第108話 そうだ 勝負しよう!
昨今の冒険者はクランが主流だ。群れて集まってボスをタコ殴りにする。全然スタイリッシュじゃない攻略法だよ。
冒険者なら正々堂々と攻略してもらいたいものだが……世の冒険者はレベルが30までしか上げられない枷をはめている。それは冒険者に知識がないこともそうだが、奴らは【神器】を所持してない。これが冒険者を弱者のままに押さえつけているんだ。
これは僕だけが知る現実だよ。
だけど……
僕は、そんな低レベルな連中に【神器】を布教したいなんて微塵も思ってない。
大好きだった冒険譚を踏みにじるような冒険者に呆れ軽蔑すら感じているんだけど……僕にとってはバカな連中がバカのままで居てくれるに越した事はないからさ。
あのクルトンが所属する今のトップクラン【銀鳥 《アージェントゥム アヴィス》】の現在の最高到達点は40階層。神器無し、レベル30との縛りプレイでよくそこまで行ったものだと感心はするが、所詮はそこまでしか登ることのできない連中だ。
そいつらが富や名声をいいようにしてるんだったら、神器所持者である僕が散歩気分でそこまで登って素材採取していれば億万長者だって夢じゃない。ま、名声はいらないから、こっそりとやるけど。
だから冒険者はいつまでもそこで馬鹿でいてくれれさえすればいい。
僕の億万長者のためにもさ。
「……? ウィル、どうしたの? ボォ〜っとして……」
「——ッ! あ、いや何でもない」
あぁ……長らく思考の海に浸かってしまったようだね。ゲートの前で惚けていれば、首を傾げてヴェルテに顔を覗き込まれてしまった。
「じゃあ。2階層に進むよ。ラビットブランの討伐6匹を達成しないと」
「うん! 分かった! 私、頑張る〜〜♪」
気を取り直して……
僕とヴェルテはゲートを潜る。
すると……たちまち、草原から、薮の中へと光景が切り替わる。
「2階層……情報通り木々が増えたね」
これは事前に聞いていた情報通りだ。2階層だけは木々の生い茂る森林の続くエリアになっていると。これは試験前のクルトンも簡単に説明していたよ。
とは言っても、深緑に埋め尽くさんと——とまでは多くなく、視界はそこそこクリア。背の高い草はなく、比較的探索はしやすい印象を僕に与える。ただ、これだけ緑が自生していればラビットブランにとっては住みやすい環境であり、多く生息していそうな雰囲気は自然と感じ取れる。
現に……
「ウィル〜〜! 捕まえたぁあ!!」
「——キュキュ!!??」
2階層に来て僅か数十秒……僕が周囲の観察に明け暮れていると、どこからともなくヴェルテが1匹のウサギを捕まえてきているのだから。
これは、思ったより早くゴールできそうだな。
「よくやったヴェルテ。さすが獣人。狩りはお手のものか?」
「うん! 昔から父様にね、ヴェルテは狩りが上手って褒められてたんだ!」
……にしては、早すぎる気がするんだが。上手いからって1分もかからず、目を離した隙に捕まえてくるか? 天才かよ。
ヴェルテちゃんと組んで正解だったな。
「狩りだったら、ウィルには負けないからね! ふふ〜ん♪」
「……お。なら勝負するか?」
「——ッ!? 勝負!!」
だが、得意げなヴェルテに煽られてしまうと、なんだか僕の廃れた闘志に火が着く思いがある。
試験は、ヘソで紅茶が沸けそうなぐらい余裕なんだ。ここは1つ——余興に走っても大丈夫だろう。
「ここから、ラビットブランが居そうな地点を並走して回って、その間どちらが多くウサギを狩れるか……勝負」
「何それ!? 面白そう!!」
「だろう? ちょっと遊ぼうぜヴェルテ」
「うん! 遊ぼ〜遊ぼ〜♪」
ヴェルテはやる気満々だ。耳を激しくピコピコ反応させてニパァ〜と相好を崩す。ワクワクオーラが可視化できそうなほどテンションが高まってるのがよ〜く分かる。
「いくらヴェルテが狩りの天才だからって、僕だって負けるつもりはないからね」
「ふふ〜〜ん♪ 私だって負けないもん!」
かくいう僕だって、少しワクワクしてるんだけどさ。ちょっとぐらいゲームに興じたってバチは当たらないさ。
それに、やるからには本気を出そう。勝負事は本気になってこそ面白い。
「じゃあヴェルテ。準備はいいか?」
「うん! いつでもいいよ!」
僕は、神器を取り出す。全力でウサギを狩る準備を整える。
ヴェルテはヴェルテで、ピョンピョン飛び跳ね、その様子は、さながら準備運動かのようだ。
「それじゃあ。よ〜〜い……」
「——ッスタァ〜〜ト♪」
ヴェルテの“スタート”の言葉で一斉にダッシュ——森の中へと飛び込んでいく。
かくして、試験最中の突然の勝負が始まる。