第100話 ナンパされてるぅう!?
「えっと……私、1人で大丈夫……だから……」
「ええ? そんなこと言わないでさ。君みたいな可愛い子と是非ダンジョン攻略がしたいんだ? どうだろう? 君を僕に守らせてくれないか?」
「え?! いや……私、強いから大丈夫で……」
「そう? それは頼もしい子だね? どう強いのか見せて欲しいな?」
「うぅ……」
男はヴェルテの手を握って甘い声音で彼女を誘う。
だが、肝心のヴェルテは嫌そうに顔を顰めていた。必死に握られた手を引き抜こうと試みているが、男の手は岩のように硬く微動だにしないようだ。
てか、さぁ……
あの男……絶対許せねぇ……うちのヴェルテちゃんに気安く触れて、ナンパしやがって……!?
それに、アイツ——!
「え? アシル君!? また他の子に声かけてる! 私達だけいればいいでしょう?!」
「アシルちゃん! ダメだよ! あたしじゃ物足りないの?」
「そんな、アシルの魅力がわからない子。ダメ。アシルのことわかってるのは私だけ」
既に連れがいるんだよ。それも女の子3人!
だと言うのに、それに飽き足らずヴェルテちゃんをもナンパするとか!
——この男なんてヤツだ!!
「え? でも、仲間は多い方がいいでしょう? 協力すれば、こんな試験は簡単に合格さ。この子があまりにもキョロキョロしてて不安そうだったから。つい声かけちゃった」
あん?! 何言ってるんだアイツ? それが、ナンパの言い訳になると?
そんなの言い訳になるわけねぇ〜だろ! 馬鹿野郎か?!
連れの女の子達だって面白くないに決まってる。
「え?! アシル君! 優しい〜〜!」
「まったく、困った人を見逃せないのは、アシルちゃんの良いところでもあり悪いところだよ!」
「ふむ。なら仕方ない。アシルが優しいのがいけないんだから」
と、話を飲み込んじゃったよ!? 馬鹿っ子達だったか、あの子達?!
女を侍らす男は碌でもない奴だと思ってたが、それについていく方も大概だったか?!
「うぅ……離してよ……」
「おっと、君のことを置いてけぼりだったね。それで……どうかな? 君みたいな可愛い子がついてきてくれると、きっと冒険も楽しくなると思うんだよね?」
だが……ヴェルテは明らかに嫌がってる。しかし、男は執拗だ。
ヴェルテの表情が見えていない? 彼女の声が聞こえていない?
いや、むしろ断られるとは微塵も思ってないんだろうな。アイツ顔だけ見れば、そこそこの美丈夫だし。絶対の自信からくる勘違い野郎だと僕は見た。
勘違いとは時に盲目となり得る。男はもっと自分を客観視するべきだが……あの頭の悪そうな取り巻き達も、男を付け上がらせて考えることを放棄させたモンスターに変貌させてるんだろうな? なんと悪循環なことか。
ダメな人間とはこうして誕生するのだよ。
そして……
しばらくムカムカして、そんな光景を呆気に観察してるとだ。
「——ッ!?」
ヴェルテとちょうど目が合った。その時の潤んだ瞳は「助けて〜ウィル〜!!」と悲痛に訴えてきている。
僕の身体は、その瞬間——反射的に動いてしまっていたね。
「あの〜〜僕の連れに何か用ですか?」
「——ッ!? 君は?」
僕は素早く近づきヴェルテの手を男から奪い取って、睨みつけた。
低身長な僕に対して、その男は高身長。下から上に向けて上目遣いな睨みは、まったくと言っていいほど様にはなってないが……それでも、僕には「不機嫌です!」を表明する方法は限られている。これが精一杯だった。
「おっと、既に彼氏がいたのか? これは失礼なことをしてしまったか」
「——あん?! 彼氏??」
さて、どう見れば僕がヴェルテの『彼氏』に見えるんだ? ヴェルテはただの『友達』だが?
「うぅ……ウィル〜〜……」
ヴェルテがしょぼくれモードに突入してる。男から解放された彼女は、僕の片手を握ったまま背中に隠れてしまった。
いつも笑顔の彼女をここまで落ち込ませるとは……この男、とんでもない奴だな。
まぁ、相手の事情も満足に聞かないでズケズケくる人間は、言葉足らずのヴェルテがシンプルに苦手とする相手だったのかもしれない。
が、理由がなんであれ女の子を悲しませる奴は誰だって許せねぇよな? 知り合いだったら尚更だよ! らしくないことしてるって分かってはいるけど……自己中な僕だって、我慢の限界がくれば人助けぐらいするんだからな!!
……って、ちょっと待ってくれ?
思わず頭に血が上って助けに入ってしまったが……。
冷静に考えるとだよ。
嫌がる少女を無理矢理連れて行こうとする男。それを僕はすかさず助ける。
あれ? 僕はまた、なんでこんなイケメンムーブをかましてるんだろ?
クソガキが高身長の色男から女の子を奪い取るって……客観視すると、悪者は僕なように見えるが……。
そこは悪漢とかではないのだろうか? 絵的に大丈夫か?
「ほら、ヴェルテ。行こう」
「う、うん……」
だからと言って、ヴェルテが大切な友達だってことは変わりない。ここは男を無視して早くこの場から離れよう。
「へぇ〜〜その子。ヴェルテちゃんって言うのか?」
すると、背中から嫌な視線を感じた。
正確にはヴェルテに注がれたものだろう。彼女の耳がビクッと跳ねてたからね。横にいる僕だって巻き添えで眼光を食らったわけだ。
「ねぇ〜君!」
「…………」
「ちょっと、待ってくれよ」
「……ッチ。なんですか? まだ、ヴェルテにちょっかいをかけて……」
「い〜や、君だよ。君!」
「……え?! 僕?」
執拗な男の呼び声にムッとして反応して振り返る。するとそこにいた彼は突然、僕を指を差していた。
一体、なんの用だよ。