第113話 雌雄を決する
「……ふわぁ~〜。……ん? おや? 最初の冒険者のご到着かな? さ〜〜て、君たちの名前は?」
「……ウィリアです」
「——はぁ〜〜い!! 私はヴェルテ!!」
「ウィリア君に……ヴェルテちゃん……か……うん。確認した。それじゃあ。採取素材の提出を——」
無事——採取素材の回収を終えて、ゴールへと辿りついた僕とヴェルテ。3階層に抜けるゲートへと向かうと、石柱に背もたれて欠伸をかく試験官クルトンの姿があった。
しかし……
「上薬草6束にラビットブラン6匹! うん! 確かに揃ってるね。おめでとう! 君たちが最初の合格者だ。思ってたよりも随分と早い合格だよ。大したものだ」
「……どうも」
「そんなの、ウィルと私だもん! 当然だよ〜♪」
規定数の素材を確認すると、クルトンは拍手を交えて2人に祝福の言葉を浴びせてくれた。
これで試験は合格——晴れて【冒険者見習い】になることができる。
だけどね……
無事に合格できたことは喜ばしいことなんだ。
しかしだなぁ……
「…………」
僕は今……凄〜〜く、不機嫌なんだよ。
って言うのもね。
「……試験〜試験〜合格〜合格〜♪ 勝った〜勝った〜ウィルに〜勝った〜♪」
この……僕のすぐお隣にいる緑のケモミミ少女をご覧ください。有頂天でしょう?
そんな勝鬨鼻歌祭の彼女の言葉を拾えば、僕が何故不機嫌なのかって……わかってしまうだろう。
“狩り勝負”に負けたんだよ……僕……ヴェルテちゃんにさぁ〜〜。
——チクショウッッッ!!
一体、何があったかと言うと……
あの勝負の最後の場面——結果から言ってしまうと、ウサギを1匹ヴェルテに奪われてしまったんだよ。
僕の前に飛んで来た3匹のウサギ……これを仕留めるために、右手に持った【影】を突き出し、刺突でもって仕留めようとした。
次の瞬間……
『——うぅ〜〜おりゃぁあ!!』
『……はあ?!』
ヴェルテちゃんは僕とウサギ目掛けて、自身の武器であるダガーを投げつけてきたんだ。
この時、僕の視界にはダガーの金属光が映り込み……
『——危ねぇえ!!??』
ギリギリのところを首を捻って回避したわけだ。
ヴェルテの投げたダガーは2本……うち1本は僕の顔面目掛けて飛んできた。
一歩でも気づくのが遅かったらどうなってたことか? 危うく殺されるところだった。
真の敵は魔物にあらず……ほら、君の後ろに……?
何それ……こっわ……!?
『——ッな、ッな、ッな! ——ッナニするんだぁあ!? ヴェルテぇえ!!』
僕は尻餅をついて、慌てて叫び散らした。
まさか、ヴェルテに殺されかける日がくるとは思わんだろ?
何でこんなことしたのか、速攻で問い詰めたんだ。
『……むぅ……だって……負けたくないんだもん』
だ、そうです? もう、どれだけ負けず嫌いなんだよ獣人ってさ。
『——それに! それに!! ウィルだったら避けれるでしょう!? たぶん大丈夫だって思ったんだもん!!』
『——避けれたけど! 危ないだろうがぁあ!!』
『——ッ!? ぶぅう!!』
『“ぶぅう!”じゃねぇ〜わ!!』
確かに、僕の身体能力、危機回避能力があれば、あれぐらいの不意打ちぐらい、わけないさ。だが、ヴェルテがここまでの奇行に打って出るとは思いもせず油断したんだよ! もう、心臓バクバクだ!
頬を膨らませて可愛いさアピールしても許さんわ!!
『……でもウィル! 私が貰ったからね!!』
『——あん?! 何が!!』
『——ッん!!』
だが、怒れる僕に逆ギレがましいヴェルテ。頬をぷぅ〜〜と膨らませた状態で“あるモノ”を示すためビシッと僕の背後を指差した。
『——ッあ!?』
そこに飛び込んできたものに僕の声が跳ねる。
その示すモノとは……
『——私の勝ちぃい!!』
両手の拳を天に向かって突き出すヴェルテ。彼女が見せたかったのは、ダガーが突き刺さった白いウサギの存在だった。僕の顔面目掛けて飛んできたダガーとは違う。もう一本のダガーだ。
『——クソぉお!! やられた!!』
『——ふふ〜んっだ!』
ヴェルテの投擲したダガーは顔面の方はフェイク。
僕が捉えたラビットブランは2匹だけ。一歩後ろに退がってしまったことで、3匹目まで刃が届かず。1匹をヴェルテが掻っ攫ったのだ。
これが俗に言う『一歩及ばず』——ってやつだ。
ウィリア 37匹 《負け犬》
ヴェルテ 38匹 《勝ち犬》
こうして突然の勝負は、ヴェルテに軍配が上がり幕を閉じることとなった。