第104話 私 弱い人イヤ!
実は——
チュートリアルダンジョンって1つだけじゃないんだよね。世界に無数に存在している。その数は確か8つだったかな?
それで、今いるこの塔がその1つってこと。
各地に点在するチュートリアルダンジョンはやはり天高く伸びる摩天楼である。それは、天空のダンジョンを支える柱かのように各所に点在してるんだ。
それで、そのダンジョンの管理は厳密に【冒険者教会】っていう冒険者を選定、任命する組織がしている。特殊な場合を除いてね。
例えば、ここ【大都市シルフ】にあるチュートリアルダンジョンだって少し特殊な分類だ。だって、塔は完全に王城と一体化してしまってるんだもん。一体誰の管理下の元にあるんだよ……って感じ。
だけど、この国の国王は尊大だ。塔の管理のほとんどを冒険者教会に受け渡し、誰でも入れるようにと取り計らっているんだ。だからこうして裏口の門を抜けて、立ち入りが許可されてる。まぁ、冒険者じゃないと門は通してくれないんだけどね。今日みたいに仮冒険者の試験とかなら別だけど。
ちなみにだが……
【ラストダンジョン】だと言っておきながら、結局世界中に何個も存在するっていうと……いったい、どこが『ラスト』やねん! てツッコミたくなる。
これでよく世の冒険者が光の迷宮アルフヘイムだと勘違いしてるな〜〜と不思議に思うだろうが、一説では『8つの内、7つは偽物で本物は1つなんじゃないか』——なんて、定説が世の中では有力視されてるんだけど。その答えは『全部違う』であり、『全部ホンモノのチュートリアルダンジョン』っていうのが真実だ。
8つ全ての塔の先にはそれぞれの8つの天空世界があって、その頂には等しく8つの【光の迷宮アルフヘイム】が存在しているんだよ。
でだ——
なんでこんな説明をするのかというと……前日、ヴェルテとちょっとした打ち合わせをしたんだ。ダンジョンの地形だとか。入手可能な素材。あとは装備と道具のチェックとか……
大方、僕がヴェルテにダンジョンの話題を振って、ヴェルテは目を点にして首を傾げてるだけの無意味な事前確認に終わったんだが……
そこで判明したのが——
『私、レベル15なの』
『…………はあ?』
この事実だった。
僕も、思わず驚いてしまった。まさかヴェルテがそんな高レベルだったなんて……
この世の中の冒険者はレベル30が最高到達点だとするなら、その半分だからね。学生の身では破格のレベル帯ではなかろうか?
僕……まだ“レベル1”なんだけどな……
なんだか急にヴェルテが“お姉さん”に見えてきてしまったよ。
あの、虎の威を借る“アルフレッド”ですらレベル5であんだけ鼻を伸ばしてたんだ。彼は今直ぐその鼻をヴェルテにちょん切ってもらえばいい。
だけど……
彼女が本当はレベル15でもぉ〜〜僕は、神器を持ってるから足してレベルは31なんですぅ〜〜。負けてなんかないんですぅ〜〜だ!!
て——心の中でマウント取ったって虚しいだけだな。うん——今の発言はナシで!
それで……
なんで彼女がレベル15かというと……
『獣人は強くないといけないの! だから、よく父様にダンジョン連れて行かれたの!!』
獣人とは強さを重んじる種族だそうな。それで、彼らはよっぽどのストイックさを発揮して小さいうちからダンジョン内に放り込まれるんだそう。
ヴェルテに聞く話では、物心ついた頃には既に放り込まれてたんだって。
獣人ってスパルタ教育なんだね。僕は獣人なんかに生まれなくてよかったよ。
獣人国にあるチュートリアルダンジョンは管理者がいないんだそうな。というか、獣人達の修行場所と成り果ててるらしく、第三者がちょっかいかければ、獣人全てを敵に回すことになるので、放置状態らしい。
「私、弱い人にアレやれ! コレやれ! 言われるの——ッ嫌い! むむッとするんだもん! むむむ〜!!」
と、ヴェルテのレベルが高いことには、そんなカラクリがあって……先輩のお誘いに不満気だったのは以上の理由らしい。
だけど……だったらさ……
「じゃあ。ヴェルテ?」
「……ん?」
「僕はどうなの? ヴェルテから見てどう感じてる?」