第126話 氷を穿つ反撃の開始
凍りつくレイピア片手の僕に、ポッピーは容赦なく1発の氷の魔弾を発射した。
しかし……
——パキンッ!!
僕に魔法が到達する間もなく、突然空気を震撼させる音が鳴り響く。これは、凍ったはずのレイピアの氷が砕け落ちた音だった。
と同時……
「……はぁあ?」
ポッピーは思いがけずといった様子で声を漏らす。彼女の心も震撼させた瞬間だった。
目を見開く様は、まさに今起きた現象に疑問を抱いているかのようだ。
そして……
僕は彼女に更なる謎を植え付ける。
僕に飛来する1発のポッピーの魔弾。それをレイピアで薙いで切り落とす。この時、先ほどとは違うのは、魔弾を受けた刀身がまったく凍りついていないこと、空間にキンッ——と甲高い音だけを残して小さな礫を砕いたのだ。
「——キッ!!」
この事象に呆けていた顔を一瞬で引っ込めたポッピー。2丁の【銃剣ガン=グラディウス】を僕に向けると再び魔弾の射撃を開始する。一瞬にして弾幕が張り巡る。この時の気の切り替える速さは流石だと言えよう。
だが……
——キッキッキッキンッ!!!!
その全てを僕は切り伏せた。
2本のレイピアを巧みに操って寸分狂わず全てを斬り伏せる。
そして……この間、レイピアが凍ることは決してなかった。
弾けて砕けた魔弾の粒子だけが周辺に飛び散りキラキラと舞う。
いつの間にか発生していた冷気による白い霧と相まって幻想空間を作り出す。さながら僕は、空間の主であるかのように五体満足で立ち尽くしたんだ。
その時——僕は漆黒のレイピアの切先をポッピーへと向ける。
それで『クイックイッ』と、刃を上に跳ねて見せた。『もっとこいよ』とポッピーを煽っているかの動作だ。
「——ッチ! 馬鹿にしないで! 何をしたかわからないけど、私の魔弾を防いだからって良い気にならなで! 私の実力はこんなモノじゃない!」
ま〜そりゃ〜怒るわな。
彼女を観察していれば自ずとわかる。プライドを全身に着込んでいるかのような矜持の塊であるポッピーだ。攻撃を最も容易くあしらって、そして余裕そうに煽ってやれば一瞬で血が頭に上ってしまうことだろう。
「この私を本気にさせたこと後悔させてあげる!!」
ポッピーは横に飛び跳ねて走り出した。この間、魔弾を撃ち出しながら僕を中心に旋回を開始する。
自身の動きも加わることで弾の軌道は予想しづらく、防ぐ難易度は上がったように思える。
しかし……僕にはもう、その技は通用しない……
最初は魔弾を回避したり、レイピアで防いでみたりしていたが……これは正直遊び半分な行動だったんだ。
実践というのは、数値的なレベルよりも遥かに己の力に磨きをかける何よりも重要なプロセスだと思ってる。
たまたま現れたポッピーだったが……そこそこ強そうだったから思わず遊んでみたい衝動に駆られた。
それに、彼女の武器【銃剣ガン=グラディウス】だけど……変わったオモチャも見れたし、とっても楽しい一時だったよ。
あの武器だけど……おそらくアレは『鞘』なんだろう。
ちょっと何言ってんだ? って疑問に思うかもしれない。だが、1つ思い出して欲しいんだけど……遠距離に対し、武器を介して魔法を飛ばしていた人物がいただろう?
【アイリス】——彼女の武器は『剣』だったけど、最も重要だったのが彼女の『鞘』だ。魔力を鞘の中に溜め込んで放出する。こうすることで魔法のような事象を遠くの的まで飛ばしていた。たぶん、ポッピーの持つ変わった筒状の武器も同じ仕組みなんじゃないかな〜って予想してるんだ。
あの筒の中で魔力を溜め込み、摘みを引くと蓋が空いて魔力を放出する。筒状の長物なのは、弾の方向性を持たせるのと、視認しづらい小ささでかつ遠くへ飛ばすためなんじゃないかな? 対象に衝突すると凝縮された魔力が一気に弾ける。そうして周りを巻き込み凍結する。相手の武器を使用不可に追い込む脅威的な攻撃だ。
自身の魔力の性質を理解して、よく考えられた戦闘スタイルだよ。
今、彼女は激しく動きながら僕目掛けて弾を飛ばしているけど……全部僕に命中する軌道だ。この魔法を寸分狂わず当て続ける技術も大したものである。
流石はポッピーだけあるよ。うんうん……
だが……
それは僕には通用しない。
そんなポッピーを上回る僕の方が凄かったのだよ。