第101話 しつこい男にご用心
「君、名前は?」
「はあ? なんでそんなこと答えなくちゃいけないんだよ」
「おっと、これは……嫌われてしまったかな?」
いや。知らない人にいきなり名前聞かれて答えるわけないでしょう? 当たり前だろうが。まぁ、この男がいけ好かないから答えたくないってのもあるけど……
「はぁあ?! ちょっとアシル君が聞いてるんだけど! 大人しく答えなさいよ!」
「うわぁ〜〜この子可愛くない。生意気なガキ」
「アシル。可哀想。ねぇ、こんなのほっといて、あっち行こう? 私、あなたを慰めてあげる」
すると、僕の塩対応に対して男の取り巻き3人娘が好き勝手言い出した。
やはりか……僕の懸念通りだ。僕はいいことをしたはずだが、側から見れば悪者は僕か? これだから、馬鹿を相手にするのは……っと、おっと。つい口が滑ってしまった。
これだから、頭のネジの抜けた子を相手にするのは——の方がいいか?
いや、頭の中お花畑な奴——かな?
って……こんな少女達の脳みそが何でできているのかを議論したって仕方ないな。どうでもいい。
「こらこら。イノール、シーカ、チヨ。ダメだよ。そんなこと言っちゃあ。悪いのは俺だったんだからさ」
「「「……むぅ〜〜」」」
それを、アシルだとか言う彼が静止した。各々が眉間に皺を寄せ、納得はしてなさそうだが沈黙に徹している。なんだよコイツら明らかに僕を悪者扱いしやがって。本当にこういう奴らとは関わりたくない。
「もう、僕たちいきますよ……いいですか?」
「あ?! 気分を悪くさせたなら謝るよ。でも、話を聞いてくれないか?」
「話? まず、人に名前を聞く時は自分から〜〜ってよく言われますけど……そんなこともできない人の話を聞かなきゃいけないの? もう、ほっといてほしいんだけど……」
「おっと……それは、失礼なことをした」
まず、人に名前を聞く時は自分から。これは自己紹介をする時の常識さ。だけどコイツ、いきなり僕を呼び止めたかと思えば、いきなり名前をきいてきた。
まぁ、そもそも関わり合いになりたくないから男の名前なんて知りたくもないんだけどね。
それに、聞かずとも取り巻きっ子3人が“アシル”と呼んでるから、もう知ってるんだけど。
でもね。今の僕はどうしても嫌味を言いたくて、ついつい悪態をついちゃった。これは仕方のないことだよね?
てか、行かせてくれよ。呼び止めんなや。
「俺の名前はアシル。この子達は右からイノール、シーカ、チヨだよ」
だから、要らんて自己紹介。どうせ覚えない。おまけに取り巻きの3人の名前まで公開しちゃって……その子達、見るからに不機嫌そうな表情してるけど。僕とお近づきになりたくなさそうだ。
そして、4人もの名前を一気に口にするのは愚行だよ。余計覚えない。僕の記憶メモリは野郎の名前だけでキャパシティオーバーさ。
「俺たちは、学園アルクスの冒険科の2年生なんだ。で、君たちは?」
「……ッ……学園アルクス。冒険科の1年生。僕はウィリア。この子はヴェルテです」
「ほう。後輩君だったか。まだ入学から半年も経っていないと思うが……優秀なんだなぁ……」
でも、自己紹介されてしまったんだったら、礼儀に習って名前を教えてやらんわけにもいかない。仕方なく教えてやった。
たく、これで満足か!?
「——それじゃあ。もういいでしょう」
「——ッ!? 待ってくれるかウィリア君!?」
だぁぁ……たく、なんなんだよ。まだ何かあるのか!?
僕はため息を吐きつつ振り返ってアシル“パイセン”を視線の中心に収める。すると、彼もお返しとばかりに僕を見つめて苦笑いを返してくる。
さぁ〜〜僕の顔を存分に見るがいい! 眉間に寄った皺! 鋭い眼光! 不機嫌だってのは、必然的にわかるだろうさ!!
「どうだろう? 2人とも、俺たちのパーティーに加わらないか?」
「……はぁあ? お断りします!」
そして、あろうことか僕含めて冒険者パーティーのお誘い? まったく、どういう神経してるんだ? アシル?!
彼らは4人で、僕とヴェルテを合わせるとちょうど6人。試験の規定通りにはなるが……それだと3×6で、18匹のウサギと、18束の上薬草を集めなくちゃいけなくなる。そんなの絶対嫌だ。
速攻、反射的に、拒否ったよ。
「もう行きますよ! ほら、ヴェルテ行こう!」
「う、うん……」
「——ッあ!? ちょっと……」
パイセンはまだ何か言っているが無視してその場を後にする。本当に、意味の分からない連中だ。試験中に遭遇しなきゃいいけど……。
て、思ってたんだけど……