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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第3章 ダンジョン攻略は思いがけない出来事の連続
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第105話 じゃあ〜僕は?

「ヴェルテに、アレやれコレやれ……言っちゃってるんだけど……」



 もし、ヴェルテの強者判断基準がレベルである場合——

 僕って“レベル1”なわけじゃん。つまりヴェルテより弱いってことになる。

 まぁ、レベルってのは魔力の総量の指標みたいなものだから、一概にやれ強者だ! やれ弱者だ! と判断するのは時期尚早なんだけど……ヴェルテは僕に『むむッ』ときてないのだろうか? ちょっと気になってしまった。



「——う〜ん?」



 だけど、ヴェルテはこの質問に難しい顔をしてる。腕を組んで思案し始めた。



「……ウィルわねぇ〜? う〜ん……クンクン、スンスン!」

「……え!? いきなりナニ?!」



 すると、次の瞬間——ヴェルテは僕の首元に顔を近づけ匂いを嗅ぎ始めた。思わず僕に動揺が走る。

 毎日お風呂には入っているが……ヴェルテに「ウィリアくしゃい!?」なんて言われた際には、僕の心はたちまち砕かれてしまうことだろう。果たしてその時、僕は立ち直ることができるだろうか……あぁ、心配だぁ……てか、彼女は一体何がしたいんだ?



「——う〜〜ん??」



 ただ、数秒すれば、距離を離し再びのヴェルテの思案顔が視界に飛び込んでくる。その眉を落とす様子はよっぽど難しいことでも考えているようだ。


 そんなに難しい質問だったのか?



「——ッうん!!」



 だが、数秒してキリッと目を見開いたかと思えば……



「——わかんない!!」



 すかさず大声で“見当がつかない”と、ヴェルテは表明した。


 それは考えることを放棄したのか? 


 はたまた一種の真理に辿りついたのか?


 ヴェルテちゃんらしい反応だけど……そこに至った彼女の答えが分からない。



「分かんないって……どういうこと?」

「えっとね。ウィルの匂いなんだけど……たぶん、弱いんだと思うの……」

「たぶん?」

「うん。たぶん」



 随分と抽象的な着地だが、何が言いたいんだろう?



「でもね。ウィルとは戦いたくない」



 ……ッ!? おっと〜〜?



「私じゃ“勝てない”——分かんないだけど……なんか、そんな気がするの」

「ほぉ~〜勝てない……か……」



 これは面白い回答だな。



「ウィルと初めて会ったときからそう。ウィルは弱そうに見えるんだけど、勝てる気がしないんだ。不思議で……とっても不気味な感覚〜〜……」



 匂いでは、僕を弱者だと判断しているが、本能では『戦ってはダメ!』と訴えてきいる。そんなところか?

 ヴェルテは「分からない!」と言っているが、彼女の感覚は的を射てる。たぶん、ヴェルテは僕の中にある力を機敏に感じ取って反応してるんだよ。この世で僕だけが持っている力——この感覚を味わったことのないヴェルテが“不気味”だと表現するのにも頷ける。

 本能って馬鹿にできないからなぁ……

 僕の力を知られないように獣人は少し警戒したほうがいいだろうか?



「で……ヴェルテはそんな不気味な僕に付いてきてるわけだけど……良かったの?」

「……え?」



 だけど、より理解できなくなったのは、僕と彼女の関係だ。

 不気味だと思っているなら、どうして僕に付き合ってくれてるんだろうか?

 よくよく思い起こせば、学園の試験で組んだ時の彼女は僕に怯えてた。ここへきてようやくその理由に気づけたよ。

 だけどヴェルテは普通に僕とつるんでいるが……もう怯えることはないのだろうか? そこをどうしても疑問に思ってしまったんだ。


 だが……



「不気味だけど……でもねでもね! ウィルは優しいの! 私と遊んでくれるし、干し肉くれるし! 一緒に居てとっても、と〜〜っても楽しい! だからウィルのことは大好きだよ!」

「——ッ!?」



 どうも愚問だったようだな。


 ヴェルテがどんな奴かなんて僕はとっくに分かっていただろうに……馬鹿な質問を投げかけてしまったよ。

 まったく、小っ恥ずかしい事をケロッと言ってしまう彼女に、僕は不覚にも面食らってしまった。



「はいはい。ありがとうよぉ~〜ヴェルテ」

「——むふふ〜〜♪」



 そっぽを向いてしまうが、それでも僕はヴェルテの頭を撫でる。嫌な顔をせず彼女はそれを享受してくれた。


 ま、彼女の言う「好き」は恋愛的意味合いではなく、友人としてのそれだとわかっている。


 だが、やっぱり照れくさい。


 それでも……不思議と悪い気はしないんだ。


 ヴェルテが向ける笑顔は、いつまでもそのまま……無垢な君で、そこにあり続けて欲しい。


 ただ、そう思ってしまった。


 あぁ……僕は良い友人を持てて幸せ者だね。




 


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