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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第3章 ダンジョン攻略は思いがけない出来事の連続
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第117話 先輩 今すぐ消えてください

「リゼレイさ〜ん。報告にあがりました」


「“シャルア”か? 戻ったのだな。ご苦労」



 桃色髪の小さな女の子の不躾な入室に、リゼレイは怒ることなく労いの声をかける。

 来訪者の名前は【シャルア】—— 一見幼いような少女だが、彼女もまた【銀鳥 《アージェントゥム アヴィス》】のメンバーで精鋭の1人である。



「はい。29階層の仮拠点設営の進捗について……って……」


「やぁ〜ルアちゃん! お疲れ様!」


「——ッゲ?! クルト先輩……」



 だが、報告にやってきた彼女は同室していたクルトの姿を見るや否や顔を顰めた。まるで汚物でも見るかのように、可憐な少女の眉間に深く溝を刻んだのだ。



「なんで居るんですか? 私、報告あげるんですけど……」


「えっと……ごめんね。先に報告あげてて……」


「邪魔です先輩。同じ空間で同じ空気を吸っていたくないんで、すぐ出てってもらえますか?」


「……え? 僕の扱い酷くな〜い? ルアちゃん?」



 すかさずシャルアはクルトを言葉で攻撃した。

 今入ってきた扉を、ビシッ——と指差し、『今すぐ出ていけ!』と表明して。


 どうも彼女は彼が嫌いなようだ。



「まぁ〜そんな酷いこと言わないでさ〜? どう? この後、一緒に食事でも? 遠征お疲れ様〜って——その労いってことでさ。もちろん、僕が奢るし……」


「いやです。折角のご飯が美味しくなくなるんで遠慮します」


「——おぅ……」


「あの〜? いつまで居るんですか? 報告終わったならとっとと消えてください。今すぐ。それと、できれば今後2度と視界に入らないで欲しいです」


「——Oh……」



 クルトは笑顔を絶やさず、負けじと彼女に声をかけるも、彼女の言葉の凶器はクルトの心をズタズタに引き裂いていく。


 どうやら彼女は彼のことが嫌いなよう……いや、この調子なら間違いなく嫌いなのだろう。



「シャルアは本当にクルトが苦手なのだな」

「違いますリゼレイさん。苦手じゃなくて、嫌いなだけです」

「そうなのか? だが、同じクランの仲間なんだ多少は我慢してもらわないとだな」


「あの〜リゼレイクランリーダー? “我慢”って表現やめてくださいます? 僕、そろそろ泣きますよ〜?」



 シャルアに軽蔑されるクルトを心配してなのか。リゼレイがたまらず声をかけるも、それはクルトの心に追撃の刃を突き立てるだけだった。

 別にリゼレイに悪気はないのだ。彼女はクランリーダーと大層な肩書きで呼ばれてはいるが、あくまで戦闘面で評価されただけで今のポストにいるのであって部下の扱いは苦手だった。要は言葉足らずである。



「あ。なら、シャルア……クルトと一緒にダンジョン調査に行って来てくれるか?」

「——ええ!? リゼレイさん!! それはあんまりです!!」



 そして突然——リゼレイは名案を思いついたかのように、シャルアに1つ指示を出した。

 シャルアの声が跳ねる。



「これは命令だ。題して“仲良し大作戦”だ!」

「あの……そういうのは思いついても言わないモノですよ? リゼレイさん?」

「そうか? だけど、シャルア? この任務を是非君に受けて欲しいんだが……ダメか?」

「——ッ!? うぅ……」



 リゼレイは下から目線で瞳をウルウルとさせてシャルアを見つめた。まるで小動物のかにように潤む瞳でだ。部下の扱いが下手な割には同情を買うのが得意である。

 シャルアに動揺が走る。


 そして……



「むぅ……リゼレイさんがそこまで言うなら……。ただ条件があります。クルト先輩の声を聞きたくないので、彼の口を糸で縫ってください。開かないように」

「分かった。善処しよう」


「——待って!? 真に受けないで!! リゼレイクランリーダー!? ツッコンでください!!!!」



 シャルアは仕方なくリゼレイの指示を聞いた。ただ、彼女の出した条件をしれっと承諾するリゼレイに、落ち込み項垂れていたクルトが声を荒げて猛抗議だ。



「では、2人とも今から行ってきてくれ」


「「——ッ今から!?」」


「2人仲良くな。さきほどクルトの報告に上がったラビットブランの減少の究明、調査。5階層、冒険者協会の駐屯所まででいい。軽く見てきてくれるだけでも助かる」


「「——ッ分かりました」」


「ふふ……返事が重なったな。お前たち相性がイイようだな?」


「あの、リゼレイさん。気持ち悪いこと言わないでください」

「気持ち悪いとか言わないで〜〜ルアちゃん? 少しは罵声を抑えてくれないかな?」

「無理です。増やすことは可能ですが……」

「…………」



 そして、2人はダンジョンへと向かう。



「「失礼しました。クランリーダー」」



 2人同時に部屋を後にし……



「はぁ……憂鬱です。なんで私がこんなのと……」

「まぁ〜ルアちゃん? リゼレイクランリーダーの命令だからさ。さっさと見回りしてこようか?」

「それも、そうですね」

「で……その後は食事でも……」

「1人で寂しく行ってきたらどうですか? 寂しがり屋ですか? 良い大人が恥ずかしいと思いません? 気持ち悪いですよ? 少しは自分を客観視してみては? 試しに想像してみてくださいよ自分のお顔を。吐き気が込み上げるはずですから。もし想像力に乏しいなら鏡をみてくることを推奨します」

「本当に罵声マシマシだなぁ……」

「というか、考えることを放棄して、いつまでも突っ立ってないでください。とっととダンジョン行きますよ。クルト先輩……」

「……ん? あぁ……ルアちゃん。待ってくれ!?」



 シャルアはクルトに罵声を浴びさせては、スタスタと廊下を突き進む。

 それを慌ててクルトが追った。



「……あ? そういえば私……報告してない……」



 ただ、シャルアは肝心な用事を忘れていた。


 



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