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第5話 クラスで注目される話。

 カーテンから差し込む朝日。雀の鳴き声。感覚的におそらく朝の六時ぐらいだろう。テレビの前では徹夜でゲームをしていたと思われる雪菜が倒れている。


「こいつはまた一晩中ゲームか」

「すぴー…すぴー」

「まったく…」


 そっと雪菜を抱き上げベッドの上に寝かせる。今日は月曜日なので本来なら起こして学校に連れていくべきなのだろうが、彼女がそれを望むまでは俺が逃げ場になると決めている。他人から見れば何とも無責任で最低な男だろう。


「朝飯にすっか…」


 顔を洗い歯を磨いたら朝ごはんを作り始める。味噌汁に目玉焼きとシンプルなメニューだが一日の始まりなんてこんなもので十分だ。


「それじゃあ行ってきます」


 寝てる雪菜に挨拶をしてから俺は家を出る。時間は七時半。少し余裕をもって学校へと向かう。


『おはよう~』

『おはよう~。ねぇ聞いてよ~』

『おっす。死滅の最新刊読んだ?』『まだだからネタバレすんなよ?』

『教科書忘れたから真奈美に借りてくる』『いってら~』


 教室の中は相も変わらず色んな会話が飛び交っている。


「小林君。おはよ!」

「ん?おはよう」


 大人しく椅子に座っているとクラスの中心人物である菊沢(きくさわ) (はな)から挨拶をされる。明らかに校則違反なメイク。派手な金髪を後ろで一つ結びにしてYシャツは胸元まで開けている。これが俗に言う陽キャと言うやつだろう。


「いや~今日は寒いね~」

「まあ、二月だからな」

「うんうん。ちなみに小林君って犬と猫どっちが好き?」

「猫だけど。なんだ?俺の生態調査でも依頼されてんのか?」

「違くてさ…。昨日駅前で雪菜と歩いてるの見かけて」


(おっと…見られてたのか。)


 確かにケーキ屋とかゲーセンとか人が多いところに行っていたし、見られててもおかしくはない。


「あたし雪菜と同じ中学だったんだけど、あの子が男子と二人で遊んでるの珍しいなって。付き合ってるの?」

「いや、ただ仲が良いだけだよ」

「それもそれで凄いんだけどね…。そっかそっか。あたしも昔までは雪菜と仲良しだったんだけどな~」

「え…?マジで?」

「まじまじ。ほら」


 そう言うとスマホをこちらに向け、一枚の写真を見せてくれる。公園のベンチで二人仲良くアイスを食べている写真。衝撃的だがどうやらこの二人は本当に仲が良かったみたいだ。


(にしても…中学の頃の雪菜って髪長かったのか。)


「花っち何してるの?」


 突然会話に割り込んできたのは陽キャ二号。もとい羽村はむら 水樹みずきという女生徒だ。髪色はダークパープルでいつも腰にカーディガンを巻いている。


「ん〜。小林君のことが気になって質問攻め?」

「おい。言い方」

「え…。花っち小林に気があるの?」

「そりゃそうなるよな」


『菊沢が小林を…?』『え?なになに?告白?』

『オイラも彼女ほしい』『俺じゃだめか?』


トゥンクッ…。



(おいおい…。変な勘違いされてるぞこれ。)


 たった一言でクラス中の視線が俺と菊沢に集まる。ここまで大事になるとは思っていなかったらしく菊沢は˝テヘペロ˝と舌を出して謝ってくる。反省してるのか怪しいが今更何を言ってもしょうがない。


(時間が経てば解決するだろ。)


 俺は諦めたように窓の外を眺め現実逃避をする。早く家に帰ってゲームがしたい。




キーンコーンカーンコーン…。


「それじゃあ気を付けて帰れよ」


 長い授業も終わりようやく学校から解放される。授業中もクラスメイトにチラチラ見られて大変だった。菊沢のやつめ。


「小林君。今朝はごめんね?」

「許さん」

「え~。反省してるよ?あ、もしかして誠意を見せろってやつ?小林君はえっちだねぇ」

「やかましい。雪菜に菊沢は酷い奴だってチクってやる」

「うわっ。小学生みたいなことするじゃん」

「花〜?なにしてんの?早くクレープ食べ行こ?」

「うん!ちょっと待ってて〜」


 廊下で菊沢を待っている女子グループ。どうやらあの子たちとクレープを食べに行く約束をしているらしい。それなら俺と話してないで早く行けばいいのに。わざわざ謝りに来るあたり案外いい奴なのか?


「別に今朝の事は怒ってないぞ」

「そうなの?」

「意外と気にしてたんだな」

「そりゃ嫌な気させてたら悪いじゃん。これからも雪菜の事とか色々聞きたいし時間があったらお話しよ?」

「別にいいけど…」

「やった!それじゃ皆待ってるから行くね。また明日!」

「ああ。また明日」


 大きく手を振る菊沢に軽く手を振り返して帰り支度を始める。菊沢は思ったよりもいい奴らしい。見た目で人を判断しちゃダメってことだな。


(俺もさっさと帰ってゲームしよ。)





ガチャッ…。


「ただいま」

「おかえり~。溜まってたから洗濯物回しといたよ」

「まじか。ありがとな」

「うん♪」


 最近の雪菜はぐーたら時代と打って変わって率先して家事を手伝ってくれるようになった。理由は分からないが心情の変化でもあったのだろう。正直もの凄く助かる。


「そういえば今日菊沢と話しててさ」

「菊沢…?ああ、花ちゃんのこと?」

「そうそう。昨日駅前で一緒にいるの見られてたらしくて」

「うげっ…。なんか言われた?」

「付き合ってるの?とか聞かれたけどちゃんと否定しといたぞ」

「ふーん。否定したんだ。ふーん」


 何故か唇を尖らせネズミッチのぬいぐるみを執拗につつく雪菜。


「にしても…雪菜にも友達っていたんだな」

「失礼な。中学の頃はそれなりに居たよ。色々あって今はボッチだけどね」

「菊沢とはもう友達じゃないのか?」

「不登校になってから連絡とか全部無視しちゃってるからね…。最後まで心配してくれてたのに」


 そう言うと雪菜はスマホをソファーの隅に置く。よく分からないけど友達の話はここらへんで終わらせた方が良いな。


「まあ、気にし過ぎんなよ」


 そう言うと俺は慣れた手つきで雪菜の頭を撫でる。こうすると気持ちが落ち着くらしいので、落ち込んでいる時なんかはよくこうして頭を撫でている。


「ありがと。小林」

「おう。にしても、菊沢は花ちゃんで俺は小林か。名前呼びでもいいんだぞ?」

「遠慮します。小林は小林。なんか響きが落ち着くんだよね」

「さいですか。神代がそういうなら仕方ないな」

「あ、そういう意地悪しちゃダメだよ?ちゃんと名前で呼んでね」

「わがままガール…」


 納得はいかないが雪菜がそういうなら仕方ない。俺の名前が呼ばれる日は一体いつになるのだろうか。

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