第1話プロローグ 魔王封印……そして転生へ
(何度戦った?何度追い詰めた?)
(それでも、奴らは終わらない――)
~魔王。魔王。魔王。~
転生するたびに蘇り、世界を脅かし続ける存在。
7度目の最終決戦を目前にして、私はいつもの感覚に囚われていた。
"終わり"がない。封印するだけではダメだ。殺さなければ・・・
そう思いつつ6度も転生を繰り返し
結局、封印しか方法がなかった――この役目を果たせるのは私だけなのに。
幾度も仲間たちを見送り、次の命へと"一人"で旅立つたび、空虚な思いが胸に広がる。
~勇者の異変~
最終決戦前に今までのことを考える私に声をかけてくる。
「何考えてんだ、大賢者様?」
声をかけてきたのは、今回の勇者レオだ。
彼は信じられないほど強い。これまでの勇者の誰とも違う。なぜかその強さが気にかかっている。
「いや、今回……順調すぎる気がしてな」
「お、縁起でもねぇこと言うなよ。調子がいいのに文句でもあんのか?」
彼は笑いながら冗談めかすが、その瞳は戦いの予感に鋭く光っている。
(……どうも引っかかる。これは、あまりにも……うまくいきすぎている)
私の経験では、魔王との戦いは必ず互角。それでも勝てず犠牲は避けられないものだ。
しかし、今回はどうだ?勇者レオ一人の力で、魔王軍の戦力はわずか**60%**にまで削られた。
これまでの常識が通じない。
「そういう時代があってもいいじゃないか。負ける気がしない」
勇者は答える。
「何なら一人でいい」
と楽しそうに続ける。
「私がいないと封印できないだろ」
呆れて返すが、
「倒してしまえばいいんだよ」
と笑って答えるレオを見ると、本当にできそうな気がする。
勇者と出会って3年、お互いに25歳だ。
今までの勇者より信頼ができ、強い。2人で何でもできる気さえするほど頼もしかった。
冗談交じりとは思えない自信で、レオは続ける。
本気で――この男なら、"本当に"やってしまいそうな気がする。
「時間だ、行くぞ」
勇者にパァンと強く肩を叩かれた。
~決戦の始まり~
魔王との最終決戦が始まった。
魔法陣が輝き、血煙が舞う中、勇者レオは猛然と突き進む。
脇目も振らず、彼はまっすぐ敵を斬り伏せていく。その姿はどこか眩しく見えた。
「もっと進もう。俺とお前なら終わらせられる」
優勢には変わりなく、ほぼ勇者と私で前線を押し上げている。
バランス良くパーティーを組まず、強者だけを集め、バックアップ、雑魚狩りとはっきり役割を分けた今回の陣形は戦力差もあり調子がいい。
私が詠唱し、大部分を叩いている間に他のパーティーを救援し
私の周りに敵が湧くと戻ってくる。機動力を活かすため、勇者とエルドリックは2人パーティだ。
とびわまり華麗に敵を葬るその姿が私は好きだ。
目に映る勇者はかっこよく、後衛職では到底できるものではないとエルドリックは確信している。
ついつい勇者に飲まれ前に前に出てしまう私を引き留めることもなく勇者は言う。
「なんだよ、大賢者様。お前……もしかして"殴り魔"か?」
笑いながら話すレオはまだ余裕があるのだろう
「……バカを言うな」
しかし、前線で感じるこの感覚――守られるだけでは味わえなかった高揚感がある。
レオの背中を見ていると、自分も何だってできる気さえする。
~魔王との対峙~
そして、私たちは魔王の元にたどり着いた。
だが、そこで思わぬ誤算が待ち受けていた。
魔王は、今までとは違った。
これまでは仲間を労り、共に戦う姿を見せていた魔王だが、今回は違う――仲間もろとも、私たちを叩き潰そうとしてくる。
魔王自身の"生存"を最優先に、すべてを捨てて。
思った以上に逃げ場がなく、それを受け止める。
それが繰り返されるうちに、私たちは消耗した。
魔王自信も予想外だったのは――勇者レオの存在だったのだ。
勇者レオは強かった…強すぎた…魔王が警戒…そんなレベルじゃない。
自分を守るためだけにすべてを犠牲にしていたのだ。
まんまと倒す気でいた私が深く入り込みすぎた。
魔王は最初から狙っていた。
倒されない方法を、封印でいいと最初から諦めていた。
たぶん人数を集めても同じ結果だったと思うが魔王にとって一番いい結果になってしまった。
私達2人しかいない状況が…
「……ダメだな、悪い」
魔王の猛攻に、レオが膝をついた。
仲間ごと攻撃する魔王、温存していた勢力がすべてこの場に集まってくる
「お前が諦めるな!」
「……けど――」
次の瞬間、魔王の攻撃が直撃する。
「10分くれ!!」
私は必死に叫んだ。
レオは傷つきながらも笑ってみせる。
「……10分とか、お前にしちゃ長ぇな」
――この戦いで、"倒せる"と思った。
油断はしていなかったが期待はしていた・・・
それこそが魔王の狙いだった。
10分耐え続けた勇者
まばゆい光に包まれ消えていく魔王
「・・・・・・・だ」
魔王がなにか言ったように聞こえた
「すまない、レオ……」
後悔の言葉が、知らず口をついて出た。
魔王を倒すことはできなかった。だが、封印は成功した。
「……おめでとう。けど、倒せなかったな……ごめんな」
回復魔法を全力で行うが、助からないのはわかっていた。
瀕死のレオは、私に微笑んで言った。
「封印おめでとう。けど今回も倒せなかったなゴメンな。何度も転生して辛かっただろうに。
お前の話聞いているうちにお前のために強くなろうって思ったんだ。」
その声は途切れ途切れで、もうすぐ消えそうだった。
「それ、女に言うセリフだぞ」
いつもの冗談を言っているかと思った。
「……笑わせんなよ、早死にするだろ……」
「だからしゃべるなって……私もお前といて楽しかった。今までとは違う経験をいっぱいさせてくれた。それだけでお前みたいになりたいって思うようになった」
「また世界を頼むよ……」
フッと笑ったように見えたが、それから何一つ動かなくなった。
そして、静かに目を閉じた。
~そして転生~
魔王の封印解除の周期は200年。
その間に世界は復興と成長を繰り返している。
あの魔王討伐から45年。
勇者を失った世界をまとめ若者を育てる手助けし一生を終える時が来た。
150年後に転生する
実際は全盛期の私が次の時代に召喚されるという魔法だ。
その間に世界は復興と成長を繰り返している。
私が転生をしているのはみんな知っているが
いつどこに等の細かい詳細を知っているのは一部の人間だけだ。
世界最大の王国、ヴァイオレット国王、私は代々ここに使えている。
それと私が作ったその国内最大ギルド《天国の城ヘブンズキャッスル》のマスター5人と
その時代の勇者だ。
前回の転生から5年で討伐、45年この時代に残った、ちょうど150年後が魔王復活の日だ。
「では150年後、お迎えよろしくな」
しかし――次の転生先で待ち受けていたのは、思いも寄らぬ展開だった。
150年後――
(頭が痛い……)
ギルド《天国の城》の召喚室に転生するはずだったが……しかし迎えが一人もいない。
いつもなら召喚日と時間は指定して飛んでいるので知っているものが迎えに来ている。
頭が痛く、集中できない。フラフラと歩いていく通りかかった部屋の鏡を見て驚愕した。
「……なんで、こんなガキなんだ?」
本来なら20代の姿で転生するはずだったのに、今回はなぜか16歳の少年になっている。
4、5年で新しい魔法や能力、 最新技術を取り入れて魔王討伐に尽力するのに、今は16歳くらいのガキじゃないか。
20代が全盛期ってのもカッコつかないと思っていたのに、まさかの10代だなんて…
久しく10代なんて見てないから違和感しかない。
「ということは、146年後?なぜこんな時代に飛んだ?迎えがいないのは辻褄が合う。
しかしこんな格好で賢者です?無理があるよな…知り合いは…いるわけないよなぁ。
なんて説明すればいいんだ?もうわけがわからん。」
召喚室に戻り、頭の中が整理できず悩んでいると、ドドドッ、何か足音が向かってきている。
「あぁ~!なんで倉庫がぐちゃぐちゃになってんの?誰が片付けると思ってんの?こんなとこで遊ぶなよ。」
なんか騒がしいやつがやってきた。転生の衝撃で中の棚とかは崩れ倒れている。
(そもそもいつから倉庫になったんだここは)
「君かね?ん?」
目があった。
40代ぐらいだろうか?おじさんだ。
「いやまぁ、そこ通ってきたんで…」
「通る?何いってんの?こんな倉庫で遊んじゃダメでしょ?君10代後半くらい?それくらいわかるでしょ?名前は?」
かなりめんどくさそうだ。名前を言えばわかるだろ。
「レイシュルト・ヴィ・ルーシュ」
ここを知っているんだ、ギルドマスター連中のとこにさっさと案内してもらおう。
「ルーシュ君、片付けしてから帰っていきなさい。まったく近頃の学生は……」
(は?こいつアホなのか)
「いやだから、名前聞いてました?」
「ルーシュくんでしょ?いいから片付けなさい。上で待ってるからね。」
てくてくと階段を登っていってしまった。
(本気でやばい、俺の名前を聞いてもなんとも思わないのか?)
「くそっ!めんどくさい」
パチンッ 指を鳴らすと棚からすべてが元通りになった。
さてどうするか…座り込み考えていると疲れからか寝てしまった。
次回予告
"この時代で一体何が起こっているのか?"
"今私はどこにいる?"
魔王封印の鍵を握るのは、この未熟な少年の姿をした"大賢者"だ――。
次回、「転生・・・そして魔王復活」。
冒険の幕が、再び開かれる。