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王子は弱虫・・・そして試験開始

「といった感じだ」


俺はギルドから戻り、アラバマに報告を終える。


「その2体の魔物については?」

アラバマが尋ねた。


「わからん。見たことのない魔物だ。それに奴らは逃げた。森を一人で見回したが、封印したはずの樹王はどこにもいなかった。ただ、あの2体から樹王の気配が微かに感じられた……だが、それ以上に禍々しかった。魔王の力を取り込んで強化されたように思える」


「つまり、魔王が他の魔物に力を与えている?もしくは力を奪われて魔物が暴走したか?」


「仮定の話だがな。もし本当なら、今後も似たような事態が起こりうるだろう」


「……早めに対策を打たなければなりませんね」

「それと、もう一つ頼んでいた件は?」


アラバマは真剣な表情のまま言葉を続ける。


「ああ、ギルドの現状な。後衛職が多すぎるのが気になる。それに、前衛は弱すぎる。Bクラスとは名ばかりで、あの程度じゃCかDレベルだ。逆に後衛はCクラスでも魔力だけならAクラスに匹敵する。これも異常だな。上位層がとんでもなく強くなっている証拠だ」


「確かに、昔に比べると魔力自体は強力になっています。現在では、ほとんどの者が高度な魔法を扱えるようになっていますが、経験や冷静な判断力が追いついていないのが実情です」


「なるほどな。俺の時代では、あれほどの魔法を使えるのは上位者だけだった。Aクラスまで上がるためには魔力値よりも総合力が求められていたが、今は魔力の強さが優先されているのか」


「その通りです。現在、Aクラスまでは魔力値が重要視され、選ばれた者だけがSクラスに昇格します」


「まぁいい。けど、前衛はなぜあんなに弱い?」


「Sクラスの前衛は例外的に強力ですが、A以下の前衛は衰退気味です。王国騎士団へ編入する者も多く、ギルド内での前衛育成が停滞しています。Bクラス以下は、魔力が足りず後衛になれなかった者が多いのも理由です」


「つまり、単に前衛が魅力を失っているってわけだな。学校から改革を始めるしかない」


「ええ、それが最善かと……。ですが今の時代は後衛職こそが全てとなっており学校でも差別が起きるほど前衛は落ちこぼれが多く4,5年で変わるとは思いませんが実際私どもも後衛職のみのパーティーで十分だと思っている人もいます。魔法にも色々ありますからね」


「トップが変わる気ないか・・・そこまで深刻だとわな」


(けどやっぱり、前衛で戦うのは楽しいよな。あの《勇者レオ》みたいに華がある……ただの狂人みたいに聞こえるが)


俺は思わずにやけていた。



~弱虫王子との再会~

翌日、早朝から王子ロロのもとへ向かった。


「トントン」


ドアを叩くと、ヴィニーが応じて扉を開ける。


「王子、いるか?」


「ふん。そんなことで、この国の頂点に立てると思うか?」


ロロは既に着替えを済ませ、お茶を嗜んでいた。


(相変わらず生意気なガキだな)


「で、何の用だ?」


「明日の試験に向けて腕試しだ。ついてこい」


ビクッと肩を震わせ

「えー、それは無理~」


またしても弱虫王子モードに入った。


「何度も言ってるだろ、戦うなんて無理なんだって。学校に行くって決めただけで精一杯なんだから」


「まさか、落ちてもいいと思ってるんじゃないだろうな?」


「……ヴ……そんなこと……」


(図星か)


「まぁいい。まずは学校の話をするぞ」


「また嫌な話だろう?」

ロロは今にも泣きそうな顔をしている。


「俺たちは、身分を隠すために“消えた村の生き残り”として学校に入る。そして、学校の寮で生活することになる」


「Aクラスに入るのが最初の関門だ。Aクラスに入れなければ寮の環境も最低レベルだし、授業内容もまるで違う。それに、俺の近くにもいられなくなる」


「無理だよ! Aクラスなんて貴族とか有名な魔法使いの家系の子供ばっかりだし、それに寮に入ったらこの豪華なベッドにも戻れないなんて、そんなの絶対無理!」


(……お前は王族だろうが。ふかふかのベッドが命なのか?)


「黙れ。それと、俺たちは友達だ。互いに気を使うのは禁止だぞ。特に頼ってすがるのは絶対に無しだ」


「賢者ごときが王子に向かって偉そうに……まぁ許してやるけどな」


急に威勢が良くなるロロに呆れつつも、俺は言った。


「それならいい。お前の実力を見せてもらう。さっそくついてこい」


「ちょ、ちょっと待て!」


弱気なロロを半ば強引に連れ出し、腕試しへと向かった。


~城内魔法訓練室にて~

 静かな魔法訓練室で、ヴィニーが準備中の王子―ロロの代わりに説明を始めた。


「王子は索敵や隠密といった後方支援が得意です。ですが、王にも使えない炎の魔法を使えます」


「光でも火でもなく、炎か?」

 俺は確認のために問いかけると、ヴィニーは真剣な顔でうなずく。


「はい。通常の火よりも高火力で、形状も変化する上位魔法の“炎”です。ですが、本人は熱すぎると言って嫌がります。実際、使うたびに火傷を負うので……」


「珍しいな……天性の上位魔法者か」


 上位魔法者――それは火を「炎」、水を「氷」、土を「鋼」、風を「雷」といったように、上級魔法の性質を下級魔法の段階から使える者を指す。

 俺も先日、下級魔法ながら雷の魔法を使ったが、それも上位魔法の一種だ。上位魔法の利点は、通常の10倍の威力を持ちながら、魔力消費はわずかで済むこと。ただし、その制御は難しく、使い手の熟練度が求められる。


まれに、生まれつきこの力を持つ者もいる。俺もそうだが、使いこなせなければロロのように反動で自分が負傷することもある。


「ですから、王子は極端に炎魔法の使用を嫌がっています」


 ヴィニーは心配そうに、少し離れた場所で準備をしているロロの背中を見つめた。


「ロロ、明日の入学試験では筆記、魔法力、そして身体能力の評価で総合点が決まる。今回の試験は《闇夜》事件の影響で、途中編入のギルド員や在校生の再試験も同時に行われる。競争は激しいぞ。その中で勝ち上がるには、やはりお前の炎の魔法が必要だ。使えるか?」


 俺の問いに、ロロは腕を組み、不機嫌そうに顔をしかめる。


「絶対に使わない。おれの魔法で火傷するなんて、そんなダサいことやってられるかよ。それで腕がなくなったらどうするんだ?」


「そんなかっこいい魔法を使えるくせに逃げるのか?」

 俺は笑みを浮かべながら挑発するように言った。


 ――昔の勇者レオも、炎を操った。彼の足跡をたどるたびに、あらゆるものが焼き尽くされ、敵の屍さえも残らなかった。その姿は圧倒的で、美しかった。


「仕方ない。いいものをやろう」


 俺はポケットから古びたブレスレットを取り出し、ロロに差し出す。


「これは俺が昔使っていたやつだ。火属性の攻撃を無効化できる。これをつけて、思い切り撃てばいい」


 ロロは目を輝かせ、勢いよく俺の方に近づいた。


「さすが賢者様!すげぇアイテムだな!最初からそういうのを出してくれればいいのに!」

 嬉しそうにブレスレットを装着し、そのまま飛び跳ねるように走り去っていった。


「ただし、使うのは明日だけだぞ。壊れるかもしれないからな」


「そんな簡単に渡して大丈夫なんですか?」


 ヴィニーが心配そうに俺に問いかけた。


「世の中にそんな都合のいいアイテムがあるわけないだろう」


 俺は肩をすくめた。


「今のは嘘だ。ただの飾りだよ。魔力石を使ったアイテムは存在するが、使い切りだし、純度の良いものでもせいぜい下級魔法を補助する程度だ。武器に取り付けて火の矢を放つくらいが限界だな」


「じゃあ、ロロ様は……」

 ヴィニーは驚いて、焦った様子で詰め寄ってきた。


「心配ない。ロロには、炎魔法を使いこなせる素質がある」


「本当に?」


「王族と勇者の血筋を引いてるんだ。信じろ」

 俺がニコッと笑ってみせると、ヴィニーはため息をつきながら、複雑そうな表情を浮かべた。

「……もしかして、それだけですか?」


 横でブレスレットをつけてはしゃいでいるロロを見ながら、ヴィニーは心配そうな表情を浮かべる。


 その後、俺たちはひと通り訓練を終えた。



「それじゃあ、明日はAクラス編入を目指して、最善を尽くせよ。三人ともな」


「……三人?」


 ロロとヴィニーが驚いた顔でこちらを見た。


「伝えなかったか? ヴィニー、お前も試験を受けるぞ」


 ヴィニーの顔が一気に青ざめる。


「えっ!? 私なんてただの召使いみたいなものですよ!」


「何言ってんだよ、ヴィニー! お前が一緒なんて最高じゃないか!」


 ロロが楽しそうに笑う。


「王子もそう言ってるぞ?」


「そんな……私なんて大した能力ないのに……」


 俺がにやりと笑うと、ヴィニーは困ったように眉を下げた。その表情はなんとも言えないものだった。


翌朝――三人の挑戦が、ついに始まる。



~試験当日:開始の合図とともに~

「おっしゃ行くぞ!」


 先日の不安はどこへやら、ロロが元気いっぱいに拳を振り上げた。それに対して、やつれたヴィニーがトボトボと歩いてくる。


「すまないなぁ。伝えたつもりだったんだが」


 俺は申し訳なさそうにヴィニーの肩をポンと叩く。夜通しの勉強と特訓のせいで、彼は目の下にクマを作っていた。


「ヴィニー、落ちたら容赦しないからな!」


 ロロが楽しそうにからかう。


「めんどくさいから飛ぶぞ!」


 俺は指をパチンと鳴らし、瞬間移動魔法を発動させた。


 目を開けると、そこは試験会場――RVRスクールの広大な校庭だ。


 目の前に広がるのは1500人以上の受験者。12歳から20歳までの生徒たちが集まっており、全世界から腕に覚えのある者が集結していた。この学校では、魔法の素質によってAからEクラスの5段階に分けられる。魔法が使えない者は、別の生産系職業クラスや王国騎士を目指す騎士クラスへ進むことになる。だが、Aクラスに入れるのは、ブリタニア王国の中でも最も優秀な者だけだ。各国の期待を背負った受験生たちは、皆この試験に全力を注いでいる。


その壮絶な光景に圧倒されたのか、ロロは一気にテンションが下がる。


「やっぱ無理……」

 いつもの弱気な口癖が出た。


「おい、さっきまでの威勢はどこに行ったんだよ。しっかりしろ」

 俺が呆れたように言うと、後ろから聞き慣れた声がした。


「あら? ルーシュさんじゃないですか?」


 振り返ると、一昨日の討伐任務で一緒だった聖職者キキが微笑んでいた。


「これは先日はお世話になりました。ここにいるってことは?」


「ええ、私は再試験です。見た目より若いんですよ」


「お互い頑張りましょう」


「はい、よろしくお願いします」


 キキがにこっと笑い、去っていった。その様子を見ていたロロが、怪訝な顔をする。

「なに? 転生4日目で彼女ゲットか?」


「そんなわけあるか。ただ任務で一緒になっただけだ」


 ロロは全然納得していない様子で、さらに睨んでくる。


突然、会場に響き渡る音楽

 「ジャララァン・チャチャチャチャ~・ラララララン!」


 ファンファーレが鳴り響き、参加者たちがざわつく。


「皆さん、お待たせしました。当学園RVR SCHOOLの特別最高顧問、アリゾナ・アリンゾロフです。まあ、私の名は誰もが知っているでしょうが」


 自己顕示欲が強いこの顧問に、俺は心の中でため息をつく。


「では、さっくりいきましょう。人数が多いので、一人ひとりの床が光ったら、そのまま会場に転送されます」


 床が次々と光り出し、参加者たちの視界が一瞬で白く染まる。


~試験会場:広大なアスレチック空間~

 目が慣れると、そこは巨大なアスレチックの試験会場だった。幸運なことに、俺たち三人は同じ部屋に配置されたようだ。しかし、そこで待ち構えていたのは――


「よう、髭のアリゾナか」


 試験官として立っていたのは、試験担当のアリゾナだった。


(あいつ考えてるな。髭が担当になれば王子は下手打ってもAクラスには行くだろう。しかし試験結果が悪いと格好がつかんぞロロ)


「そこの生意気そうなガキ、今日の試験内容を言ってみろ」


 アリゾナが俺を指差してくる。


(いちいち絡んできやがって)


「試験は、体力、魔力、学力の三つです」

 俺が敬語で答えると、彼は鼻をフンッと鳴らしてご機嫌そうに頷いた。


「よろしい。では、さっそく体力試験から始めるぞ」


 アリゾナが手を叩くと、広い部屋に一瞬でアスレチックコースが出現した。


「ルールは簡単だ。この障害物を避けながら、スタートからゴールまで最速で突破すること。魔法の使用は自由だ。これらの障害物は特別製で壊れないから、思う存分攻撃して構わん。ただし、他者への魔法攻撃は禁止だ」


 生徒たちは急な展開に戸惑い、ざわつき始める。


「では――スタート!」



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