表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第3章 ダンジョン攻略は思いがけない出来事の連続
117/179

第116話 報告です クランリーダー

——コンコン!



「……どうぞ」


「失礼します。クランリーダー」


「あぁ、クルトか。おかえり。試験官ご苦労だったな」



 ここは冒険者クラン【銀鳥 《アージェントゥム アヴィス》】拠点の屋敷だ。

 その建物の最上階にある一際大きな部屋の扉がノックされる。



「いやいや、これも僕の勤め。苦労なんていくらでもしますよ。クランの為ですから。で……本日はその報告に参りました」


「あぁ。聞こう」


 

 部屋の住人の許可を得て、入室して来たのは本日仮冒険者の試験官を務めたクルトだ。

 彼がこの部屋を訪れたのはその試験で得た情報の報告だった。



「どうだろう? 優秀な子はいたか?」



 クルトを待っていたのは1人の女性。

 漆黒の衣を纏った彼女は、長い銀髪をサイドポニーにして肩口から垂れ下げる。

 装飾である髪飾り、帯、テーブルに置かれたままの湾曲する刀剣——それらは示し合わせたかのように赤かった。それが彼女が持ち得る唯一の色味で——それは、窓から侵入する夕日によって淡く不気味に輝いている。



「あぁ……そのことなんですけど……収穫は、ほぼゼロです」


「——ッ。ほう……珍しいな。毎回それらしい子の報告は上がるのだが……クルトのお眼鏡に叶う者はいなかったというわけか」


「いや……居たには居たんです。しかし、断られました」


「……断られた? それもまた珍しい話だ」



 クルトの報告に、彼女の眉が跳ねる。

 クルトとは、クランの中でも隊長格として団員をまとめるほどの実力者。トップクランの精鋭だけに、巷ではそれなりに名も知られている。

 そんな彼ほどの人物がスカウトに失敗した。クランリーダーである彼女が驚くのも無理はなかった。



「君が直々にスカウトして銀鳥 《アージェントゥム アヴィス》に入団したがらないとは。我々もまだまだというわけか……なら、私が直接出向いてスカウトしてこよう。君のことだ。素性は把握しているのだろう?」


「一応してますが……たぶん無理ですよ? 1人は個人的に我々を恨んでるみたいで、声を荒げて速攻で断られました。あの感じは貴方が出向いても首を縦に振るかどうか……? そして、もう1人の方は“彼”がやらないなら“私”もやらないと言い出しましてね。完全にお手上げで〜す」


「そうか……で、他には居なかったのか? スカウトに成功した者は……」


「はい……僕が声をかけたのはその2人……というより、合格者がその2人だけだったんです。“リゼレイ”クランリーダー」


「……ッ? 合格者が2人? それだけだと?」



 再び、クランリーダーである彼女【リゼレイ】の眉が驚きによって跳ねる。起伏の大人しい女性であるリゼレイであったが、その彼女の眉が短時間で2度も反応して動くのは珍しいことだ。

 彼女をよく知らない人物にとってはその微々たる変化を感じ取れないが、これでも驚いている方なのである。ただ、目の前で報告をしているクルトにとってはその限りではなく、彼女の反応を機敏に察し、正直なところ彼はこの状況を楽しんでいたりするのだった。



「どういうことだ? クルト……君はそれほど難しいお題を出す奴だったか?」


「いや〜お題は大したことはないです。単なる“草むしり”と“ウサギ狩り”ですよ」


「ふむ。では、何故——?」


「いや〜〜それがです。僕にもよくわからなくて……」


「分からない?」


「えぇ……“草むしり”の方は皆、順調に採取していたんですがね。何故か、“ウサギ狩り”に失敗してるんです」


「ウサギ狩りに? 皆、狩りが不得手だったか?」


「いや、問題だったのは受験者じゃなくてウサギの方——原因は不明ですが、ダンジョン2階層のラビットブランが極端に少なくて……まるで、何かに怯えるように隠れてしまってたんです」


「それなら、合格者である2人はどうやって討伐を——?」


「それなんですが……合格者2名はチームを組んでました。その内の1人は獣人。おそらくレベルは高く感覚も鋭い。獣人は狩りが得意ですからね。その能力を万全に発揮したと見ました」


「そうか。なら、君のスカウトを断ったのはその子なんだな?」


「いえ、違います。声を荒げたのは、もう1人の方です」


「……なに?」


 

 この時——再びリゼレイの眉が跳ねた。これで本日3度目のことだ。


 彼女は決して頭が悪いわけではない。クルトの抽象的な説明でも、言葉を紐解き予想立てはするのだが、今回ばかりはリゼレイの想像は大いに外れてばかりだ。


 だが、これも仕方がない——


 なんと言っても、そいつは規格外な奴なのだからな。



「少し話しましたけど、面白い奴でしたよ。ただ、獣人の能力を買って寄生したのかと思いきや、頭の切れる人物でした。おそらく、戦闘、斥候を獣人が……ブレーンを彼が担当していたのでしょう。是非、欲しい人材だと思ったんですがね。申し訳ありません。力不足でした」


「いや……君は悪くないさ。クルト。運が悪かっただけだ。して、その者の名前は?」


「えっと……獣人の方はヴェルテ。そして、ブレーンがウィリアです。2人とも学園アルクスの1年生ですね」


「ますます気になるな。学生、それも1年目で仮冒険者試験に合格か。ヴェルテ……そして、ウィリアか……ふむ。私も気に留めておこう」


「やっぱり気になります?」


「あぁ、是非会ってみたいものだな。特にブレーン“ウィリア”……」



 そして……リゼレイの興味がウィリアという学生に向いた。


 その時——



 ——コンコン!



 再びのノック音。


 クルトとリゼレイの視線が扉へと向く。



「失礼しま〜す。リゼレイさ〜ん」



 すると、クランリーダーであるリゼレイの許可を待たず、桃色髪の小さな女の子が入室してきた。





 


新キャラの登場です。

トップクランの精鋭の報告会。


彼らはいずれウィリアに予期せぬ影響を——!?


次回、クルトの後輩ちゃん現る。乞うご期待!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ