第111話 これで最後だ!
「——32!! 33!! 34!!」
「——28から〜〜30! 31から〜〜35!!」
僕たちの撃破数は均衡していた。ヴェルテは1匹ずつだが着実に数を伸ばしていく。ここまでミスは1つも無く、彼女の耳は確実にウサギの居場所をとらえていた。
一方の僕は、紫紺の糸の弾く性質を使って、同じ手段を繰り返していた。だがこれは、ウサギが潜んでいそうなエリアを手当たり次第に粗探しする行為だ。だから、時には1匹すらもヒットしない時もあった。
なんだか田舎にいた時の沢での魚釣りを思い出したよ。今の獲物がウサギでってだけで……1匹も飛んでこなかった時の気分は、何時間も水面と睨めっこしていたあの瞬間の心情に酷似している。
だがそれでも、僕はなんとか巻き返しつつもある。
ちょうど今、8匹のウサギを仕留めた。これで、ヴェルテより1匹リード。このままの調子でいけば勝てる。
「——ッヴェルテ!」
「——35!! 36ぅぅ〜〜なぁに!?」
「森の先……あそこに大きな木が見えるだろう? あそこをゴールにしよう。そこまでで多く仕留めてた方の勝ち——ってことで」
「——分かったぁ〜〜〜〜さん〜〜じゅ〜〜ナナァア!」
時に、僕は頃合いかな? って思ったから、勝負のキリを定めた。
森の奥の方に、いい感じに大きな木があるのが見えたからちょうどいいと思ったんだ。
そこをゴールにきめた。
このあと、薬草の選別とかウサギの処理とかあるしさ。いつまでも遊んでばかりもいられないしね。
「——これで最後だ。紫紺の糸……思いっきり広げて〜〜おりゃ!」
「——あ!? ウィル、ズルい!! 私の狙ってた獲物まで!?」
ちょっと卑怯かもしれんが、ヴェルテのことを気にせず思いっきり糸を巡らせるエリアを広げた。すると案の定、ヴェルテはピコンと反応して抗議している。
だが、卑怯だなんだと言われても勝負とはルールに基づき、それを破らなければ正道であり正義なんだよ。
ヴェルテちゃんは、少し“ズル賢さ”というのを知るべきだ。人生ってのは、時に常識が通じない時だってあるからさ。ここは一歩賢い自分に成長して次に生かしてもらおうか。
てか、次っていつだろう? 狩だけ上手くなっても仕方ないよな?
「——ッ! 3匹!?」
「「「——ッキュキュウ!!??」」」
でだ。
あの大きな木と、現在の間で糸を巡らせると、3匹のウサギが飛んできた。ヴェルテの撃破数は37——僕は現在35だから、あれを仕留めれば撃破数は38になり、ヴェルテに勝てる。
「——ッもらったぁああ!!」
僕は、レイピアを構える。刺突でウサギを貫こうと前に踏み込んだんだよ。
すると、その時——
「……え??」
僕の目に可笑しな銀色の輝きが見えた。一瞬の閃光。僕の視界がそれを捉えると、その正体は……
「——ッ!?」
銀色のナイフ。
僕の顔面目掛けてナイフが飛んできていたんだ。