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第12話 その夜②


「開いてるわ。入って」


 中から、ミツキの声が響いてきた。


 それに従ってカチャリとドアノブを回して扉を開き、中に入った。


 華美というわけではないが、綺麗な部屋だった。


造りの整ったベッド。机。俺の部屋と同じ程度の、一人用としては広めの寝室。でもなんというか、男子の部屋とは色というか匂いというか、雰囲気が違う。甘い、という程ではないのだが、仄かな香りに包まれていると感じた。


 部屋にミツキがいない……と思っていると、いきなり浴室のドアが開いた。


真っ白なバスタオルを身体に巻いて、濡れた黒髪をタオルで拭いながらミツキが出てきて……驚く。


「待ってたわ。いいお湯だった」


その綺麗な白い肌をほんのりと淡く染めながら、髪を頭の上にタオルで巻いて纏める。

「え? え?」


 俺は言葉が出ない。


夜中に部屋に呼び込むのだから、大切な用事というのが、その、男女の秘め事的な事かもしれないという想像をしなかったわけじゃない。というか、他の用事というのも思い浮かばない。


ミツキとの訓練中はサーベルタイガー教師と不出来な生徒の間柄とはいえ、授業中や昼食時は仲の良い男子と女子の関係だ。だから、ミツキに師事しながらもそういった笑ったり拗ねたりという女の子的なミツキの面相を思い浮かべると、男と女的な関係に進むこともないわけじゃないのかもしれない……とは想像していた――のだが、いきなりの場面に出くわすことになるとは思っていなかった。


お茶をしてお喋りをして雰囲気が良くなってお互いの気持ちが高まって……。そんな流れを思い描いていたのだ。


と、ミツキが「着替えるからちょっと後ろ向いてて」と言って、俺は慌てて後ろを向く。続いて「いいわ」と声がして振り返ると、ラフな夜着に着替えたミツキが、落ち着いた面持ちで立っているのだった。


「何か勘違いしてない?」


 ミツキが悪戯をした子供を叱る様な抑揚を出してきた。


「魔法理論の勉強。これから」


「え? え?」


「だからこれから毎日、夜、座学。勉強するから」


「え、え?」


「何か勘違いしてたでしょ。勘違いというか、期待というか」


「……なん……だ。そうか……。ふうーっ」


 俺は大きく息をつく。緊張が一気に解けて、身体の力が抜ける。


 ミツキが畳みかけてきた。


「遊んでいる暇なんてないの。本当は授業とか昼食とかもはしょりたいくらい。真剣に命がけで取り組んで」


「一応、入学前に学園レベルの理論は学び終えているけど……」


「基礎理論ではなく、魔力構成論と伝達論、放出論の高等応用学を学んでもらうわ。座学も重要。まず理論が先にあって、それが実践に結び付くから。理論はわからないけど、剣を振るったら出来ちゃった、ということはないから」


「確かに……それはそうなんだけど……」


「でしょ」


「でもそこまで言うのなら、授業とか全部さぼってミツキに個人授業受けた方がよくない?」


「そうね。それも考えたわ。でも王立学園で学んだりイベントに出たり学園生たちと交流したりするのは勇者の役割の一つで、それをしないのは王国が認めないだろうし」


うんうんと俺がうなずき、ミツキが続けてくる。


「私がここに押しかけてハルトを鍛えてるのがあまり大っぴらになるのは私の立場的に許されないことだから、邪魔が入るのが予想されるし。だから……」


「だから?」


「こっそり秘密裏にハルトを鍛えるわ」


「こっそり秘密裏になら、確かにミツキの部屋はいい場所だとは思うけど……」


「嫌なら私が男子寮に行くけど」



 え!? っと、流石にミツキのセリフに驚いて、慌てて止めに入る。


「え、いや、それはまずいでしょ! ミツキ、隠れてこそこそとか嫌いそうで、堂々と入ってきそうだし見つかっても『なに?』とか言いかねないし……。俺がここに来るから!」


「流石にいくら私でも男子寮で堂々とはしないわよ。私を何だと思ってるの?」


「いや……。ミツキ……女王陛下様……的な感じで……」


「無礼ね」


 ミツキがぷんっと鼻を鳴らし、さらに話が続く。


「いや。むしろ丁寧というか敬っているつもりなんだけど」


「まあそれは冗談として、見つからないようにね。寮監とか女子たちにも」


「……もう……シャルに見つかっちゃったけど」


「え?」


「いやなんでもない。気を付ける」


 そんな会話をしてから、ミツキが本棚から分厚い魔法書を取り出す。机にミツキと席を並べて、高等魔法構成論の応用学を学び始めた。

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