秋模様
不安定な眠りからやっと目覚めた。その名残か、頭が靄がかった感覚が未だ続いている。一日中家にいるわけにもいかないので、外に出る。
不穏な湿気と少し冷えた風を切るように自転車を漕ぐ。歩いていた時は気にならなかった霧雨は、空気に無理やり抵抗する私に降りかかり、メガネは細かい粒子で曇っていく。春とも秋とも分からない曇り空で、押し寄せるデジャヴが気持ち悪い。
最近は何事もうまくいかずに、全てに片想いをしてる。それは自分が欲しすぎているからなのか、期待しすぎているからなのか、それともただ世界がそういうふうに作られてしまったのか。
どちらにしろ、片想いは甘美で、苦しい。
でも、もし抜け出してしまったのならば、全てはバラバラと崩れ落ち、なんの欠片も残らない。そう、片想いという状態が、優柔不断な私の存在の形をとどめているようである。
気づけばいつのまにか住宅の羅列を抜けて、大通りが過ぎようとしていた。忙しなく歩いていく人々、彼らも若い頃はこんな葛藤を抱えながら生きていたのだろうか。それならば私は彼らに脱帽する。
あぁ、過ぎていく瞬間瞬間が惜しい。理解を拒む知識、ふと笑ったその横顔も、段々と暗くなっていく夕方の空、自分を取り巻く事象一つ一つが混じった独特の味が心に染みていく。
彼らは溶けて消えた自分の欠片を惜しまなくなるまでに何夜かかったのだろうか。
それが一夜か、千夜か、それはどうでもよくて、ただまたいつかそれを惜しんでしまう日が来るのは必然で、その時の苦しみに耐えれるのか。耐えられなければ、それは死、耐えれればそれもまた死。
雲が暗くなって、空気も重くなっていく。夜が始まる匂いがする。秋の、心に入り込んでくる寒さを凌ぐために私は橋の下で足を休める。目の前に流れる川はのろのろと黒い液体を運んで、メガネを外せば、世界はぼやけだし、向こう岸の建物の光が青く深く変わっていく空に混じって小さな精霊のように浮かんでいる。
私は秋特有の、一種の抽象的精神状態にあるのだろう。いつもの具合と違うのはわかる、だが具体的な言葉を探しても、それは全てを歪めてしまう。ただわかるのは、不安定で、矛盾だらけの、自分を壊してしまいそうな危険性を孕んでいることだけだ。過去の自分が何重も重なったかのような、実体のない、亡霊のような苦しみ。
小さな鋭い音を立てて、背後の蛍光灯が発光し、夜の喧騒が、風に乗って広がる。