撃ちまくっていれば……彼女の魔力はかなり消費されていることだろう。
それに対して、僕は魔力という魔力は使ってない。断崖を登った時の魔技【虚影】そして今使った【影縫い】だけ……消費魔力はこの2つ。僕にとって大したことはなかった。今の状態なら、最低でも1分ぐらいは拘束できるのではなかろうか? レイピアだって2本とも思いっきりぶっ刺してやったから、猶予はさらに余裕があることだろう。
ちなみに……技を多様しなかったのは、単に情報公開をしたくなかったから——いつなんどき、ポッピーが僕の前に立ちはだかるか分からないから、その時のための備えだ。
「うぅ〜〜ックソ! なんで動けないのぉお!!」
案の定——ポッピーは身動き1つできやしない。て言っても足が地面にくっついてる感じで、技を喰らった直後は身体が膠着するものの数秒で上半身は動かせたりする。実際彼女は頑張って足を引っ張ってるけど地面から離れてはくれない。
僕はその様子を確認するとゆっくりと近づいて行く。
「——ッ!? こ、来ないで!!」
これに気づいたポッピー。僕を睨むと腕を突き出す。
「——ッ氷の槍!」
すると手先に拳大のツララを形成し射出される。
武器が吹き飛ばされ足が拘束されてしまえば、とらざるを得ない行動とは武器無しで魔法を撃つことぐらい。その行動選択は絞られる。
だが、これは悪あがきだ……【銃剣ガン=グラディウス】を介した氷弾に比べれば視認しやすいし、速度も遅い。
こんなの僕は目を瞑ってでも避けられるだろう。
……いや、うそ! 視認はしたいやっぱり……!
だが、容易く避けることは可能だ。歩きながらも身体を逸らして易々と避けて見せる。
レイピアで受けないのは、氷柱が大きく形成されているから。砕け散った氷が仮に身体に当たったりすれば痛そうじゃん。だから避けるんだ。
風の刃を乱したり、小さな礫を砕くのとは違って、二次被害を警戒したからこその行動選択である。
「——ッ氷の槍! ッ氷の槍!! こないでよぉお!! この変質者ッ! 変態ッ!!」
ポッピーは必死に魔法を放つ。
てか『変質者』『変態』呼ばわりですか……最初に攻撃してきたのはそちらでしょうに『強襲者』!
しかし、心なしかポッピーの毒舌にキレがないな。本気で狼狽しているみたいだ。アホみたいに魔弾を放ってくる。
と、そんなにバカスカと魔法を撃ってしまえば……
「——ッ氷の槍!」
——ぷすんッ!!
「……え? ッ氷の槍!? ッ氷の槍!! 嘘でしょう?!」
ついには氷は形成されなくなった。魔力切れである。普通に考えれば当然だと思うが、ポッピーの表情を見れば予想してなかったみたい。何度も呪文を叫んでいるが、氷は形成されてはくれない。
「……ッひ!?」
ついに僕は目と鼻の先にまで到達した。ポッピーから乾いた悲鳴が鳴る。
「……う、うわぁあッッッ!!」
だが、負けじと拳を握って僕に振りかざす……が、僕はポッピーから絶妙に届かない距離で立ち止まっていたため、拳は空を切った。
「——あわわ!? きゃあッ!!」
するとバランスを崩して背後に尻餅をついて倒れてしまった。足が影縫いで拘束されているから前に空ぶって、体勢を戻そうと反ったらそのまま背後にドンッと倒れた感じだ。
「きゃあ!?」なんて言っちゃってぇ〜〜女の子らしい声も出せるんだね?
それと……『赤』かぁ……幼い容姿の割には大人〜〜なのを履いてらっしゃる。
「……いたた。——ヒッ!?」
僕は倒れ込んだポッピーを見下すように見つめていた。お尻を摩って痛がってた彼女だが……不意に顔を上げた瞬間、その表情は固まり瞳に恐怖が滲む。
そして僕はおもむろにレイピアを一本抜く——ポッピーの魔力はほぼ0だ。1本抜いたところで拘束は解けやしないし、拘束時間も伸びている。
魔技【影縫い】を食らうと、慌てて魔法で迎撃してしまいたくなるけど……なるべく手持ちの武器で凌ぐ——か、可能ならレイピアを自力で抜くのが正解。魔力が減れば、影縫いへの抵抗力が減って、拘束が解けづらくなっちゃうからね。
そして……
ポッピーの怯え顔に一筋の影がかかる。僕は手にしたレイピアを天高く掲げたんだ。
……何故かって?
それは、ここまで僕に散々迷惑をかけてくれた彼女に、1発お見舞いしようと思ってさ。
「——ッッッ!?」
レイピアを振り下ろす。
ポッピーはその瞬間、何かを悟って激しく目を瞑る。悲鳴を漏らすと手で頭を押さえて防御の構えだ。レイピアが一体何処に向けて落とされるか——その行き先がわかったからこそのせめてもの抵抗で身構えたんだろう。が、少女の柔肌で、刃が防げるわけがないだろう? ほとんど反射的な行動みたいだ。
ただ……
「——あぃたッ!?」
実際、刃を突き立てたりなんてしないさ。
「……ッえ!? ……ッえ??」
頭を抱えて困惑するポッピー。
「……はい。僕の勝ち♪」
「——へぇえッ??」
僕は、そんな彼女に勝利の宣言を浴びせ聞かせたんだ。
ポッピーVSクソガキ。
堂々——決着!!
クソガキの勝利!次回ウィニングラン?
ポッピーを口でも負かす。