第124話 お前のあだ名は“ポッピー”だ!!
「まったく、いわれもない濡れ衣だな。この場所にいるのが怪しいなら、じゃあ君はどうなんだ? 私と同じじゃないか」
「フンッ——馬鹿な質問。私はトップクラン【銀鳥 《アージェントゥム アヴィス》】所属の隊員よ。ここにはダンジョン内の異常調査にきてるの。冒険者ランクも高く、怪しい人物の捕縛も私の任務よ。そう……あなたのような人物をとッ捕まえるのも私の役目なのよ。黒外套!」
取り付く暇もないとはこのことか?
まったく、こんな何の変哲もない人畜無害なクソガキのどこが怪しいんだか?
——って言っても疑われる理由ぐらいはとっくに気づいているんだけどさ。多分、理由は外套だろう。
先ほどから、この“桃色髪の毒舌女子”——う〜〜ん? もう、呼びづらいから“ポイズンピンク”って呼ぼう。略して“ポッピー”だ。
で、このポッピーちゃんだが……僕のことを『黒外套』と呼んでいることにお気づきだろうか?
僕はダンジョンに入る際、仮冒険者試験の時に纏っていた外套ではなくて黒い外套に着替えていた。
この外套ってのは、地下で盗賊と一悶着あった折に拝借して、そのまま返すことを忘れて持ち帰ってしまったシロモノなんだけど……今後、『人畜無害ウィリアちゃん』が人目につきたくない時に使えるかな〜〜と思って影の中に仕舞い込んであったモノである。
ほら、ダンジョンってどんな危険があるかわからんでしょう? いついかなる時でも即対応できるように、常に手には神器は持っておきたいわけで……ただ、神器をなんの変哲もないクソガキが振り回し、異常な力を発揮していれば目立ってしまうわけだ。したがって、神器を出している時は、黒い外套に着替えフードを深く被っていれば正体がバレないと思って、こうして今に至っている。
だが、これが怪しいのなんのと……運悪くポッピーの目に止まってしまったんだろう。
まぁ〜〜外套をシレッとくすねていることは大目に見てほしい。これは殺されかけた慰謝料ってことで。
それに盗賊さんが愛用する外套なんてさ誰も探しに来ないでしょう? たぶん大丈夫だろうと思って影に落とした。
別にめんどくさくなったから〜〜とか……
臭いものに蓋をするように思わず隠した〜〜とか……
そんなんじゃないからね? 本当だからね!?
「急に黙って……諦めた? まぁ〜〜いいわ。無駄な抵抗はしないで、その手にした黒い刺突剣を捨てなさい」
しばらく黙っていると、ポッピーはおもむろにエル字に折れた可笑しな道具を取り出し、その切先を僕へと向けてくる。
一種の装置のような得物。切先と表現したが刀剣の類ではない。筒状の穴が先に開いてる変な金属の長物だった。
ただ、その可笑しな装置をこちらに向け要求してくるあたり武器なのだとは自ずと分かる。彼女の今のポーズとは臨戦態勢の状態なんだろう。あの可笑しな形の道具が一体どんな事象を引き起こすものかまったく理解できないから、今の僕には緊張感に欠けているんだけど。
だからか……
ちょっと強気な姿勢に出てみることにした。
「ふ〜〜ん? 嫌だと言ったら?」
そもそも……
なんで僕が、ポッピーの言うことを聞かないといけないんですかね?
黒い外套を着込んで、崖をよじ登ったら怪しい奴って決めつけが理解に苦しむんだよ。
なら、もし僕の隣にスライム君が居たとしたら? そいつも十分怪しい奴と言っても過言じゃあないだろう?
だから、この子の要求に歯向かう姿勢を見せたんだ。
だって悪いのはポッピーでしょう? 『人相悪い奴が、皆悪者だ!』って決めつけて疑うんだもの! 僕はまだ悪いことなんて何もしてないんだからさ!
ポッピーの言う事なんて聞いてやるもんかよ! って思うでしょう?
すると……
「——ッ。そう……抵抗する気なの。なら……」
ポッピーの眉間に皺がより、彼女の鋭い視線がさらに鋭利に研ぎ澄まされる。
それを皮切りに……
「氷漬けにして連れて行くだけよ!」
ポッピーが手にする謎の装置の切先が青く輝く。
「——氷の弾丸!」
1発の氷の礫が僕目掛けて高速飛来した。
あまりにも急なことだった。
彼女の持つ奇怪な道具、僕に向けられた切っ先が輝いたと思えば、小さな氷の礫が発射された。
「——ック!?」
僕はそれを瞬時に避けると、礫はやがて僕の背後の岩にぶつかってとまる。
振り向いて確認すれば、礫が衝突した岩肌は氷が膨れ上がり周囲を巻き込んで凍結していた。
「良く避けたね。褒めてあげる。無駄な抵抗ご苦労様」
相変わらずポッピーの毒は治まることを知らないが、僕はそんな言葉にムッとする間もなく茫然自失と凍った地点を見つめた。
「どう、驚いた? 私の魔法は?」
「……魔法?」
「そう。私のこの武器は銃剣。その名も“ガン=グラディウス”って言うの。魔法を小さな弾状にして射出する武器よ」
「……じゅうけん? ガン=グラディウス……」
僕の視線はポッピーの誇らしく語る解説に惹かれ、手にする武器【銃剣ガン=グラディウス】なるモノに固定される。
確かに、今の僕は驚いている。
彼女の持つ道具がまさか魔法を打ち出す武器だったなんて思いも寄らなかった。
筒の先が一瞬青く光ったかと思えば親指ほどの大きさの礫が射出され、高速で飛来する。僕はなんとか目で追うことはできたが、その速度はなかなかのモノだ。通常の魔力弾よりは遥かに速い。
今は、1発だけの魔力弾だからよかったがこれが連発でもされたら厄介だ。
と、思っていたらだ。
「惚けているところ悪いけど……加速させるから」
「……え?」
「頑張って足掻いて見せなさいよ」
僕は目を疑った。
ポッピーは無情に言葉を吐き捨てると、おもむろに【銃剣ガン=グラディウス】を取り出した。
そう……もう1つの……
「……は?」
「つまらない人は皆……一瞬で凍っちゃうんだから!」
そして……
僕に向けられた2丁の武器は、待った無しで青く輝くとともに氷の魔弾幕をお見舞いするのだった。