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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第3章 ダンジョン攻略は思いがけない出来事の連続
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第119話 抜け駆けする気ね

「今日、仮冒険者の試験だったでしょう? 結果はどうだったの?」



 結果なんてわかりきっている。だけど話題を切り出すのにはおあつらえ向きだと思ってこの話を振った。



「うん! 私もウィルも合格だったよ!」



 でしょうね。分かってた。



「そう。良かったわね。おめでとう」

「えへへ! ありがとう!」



 やっぱり深呼吸しといて正解。先を越されたことにムッとしてる。

 私ってダメね。友人の吉報を素直に喜べないなんて……。

 反省すると同時に私に湧くのは闘志——負けてられない。早く追いつかないと。



「それで、試験はどんな感じだったの?」

「むぅ〜〜? えっとね〜〜……」



 一応、試験内容の内訳は気になる。ヴェルテに聞き返してみる。



「試験内容は、上薬草の採取と……あと狩り!」

「採取と……狩り?」

「うん。ウサギさん。ラビットブランを狩ったの!」

「ふ〜ん。なるほどね」



 採取と狩り——理にかなった内容ね。

 採取は成熟した薬草の見極める能力が求められる。素材の目利き——冒険者の必須技能。

 そして狩りについては、素早く動くラビットブランを捕らえる瞬発力、魔物についての見識、洞察力があるかを見る。冒険者にとっての当然ともとれる能力要求ね。



「私ね。ウィルと一緒に試験したの! ウィルが薬草をいっぱい集めてくれて〜〜。ウサギさんは、ウィルとどっちが多く狩りできるか勝負したんだ!」

「へぇ〜そうなの?」



 まぁ、それなりの能力があれば簡単に合格はできる。


 この子 (ヴェルテ)ったら……狩り勝負だなんて、もはや遊び半分。


 本当に呆れた話。



「それじゃあ、試験に関しては余裕だったようね」

「……ッうん! 凄く余裕だった! けど……」

「……? けど?」



 と、ここで……


 今日あったことを楽しそうに語っていたヴェルテの表情に曇りが見えた。

 何やら難問にでも突き当たった——そんな様相で首を傾げている。



「けど……どうしたの?」

「うん。試験はとっても簡単だったんだけど、合格したのが私とウィルだけだったの。不思議〜〜?」

「……え? 2人だけ?!」

「うん……」



 それは不思議な話ね。彼女が疑問に思うのも頷ける。


 一体何があったの? たかだか上薬草の採取とラビットブランを狩るだけ。なんら難しい要求ではないはず。

 それに、仮冒険者ってのは、学生だけが受ける試験と違う。普通に大人だって、冒険者を目指すなら試験を受ける。そういった人達の中でウィルとヴェルテ()()が合格するなんて、奇妙でしかない。



「みんな躍起になって仮冒険者を目指すのに、そんなに程度の低い連中だらけだったってこと?」

「う〜〜ん? 分からない。けど……み〜んな狩りが上手くいかなかったんだって〜〜?」

「……ん? 狩り?」



 えっと……それって……



「私とウィルはいっぱい狩ったんだよ! みんな下手くそ!」

「ねぇ……あなた達、どっちが多く狩れるか勝負したんでしょう?」

「……ッ? うん……」

「それって、どれだけ狩ったの?」

「えっと〜〜……忘れた。けど30以上は狩ったの! 勝負は私が勝った! 私の勝ち〜〜♪」

「…………それ、2人が乱雑に狩りすぎたから、ラビットブランが怯えて隠れてしまったんじゃないの?」

「……へ??」



 呆れた——無自覚。


 まったく迷惑な受験者だこと。他の人の分まで狩り尽くしちゃうんだもの。

 私がその場に同席してなくて本当に良かったわ。巻き添えを喰らってたかもしれないもの。

 ただ、ヴェルテはこの答えに疑問顔。憎たらしい笑顔のまま首をペコッと傾げている。



 ワシャワシャ。


「……ッ!? むふふ〜〜♪」



 私ったら反射的に手が伸びて思わず頭を撫でてしまったわよ。


 あら? 意外と柔らかい髪質なのね? もふむふしてて触り心地がいい。癖になりそう。


 ヴェルテったら、嬉しそうに撫でられて……


 い、意外と……か、可愛らしいわね……



「で……時に、ウィルはどこにいるの? 姿が見えないけど?」

「——ふみゃ?!」



 と、ここで……あの男が居ないことが気になった。


 ヴェルテの話によれば、試験では一緒だったとのことだけど……肝心のウィルの姿が見当たらない。ヴェルテは1人で学園アルクスに帰って来ていた。



「ウィルね〜〜私に先帰ってて〜〜って……言ってきたの」



 ……ッ!? あの男……!!



「……? それが、どうしたの? アイリスちゃん?」

「ウィルの奴。抜け駆けする気ね」

「む〜? ぬけがけ〜〜??」














 時を同じくして……



 チュートリアルダンジョン手前……入り口の城門にて……





「……は……ハクションッ!!」

「ん? どうした少年! 誰かに噂されてるな〜?」

「うぅ〜〜かもしれませんね」

「モテてる証拠だ。いいね。学生は〜〜」

「いや、良い噂とは限りませんよ? 僕の場合はたぶん悪口です」

「はっはっは! そんな若いうちから悲観なさんな少年! あのな〜〜僕の若い頃なんてな〜〜それはもう女の子から……」

「あの……まだですか? チェック……」

「……ん? おっと?! 悪い。もう終わってるんだ。はい、ギルドカード」

「はい。ありがとうございます」



 さて……


 無事、仮冒険者試験に合格した(ウィリア)だったが……ギルドで仮冒険者のギルドカードを発行してもらったのち、再びチュートリアルダンジョンに戻ってきていた。

 今、門兵のオヤジからギルドカード……あ〜ギルドカードってのは()()()()()()なんだけど。冒険者の認定書みたいなモノなんだ。ダンジョンへと入る時はこのカードを入り口の警備してる係員に見せる必要がある。

 で、見せたのちそれを返してもらった僕は、すかさずダンジョン入り口の大きな門を潜って、迷宮へと向かうのだった。





「にしてもあの青年——身の丈に合わん()()()()なんて着て……形から入るってやつか? 可笑しな奴だったな」





 






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