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第9話 想定外・・・そして前衛VS後衛!?

入学試験が終わり、Aクラスに入ったものの、納得しきれない結果に少し悔しさが残る。


(評価基準が不明だし……歴史の問題も足を引っ張ったが、結局俺は最優秀者ではなかった。まあ、10番目くらいか。最優秀者はスザクだ。)


試験結果に不満を抱えつつも、次の目標に意識を切り替えるしかない。スザクが最優秀者となったのも、どこか納得いかないが、自分の力を証明するにはまだ機会がある。


「Aクラスだ~!」

ロロが無邪気に歓声を上げる。


「回復の早いやつだな。」

彼の回復力の速さは、勇者としての資質の片鱗なのかもしれない。


入学試験を終えた1500人の全員が一応通過したのも、人手もない今の情勢を反映しているようだ。**「魔王復活」**の不安が、戦力強化を急がせているのだろう。合格者の中から100人だけが、ヴァイオレット王国の本校に通う資格を得た。俺たちもその中に入れたのは幸運だ。残りは各地の分校に送られるが、Aクラスの特権を無駄にしないよう気を引き締めねばならない。


~世界の情勢の分析~

この4日間で集めた情報を整理してみた。

ヴァイオレット王国は、今や人間の世界を統一し、人同士の争いはほぼ消えたらしい。魔王がいない間、一時的な平和は訪れたが、その分戦いの傷痕も見え隠れする。かつての停戦協定や協力関係は、魔王という脅威を失ったことで解消され、人間同士で新たな問題を生んでいたのかもしれない。


ギルドも昔とは形を変えていた。今は国家の正規部隊のように組織され、討伐任務を中心に活動しているが、自由が制限されている点は俺には不満だ。しかし、現状を維持するためには必要なのだろう。



魔物の数が減り、人々の生活圏が徐々に広がっている――それが表向きの情勢だった。

だが、その裏で不穏な報告が相次いでいた。《闇夜》から忽然と消えた村がいくつもあるという。そして、魔物退治の依頼も急増していた。


「魔王の復活が原因ではないか?」

そんな噂が各地で広まっている。**魔物が力を増しているのか、数が増えたのか、それとも両方なのか。**疑念は膨らむばかりだった。


エルフやオーガ、リザードなど、協力的な種族も次々と勢力を拡大しているという。だが、それ以上に気になるのは、未開拓地に魔族が集まり始めたという話だ。


「魔王がいない間、魔族を誰がまとめていたのか?」

その点についての情報は皆無だ。だが、不気味なのは――その間、魔族が一切の動きを見せず、静かに潜んでいたことだ。


もし、彼らが魔王の復活の時期をあらかじめ知っていたとしたら?

その間に十分な準備を整えていたと考えるのが自然だ。もしそうなら、こちらの状況は圧倒的に不利になる。



「まぁ、当面は持ちこたえられるだろう。」

アラバマはそう言ったが、俺の不安は拭えなかった。


俺自身、この世界に16歳で転生したばかりだ。魔王も、どうやら予定より早く復活してしまったようだが、そのせいで向こうもまだ地固めが終わっていないのかもしれない。とはいえ、安心はできない。


今、俺がすべきことは明確だ。


戦力を増やすこと

勇者の捜索、覚醒を促すこと

自分の魔力を回復させること

だが、一番の問題はこれだ――


「10代の身体って、こんなにも弱かったのか……?」

思い通りに動かないこの未熟な体に、俺は心底苛立っていた。魔力も徐々に回復するだろうが、以前のように戦える自信が湧いてこない。


(この先……本当にやっていけるのか?)


ふと、そんな弱気が頭をよぎる。


それでも、時間は待ってくれない。魔王の脅威は確実に迫っている。


俺たちが立ち上がる準備が整う前に、奴らが動き出せば――すべてが手遅れになるだろう。


今はただ、一歩ずつ、できることを積み重ねていくしかない。


「……焦るな、落ち着け。」


自分にそう言い聞かせながら、俺は歯を食いしばった。力を取り戻す時は必ず来る。 それまで、どうにか持ちこたえるんだ。


「戦いはまだ始まったばかりだ。」

そう呟いた俺の心には、わずかだが覚悟の灯がともり始めていた。


~実戦レベルの前衛と模擬戦の悲惨な現実~

 Aクラスには入れたものの、そこからさらに4つのクラスに分けられた。各クラス25人ずつだが、驚いたことに3割を前衛職で構成する方針が取られていた。これは戦力バランスを取るために無理に調整されたものらしく、Aクラスの水準に達していない前衛も1割ほど混ざっているのが現実だ。


当然、これが気に入らない後衛組からのちょっかいが日常的に発生する。実力主義の学園では仕方がないことだが、せっかくAクラスに選ばれた以上、彼らにはこの状況を乗り越えてもらいたい。


一方で、実戦レベルで戦える前衛は俺を除いて6人ほどしかいない。これからの戦いを担う重要なメンバーだ。既にギルドに所属している者もいるので、彼らの成長には期待している。


そこで各クラスの実力を確認するため、模擬戦を開催することにした。国が管理する魔物のいる森を舞台に、制限時間内で倒した魔物の数を競うシンプルなルールだ。


だが、結果は酷いものだった。

俺は「病欠」ということにして監督側に回ったが、どのクラスも前衛を囮にし、後衛の魔法で魔物を倒すという戦略ばかり。戦略と呼べる代物ではなく、ただの消耗戦だった。ギルドでも同様のやり方が主流になっているらしく、これが「最善策」と信じられている時代なのだろう。



「ひどすぎる!」

俺はヒゲ――アリゾナに抗議した。


「お前ら、なんでこんなことになった? 前衛の死者数が多い? 当たり前だろ、ただの囮じゃないか。」


アリゾナは困惑した表情で答える。

「そう言われましても……私たちはこうやって戦ってきたんです。後衛が安全でなければ攻撃できないでしょう? 死者が多いとおっしゃいますが、あなた方の時代の方がずっと多かったのでは?」


確かに、彼の言うことも一理ある。ヒゲは実力派の前衛であり、これまでの戦いをこの戦術で生き抜いてきた。


「でもな、なんでパーティーで戦っているのに、戦い方が籠城戦みたいになってるんだ? 動かない方が強いなんて、どういう理屈だ?」


「そりゃ、後衛を守るために前衛が走り回るのが得策でしょ? 少しずつ陣形を進めるのが最善です。あなたの言う“助け合い”戦術なんて、一人欠けたら終わりですよ?」


「……あぁ~そうじゃないんだよ、バカ!」


「バカとは失礼ですね。説明が下手なのでは?」


「説明が長いんだよ。だから俺の文献を読めって言ってるんだ。」


この論争は埒が明かない。アリゾナの指摘も的を射ているのがまた腹立たしい。


「なら、1ヶ月だけ時間をくれ。提案がある。」


「提案?」


「前衛を全員、俺に預けろ。1ヶ月で育て上げてみせる。そして最後に前衛20人VS後衛20人の模擬戦をするんだ。」


「前衛と後衛の戦いですか? 条件次第では不公平になるでしょう?」


アリゾナは半ば呆れたように言うが、俺は食い下がらない。


「場所は後衛側が決めていい。それに、後衛が強いと思っているなら、この条件を断る理由はないだろ?」


案の定、後衛組はスザクを中心に提案を受け入れた。学園の教師からは「前衛が不利すぎる」と止められるほどだったが、俺はむしろこの状況を楽しんでいた。


「面白くなってきた。」



~臨時講師「フォミィ」の登場~

「こんにちは。臨時講師としてあなた方を訓練することになりました、フォミィといいます。この授業は私が担当します。」


自己紹介をしたのは、俺が操る魔道具の人形「フォミィ」だ。この人形は魔力を込めて操ることで自在に動かせるが、普通は劇などに使われるもので、俺が使わないと戦闘向きではない魔法だ。だが、俺はこの人形を駆使して、講師として前衛組を指導するつもりだ。


この計画はアリゾナにも話を通しており、彼は「自分も戦術を学べる」と納得していた。これで準備は整った。あとは前衛たちのやる気を引き出すだけだ。


「さて、お前らには1ヶ月で変わってもらうぞ。」


フォミィという仮面を使って、俺は前衛たちを鍛え上げるつもりだ。これが成功すれば、戦術の常識を覆すきっかけになる。だが、1ヶ月後に待ち受ける模擬戦――そこでの勝利が絶対条件だ。


「さあ、始めようか。」

ここからが本当の戦いだ。


フォミィ――つまり俺が講師として臨む最初の授業。生徒たちからさっそく核心を突く質問が飛んできた。


「なぜ後衛と戦うのですか? 層も実力も後衛のほうが強いじゃないですか? それに、賢者の文献って時代遅れですよね?」


やはり、賢者の文献が1500年前の架空の人物のものだという疑念があるようだ。実際に伝わっている文献も少なく、その内容が信用されないのは無理もない。


俺は答える代わりに、生徒たちに具体的な戦闘シナリオを与えた。

「オーガ2体と邪鬼15体を、深い森で討伐する任務だ。この場合、最適なパーティーメンバーは?」


オーガ:Aランクの魔物で3メートルほどのパワー型。厄介な敵だ。

邪鬼:Cランク魔物。Bクラスの5人パーティでも15体なら容易に対処できるが、動きが癖のある厄介な存在だ。

生徒の答えはこうだった。


「前衛2人で邪鬼を引きつけ、後衛3人が魔法でまとめて攻撃します。邪鬼を処理した後、前衛が1:1でオーガを押さえ、後衛で体力を削りつつ回復役を含めた8人パーティで攻略します。」


俺はこの答えを聞いて、アリゾナ最高顧問に訂正を求めた。

「どうだ、間違ってるか?」


アリゾナは言葉を濁しながら答える。


「今の考え方では正解です。」


(逃げたな、こいつ……)


「賢者の文献から導き出すなら、前衛3人、後衛2人で十分だ。」


この言葉に、生徒たちは驚きの表情を見せる。


俺は生徒たちの疑念に構わず、説明を続けた。

「邪鬼程度、前衛が一体ずつ仕留めればいい。後衛は支援と強化に専念し、敵が逃げられないよう牽制する。もしもオーガが動き出したら、後衛が足止めしろ。それでも足止めに失敗した場合は、前衛が壁となって立ち塞がるだけだ。」


「重要なのは、魔物を一箇所に集めないことだ。一度に敵の戦力が結集すると、こちらが崩壊する可能性が高い。」


俺は一拍置いてから、静かに続けた。

「邪鬼を全て片付けた後、前衛と後衛が協力してオーガの片方を早急に倒す。最後に残った一体を全力で仕留めれば、それで終わりだ。」


生徒たちはまだ困惑している。**「そんな少人数で可能なのか?」**という疑念が、彼らの表情に浮かんでいる。俺はそれを見て、あえて質問をぶつけた。


「君たちは今の説明を聞いて、どこが無理だと思った? 問題点を挙げてみろ。」


生徒達が手を挙げる。

「前衛の負担が大きすぎます。」


「はい、次。」


「オーガに対抗できる前衛が少ないので、適したメンバーを揃えるのが難しいです。」


「いい指摘だ。」


「前衛がどちらの魔物も仕留め損ねた場合、全滅のリスクが高まります。」


「その通り。」


「その場の状況が複雑すぎて、後衛が前衛の動きについていけなくなるかもしれません。」


俺はゆっくりと頷いた。

「いいね、君たちはちゃんと考えている。」



俺は頷きながら言った。

「なるほど、良い指摘だ。では、君たち自身がその前衛だった場合、これらの問題を解決できるか?」


少しの沈黙の後、一人の生徒が答えた。


「できますか? じゃない、どうにかするんだよ。どんな場面でも予想外のことは起こる。それに対応しなければ、ただ死ぬだけだ。」


すると、別の生徒が口を挟んできた。


「その場しのぎみたいな答え方だな……」


俺は微笑んで言った。

「でも、大正解だ。」


戦いに必要なもの

「実際、戦いで一番重要なのは状況判断だ。」

「偵察、地形、有利不利の分析――その全てが勝敗を左右する。魔物が少ないからといって、ただ突っ込んだり魔法を撃ちまくるのが正解とは限らない。」


俺は続けた。

「さっき挙げてもらった問題点、思い出してみろ。全て、君たちの前衛としての実力を上げれば解決できるものばかりじゃないか?」


「はっきり言おう。この時代の前衛は弱すぎる。君たちは、これからの訓練で実力を上げ、状況判断の重要性を学ぶ必要がある。それを可能にする力をこれから手に入れるのだ。」


俺は教室を見回し、改めて問いかけた。

「準備はいいか?」


俺の言葉を理解した生徒たちの目に、覚悟とやる気が見え始めていた。この1ヶ月の訓練は、彼らにとって厳しいものになるだろう。しかし、それを乗り越えた先に、真の前衛としての強さが待っている。


「さあ、始めようか。」


これで、次の模擬戦は違うものになるはずだ。俺が求めるのは、「ただの囮」ではなく、状況を制する強者たちだ。


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