第21話 劣勢・・・デン君の意志
合図とともに、俺たちは即座に各所に展開した。各パーティーは、後衛組を早急に見つけて叩くことを目的に、スピード重視で動いていた。陣地を取られる前に、先手を打つ必要があった。
「ジャックPT、先遣隊を確認!」
「偵察要因なら早めに叩くぞ!」
そんな通信魔法が入ってきた。地理や偵察地点から考えるに、本来は俺が先遣隊と会うはずだったが、どうやらジャックPT側に先遣隊がいたらしい。その報告を最後に通信が途絶えた、妨害を考えていたようだが、その対応があまりにも早すぎる。
(何かおかしい……)
不安がよぎる。俺は直感的に感じた。この戦い、何かが違う。
「メロ、ここは任せる。」
「えっ、ルーシュさん?」
何も言わずにそう告げて、俺はパーティーから離れた。見晴らしの良い高台に登り、周囲を見渡す。俺はロロたちに「開始5分で後衛が準備完了していると優秀」と言ったが、今やその言葉は空虚に響いた。後衛たちはそれ以上の速さで陣形を整えていた。こちらの位置がすでにバレている。なぜか? さらに、戦闘が始まっている場所もあった。
(早すぎる。この攻め方は異常だ)
いくら後衛が有利だと言っても、無謀に突っ込むことはない。だが、相手の勢いは尋常ではない。今、全てが向こうに有利に配置されている。運試しみたいなことはおかしい。
どこを攻めてどこを守るかがすべてこちらの行動がわかっていないと成立しないような状況・・・
その時、突然大きな音が響いた。
「やばいな……ジャックのところか。」
俺は急いでその方向へ向かった。
森の中を5分ほど移動し、ようやくジャックを見つけた。彼は後衛組から逃げてきたのか、息を切らしていた。
「おいっ、ジャック、どうなってる?」
「良いところに来た。先遣隊だと思って叩きに行ったら、もう囲まれていたんだ。それも10人、多すぎる。」
「それで、みんなは?」
「ダメだ、勝てる要素がなかった。クシィがひとり残ると言ったが、レインも残って足止めしている。俺はティムズに強制的に引かれた。それでも追ってきたから、ティムズも止めると言って、さっき1人残った。お前がいるならあいつらを助けに行ける。」
(10人?多すぎる。最初からジャックPTを狙っていたとしか思えない)
「ダメだ、戻らない。分が悪い。このまま引け、ロックPTと合流しろ。」
「おいっ、ふざけんな!お前が味方を見捨てるのか。」
「これは本当の戦いじゃない。本当の戦いなら作戦がバレている場合も考える。しかし、これは模擬戦だ。お互い作戦の詮索は禁止の条件だが、油断した。完全にバレている。そういう能力がいるのか、または何か別の理由だ。」
「作戦がバレている?どういうことだ、ルーシュ?」
「わからん。作戦変更だ。さっきも言ったように、各PTで判断しろ。ロックにも伝えてくれ、作戦がバレていると。」
俺は熱くなっているジャックを抑え、1人敵側に向かった。
(くそっ、なんでバレた?始まって5分でジャックが囲まれた。考えられるのは作戦が漏れた。あいつら、本当にルール違反か確かめるしかないな)
移動しながら、俺は考えていた。様々な可能性が頭を駆け巡るが、今の状況は作戦がバレているとしか思えなかった。作戦がバレる状況になるとは思ってもいなかったから、対策は考えていなかった。これも俺の責任だった。
「これはあいつの言ったとおりで1つのパーティー壊滅かな?」
後衛組だろう声が聞こえてきた。
「おい、どういうことだ?」
ジャックが話していたティムズと別れた付近を詮索していると、俺の目の前に一人の後衛組が現れた。
「トラップにもかからず、気配なしでここまで……ルーシュだな。一番警戒しろと言われている。」
ガサガサと茂みからさらに2人が出てきた。
「3対1だぞ。どうする?」
術を唱えながら、俺に対峙する3人。
「さっきの話、詳しく聞かせてもらう。」
パチンッ。
_________
「わかんねぇって。おれはリントが言ったとおり、向かってきたパーティーをやっただけだ。」
「ちゃんと話せ。そのリントってやつは、なんでこの位置がわかった?」
俺は2人を退場させ、この男を捕まえて尋問中だ。
「だから知らねぇって、あいつは時々よくわからんことを言うんだ。けど頭も切れるし、実力もある。俺らはそれに従ってるだけだ。」
「この作戦はいつ聞かされた?」
「今朝だよ。昨日の昼までは違う作戦だった。」
(こいつは何も知らないな。もしかして全員知らないのか……リント、学園3位。ここまで曲者か)
「ありがとう。」
パチンッ。
指を鳴らし、こいつも退場させた。
(退場者はこっちも3人、向こうも3人か。だがこっちは主軸を担ったメンバーが抜けた。さて、どうするかな)
このままだとこっちが不利だ。少しかき回してみるか。
「いたいた。どうだ、様子は?」
俺はロックパーティーと合流し、状況を伺った。
「おいっ、どういうことだ?作戦がバレてるってのは?」
ロックが鋭い眼差しで問いかける。
「わからん。ただ、こっちの作戦を知っている奴がいる。それも一人だけ、詳細は不明。ただし、他の連中は、ただ言われたことをやっているようだ。それに、今から作戦を変更する。逆手に取るんだ。今の感じだと、作戦を変えれば後衛はついてこれないはずだ。」
現状を淡々と説明した後、思い切った決断を口にした。
「ロック、ジャックの代わりにデン君を借りていくぞ。」
「おう、それは良いが、そいつ元気ないぞ。」
ロックは心配そうに言った。
「大丈夫だ、デン君の力が必要なんだ。それに、たぶん今は俺のパーティーが奇襲を受けている。メロを助けてやってくれ。頼むぞ!」
デン君を連れ、彼がついてこれるギリギリのスピードで走り出す。
「ルーシュ、俺……」
「何も言わなくていい、ただついてこい。」
「はい……どこに向かうんですか?」
デン君は何か言いたげだが、俺は聞かずに走り続けた。
突然、フィールドに「現在の生存者数」がモニターに映し出された。前衛15人、後衛17人。
(やっぱり俺のパーティーが狙われているか?)
「デン君、頑張れ!もっとスピード上げるぞ!」
「無理ですって……早すぎます!」
「ダメだ、ここからは敵も出てくる!」
「見つかってもほっといてくれるぐらいの速さで抜けるって!」
「敵って?さっきから一体どこ向かってるんですか?」
「敵本陣だ。理由はわかるな?死ぬ気でついてこい。」
「え…………あ……はい。」
デン君は元気がないままうつむいて着いてきていた。
「ピコン」
前衛13人、後衛13人。後衛が一気に減少した。
(リリス達か。後衛の連中、油断したな。あそこは化け物揃いだ。)
「デン君、捕まれ。飛ぶぞ!」
「ええぇ?」
パチンッ。俺は本陣があるだろう付近で索敵しながら走り、本陣を見つけると一気に飛び込んだ。
「よぉ、スザク。知らないとは言わせないぞ。」
俺が急に背後から現れると、敵本陣が一瞬で慌てだす。
「ほら、デン君、話せ!」
ポイっと抱えていたデン君を突き飛ばす。
「何のつもりだ?」
スザクがこちらを向き、周囲を固めるよう指示する。どうやら、機嫌が悪そうだ。
「何だその雑魚?何の用だ?もう殺られに来たか?」
スザクは今にも戦える態勢だった。しかし、ここでこいつと数人を相手にするのは明らかに分が悪い。
(こいつ、戦ってると悪役そのものだな。)
「デン君。」
俺はもう一度デン君の名前を呼ぶ。ビクッとしたデン君は、震える声で言った。
「すいません……話すも何も……なにもないです。」
やはり何かに怯えている様子だ。
「何の茶番だ?消されたいのか?」
「デン君、言わないといつまでもこうだぞ。」
「……す、すいません!ルーシュさん!」
下を向いたまま喋るデン君。その表情は、まるで不安の影に怯えているようだ。
「おれは昨日、そこの眼鏡の人に乱暴されました。作戦を言わないと痛めつけると……最初は断りました、本当です。でも、あちこち殴られて、痛くて悔しくて、でも我慢できなくなって……このことを誰かに話せばもっとひどい目に合わせると。」
彼の拳は力んでいるが、目からは涙がこぼれている。
「でも今は……裏切ったこと、おれがチームのみんなを信用できなくて話せなかったことに後悔しています。伝えていたらまだみんなが脱落していなかったかも、おれがいないだけでチームは勝っていたかもしれないのに、おれは……おれは……」
「うわぁぁぁぁ!」
と、デン君はスザクの後ろにいる眼鏡に向かって走り出した。
「何の話だ?被害妄想か?」
向かってくるデン君の顔面を、眼鏡が一撃で殴る。
「いたた。昨日脅した?!後衛なのに人を殴るなんてしませんよ、怪我するでしょ。今みたいに。」
眼鏡はニヤつきながら手を振った。
「お前、腐ってやがるな。」俺は眼鏡を睨む。
「怖い怖い。あなたは強いです、それはすぐわかりました。けどこの状況、逃げられると思ってるんですか?」
増援がすぐに来る。俺とデン君は5人に囲まれている。それに加えて、眼鏡とスザクがいる。これは、まさに絶体絶命だ。
「おい」
そう声を発したのはスザクだった。
「リント、説明しろ。」
「はい?何をですか?こんな奴らと知りま……」
その言葉が終わる前に、スザクの拳がリントの顔面に直撃した。
眼鏡が崩れ、彼はその場に崩れ落ちた。これつがリントだ。
「ちゃんと説明しろと言ったんだ。俺は正々堂々と戦えと言ったはずだ。お前、何をした?」
後衛たちは、何が起こったのかとキョロキョロと周囲を見渡している。俺も呆然としている。
ペッ。
血が滲んだのか、リントはつばを吐き出し、しゃべり始めた。
「こんな奴らと戦っても勝つのが見えているでしょ?でも、完璧に勝ちたかったもので少し作戦を聞いただけですよ。」
そう言うリントは、まるで罪を感じていないかのようだ。
「お前はいつもそうだ、賢いがずるい。しかし今回はやりすぎだ。それに、何だ?勝つのが当たり前?作戦を知っててもいい勝負じゃないか?」
「雑魚は仕方ありません。私たちがいれば負けないので、早めに強いやつを叩いただけです。これで楽に終わらせられるでしょ?」
リントは、まるで反省の色を見せずに言い放った。
スザクの機嫌が悪いのは、俺たちがいい勝負をしているからかもしれない。
「すまない、ルーシュ。もういい、俺たちの負けで……お前もすまなかったな。」
そう言って、デン君に手を差し出す。
「デン君、これで良いのか?」
俺がデン君に問いかける。
「……よ……ん」
何か言っているようだ。
「聞こえんな。」
「よくありません!」
スザクの手を振り払って立ち上がる。
「それでも俺たちは強い!俺のせいでみんなに迷惑をかけた!でも、俺たちが勝てるってことをお前らに証明する。そして、眼鏡、お前は俺に謝れ!」
「だそうだ、スザク。手を抜かず、本気でこの勝負続けてくれるか?」
「良いのか?後悔するぞ。」
「ふん、私たちが負けるものか。」
リントが言う。
スザクも戦いたいようだった。リントは一切反省していないが、デン君の件は受け入れたようだ。
その時、耳をつんざくような声が響いた。
「そ~~~~~~~~~れっ!」
ゴォオオオオオオオオオオオン!
スザクがいた場所が粉々に吹き飛んだ。
「なんだ?ルーシュ、一人でパーティーを始めようってか?」
そこに現れたのはリリスとジャック。
「この程度か、後衛どもは。」
ノシノシと歩いてくるロックは、しっかりと岩の鎧をまとっている。
「おいおい、なんでお前ら三人ともここにいるんだよ?」
驚きが声に混ざる。