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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第3章 ダンジョン攻略は思いがけない出来事の連続
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第122話 先輩に降りかかる『社会的な死』と『散財』

 しばらくヒエヒエの追いかけっこが続いた。


 互いに息を切らした頃合いでキリがないと悟ったシャルアが諦める形で決着がつく。



「ハァ、ハァ……もういいです……」

 

「……え!? 許してくれるのかい? ルアちゃん?! ありが、と……」

 

「許しませんよ? 後でリゼレイさんにチクります。女の子のパンツの色をチェックしている変態野郎だって」


「……あれ? えっとぉ……これは社会的な死かな??」


「ほら、行きますよ。クルトせんぱ……ッあ、じゃなくて……クルト変態……」


「——そこ、わざわざ言い直す!? 間違ってないから! 直さなくていいから!! ごめんって——ルアちゃ〜ん!?」



 そして2人は5階層へと到達する。


 もう暴言を吐くことすら億劫になり無言を貫くシャルアを、泣きべそを浮かべながら必死に取り繕うとするクルトが追いかける。

 罵詈雑言を浴びても笑顔を貫いていたクルトだったが、彼にとっては無視をされる方がどうやら心にデカいダメージが降りかかるようだ。

 シャルアは1つ、先輩の扱いについて学習したのだ。



「はい。じゃあ、今日の任務終了ですね。私は早急に報告に戻らせてもらいます」


「……え? そんなに急がなくていいんじゃない? 体動かしたから僕はもう喉がカラカラだよぉ……」


「——ハンッ! 一体、誰のせいだと!?」


「まぁまぁ……そう、目くじら立てないで、食事はダメでも飲み物ぐらいは奢らせてよ。ギルドが経営する酒場があるんだからさ。帰るのは水分補給をしたあとでもいいでしょう? ね?」


「……ん〜〜? まぁ、それぐらいなら……」


「……よしきた!」


「なら、1番高いボトルにしよう〜〜と……」


「……ん? 酒を飲むの? それも高いやつ??」


「そんなに私に奢りたいんだったら散財させてあげますよ。とんだもの好きですよね〜〜先輩って?」


「——ッは!? え〜〜??」



 ここ【光の迷宮アルフヘイム】(真実ではチュートリアルダンジョン)ダンジョン5階層は、エリアを分断するように高い絶壁が存在した。そして6階層に抜けるためのゲートは壁の向こう側。ただし、唯一の抜け道として絶壁には1箇所谷が存在し、そこにはギルドの駐屯所があるのだ。


 その駐屯所の目的だが……



 ダンジョンの奥地へと進む冒険者の最終整備の場。



 素材回収の仮置場、買取り。



 遠征の仮拠点。



 ランクの低い冒険者が奥に進まないようにする検問場。



 など、目的は多岐に渡る。



 そして、シャルア、クルトの本日の目的地でもある駐屯所だが……早急に回れ右して帰ろうとしていたシャルアをクルトは呼び止めた。

 駐屯所は食事処や酒場まである。

 休憩をしてからでも遅くはないと2人は酒場を目指して駐屯所へと向かう。


 その時だ——



「……ッん?」


「……ッ? 急に止まってどうしたの? ルアちゃん?」



 シャルアは突然立ち止まると、道外れの薮の中を凝視する。クルトは、そんな彼女がついて来ていない事に気づき、振り返ってシャルアの様子を伺った。



「先輩。先に行っててください。私は気になる事ができたので少し見てきます」


「え? 気になることって? ラビットブランと関係あること?」


「わかりません。ですが、私1人で大丈夫なので……すぐ戻ります」



 シャルアはこれだけ言い終えると、道をハズレ薮の中へと入っていく。



「ルアちゃん?! ちょっと! 僕も何か手伝うけど! ねぇえ!?」


「不要です。着いてこないでください」


「着いてくるなって言ったって……」


「なんですか? 下着を覗いた次はストーカーですか? つくづく変態さんって感じですね」


「——ッ僕は変態じゃないから!? もう〜〜ルアちゃん!」


「大丈夫ですよ。心配性ですね。まったく……」



 こうして、クルトを取り残しシャルアはズンズンと林中へと消えて行った。


 一体、彼女は何に気付いたのか?


 クルトの脳裏は疑問だらけだったが……これ以上自分に対する評価が下がるのを気にして、シャルアを追うことをしなかったのだった。













「確か……こっちの方……」



 そして道なき林間を進むシャルアだったが……


 実は……少し前、彼女は……



「あれは確かに人影……こんな駐屯所に近い場所で道を外れるなんて変よ。絶対、怪しい」



 人影を見た。



 この場所……ギルド駐屯所の近くだが、魔物は人を避けるため寄り付かず、採取素材も少ない場所と知られている。そんな地で道を外れる人の姿を目撃するのは不思議なことだ。

 まず、よっぽどの物好きか新人冒険者でない限り、薮の中へは足を踏み入れない。そして人々の往来は地を固め駐屯所を目指す天然の道が形成されてるにも関わらず、そこを外れるのは盲目でしかないことだ。

 シャルアの瞳は、たまたまそんなおかしな影を目撃してしまい、それを追うようにクルトを置き去りにして薮へと足を踏み入れていたのだ。


 そして……



「……ッ!? あれ? 確かにこっちの方角に来たと思ったんだけど……行き止まり? どこに消えたの?」



 しばらく影を追って来たシャルアだったが『壁』にぶち当たった。言葉の綾ではない、5階層を分断する絶壁、それも窪む袋小路となった場所に行き着いた。要は行き止まりだ。



「ここ以外行き着くような地形ではなかったんだけど……おかしい……」



 シャルアは影が向かった方角に絶対の自信があった。

 彼女は武力があることながらも、目に自信があり、斥候をも任されることのある人物だった。

 そんな彼女が、標的を見失うことはまずない。



「気の所為? いや、そんなはずはない。だって私は確実に動く人影を見た。つまり、これは……」

 


 シャルアは熟考する。一体、自身が追いかけていた人影が何処へ消えたのかを——だが、数十秒と沈黙していた彼女なのだが……


 ふと……



「もしかして……」



 何かに気づいたように上を見上げた。そこは反り立つ岩壁——険しい断崖絶壁。とてもよじ登ろうとは考えたくない壁が存在するだけだった。


 しかし……



「…………」



 シャルアは無言のままベルトに括ったホルスターから再び筒を取り出した。その切先を岩壁へと向けると——



「アイスバレットッ——」



 筒の切先から氷の魔法を打ち出して見せる。

 射出された氷の弾丸は岩壁へと激突すると……突然、壁から氷柱が出現する。



「——はッ!」



 シャルアは壁から生えた氷柱を確認すると、勢い良く駆け出し、氷柱目掛けて跳躍した。


 そして……



「——アイスバレットッ!」



 跳躍しつつ、再びの魔法弾……さらに高い位置に氷柱を生やす。

 彼女は、魔法の弾丸を壁にぶつけることで着弾地点を凍らせて足場を作ったのだ。そして、足場を活かして壁を駆け上がり、再び魔法の弾丸を射出して足場を作る。これを繰り返すことで絶壁を登った。


 目的地点に正確に魔法を放つ命中力。


 自身の跳躍の高さを計算に入れた空間把握能力。


 高さを恐れず、かつ躊躇のない行動力。


 一歩間違えば真っ逆さまの危険なこの状況下で、さも当然のように氷柱を駆け上がる。彼女の技量は卓逸していた。


 そして……彼女が握る『謎の筒』だが——


 これは彼女専用の特殊武器……


 その名も……



 【銃剣 《ガン=グラディウス》】と言う。






 やがて……



「……やっと見つけた——」



 シャルアが、断崖を上りきると、そこに居たのは……



「——ねぇ。あなた……」


「……ん?」


「そこで何してるの? 怪しい奴。そこで止まって……抵抗はせず、大人しく投降しなさい」



 黒い外套に身を包んだ小柄な人物だった。


 








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