表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/40

第八話 VSグリオ




 

「なげぇよ、長いよ、長々しいって、長ったるい、なっぎゃいってば、ぅぉぉぉぉおおおおおお!!」

「うるさいよ、ライ」


 現在、本会場第一回戦――247試合目である。

 日にちでいえば、開会式からすでに3日たったわけである。……余談であるが、この大会のモットーは1日100試合らしい。

 そしてまあ、いろいろとライは痺れを切らしていた。


「ぅおい! 早く動きたい、戦いたい、目立ちたいぃぃっ、ぞっ!」


 あぁぁぁああ! と頭を抱えながら、身体をくねらせる。きもい。


「時間制限を設けたのは、いい! いい判断だ。がしかしッ! そう、1試合の時間は短縮されたけどもッ! けどけど、数が多すぎんだよッ! もーさぁ、テキトーな人数を会場に放って、生き延びたやつが本選! とかにしろよな、かったりぃ」

「伝統は大切にされるためのもの、ってさっきの司会者さんも言ってたじゃない」

「伝統なんぞクソ喰らえだ、ボケェ! えっ、なにこの待ち時間の長さ? 絶対、戦ってる時間より長ェよ、この待ち時間。もうがぁぁぁああ! なーがーい、あーきーた、だーるーい、ひーまーだー、ひゃっほぉぉおいっ!!」


 待ち時間の長さに、ライがじたばたしていた。のたうち回っていた。全力で喚いていた。もうあまり他人には見せていけない方向に、ライは向かっていた。

 それを察してか、レオンはグリオを連れて分会場の試合を見に行っている。ただ、リィエだけがため息と悪態を交えて、ライの傍らにいた。


「ライ、1回落ち着こうよ。それとももう帰ろうよ」


 結構、真剣にリィエは言った。ライは千切れんばかりに首を振り回す。


「ここで帰ったら、来た意味ねえじゃん! もう少しだぜ? もう少しだからこんなに待ちきれねえんだよぉぉう! 故に落ち着くことすら不可ッ!」


 ちゃんとこっちの声は届いてるんだ。リィエは心の奥でそんなことを思ったが、口では別のことを言う。


「だったらもう少し落ち着いて、主人公でしょ?」

「主人公だけども! いや、主人公だからこそ! 戦いてえんだよぉぉお!」


 あー、こりゃ重症だ。リィエは心の中心で重いため息を吐いた。

 そんなこんなして、ようやく


『ぴんぽんぱんぽーーん!』


 口で、そんなことを言ってから、司会者からの放送が入ったのだった。


『えー、本会場第一回戦256試合目! “主人公”ライ・スヴェンガルド選手VS“誇り高き炎の戦士”グリオ・カータン選手でーーす! 選手の方は1分以内にフィールドに降りてきてくださーーい。さもないと失格ですよぉ! あー、あと次の司会者さーん! もう交代の時間ですよーー! 早く来てくださーーい! わたしも大変なんですよぉ! いや、マジでーー!!』


 ぴんぽんぱんぽーーん、という言葉を最後に、放送は切れた。

 そして――ライが弾けた。


「む、ついにオレ様か。おお、ようやくオレ様の出番か。やや! 来たのかオレ様の時代ッ! ようやく時代がオレ様に追いついたぜぇぇええ! ぅぅぅぅ、お、っしゃぁぁぁぁあああ!!」


 ライは叫びとともに、即行でここ観覧席から、フィールドに降りた。


「……えと、がんばってね」


 聞こえていないことを百も承知で、リィエはライの背中にそんな言葉をかけたのだった。








『ハーイ! では司会かわりまして、この私が実況解説をします。名前はいりませんね? どーせ司会者なんて覚えないでしょうし』


 ただそれだけの言葉で、会場はまた、ぅおおおおぉぉっぉぉおおおお!! とエキサイトする。

 てか、みんなテキトーにノってるだけだった。


「ぅぉぉぉぉぉぉぉおおおお! おれも、うおおおおおぉぉぉぉぉおお!!」


 グリオも、なんか叫んでいた。ミーハー野郎だった。

 一方、ライは


「くく、くくく、くかか」


 なんか、薄気味悪く笑っていた。

 真ん中で挟まれている審判の人が、酷く困っていた。


『えー、それでは本会場第一回戦256試合目! “主人公”ライ・スヴェンガルド選手VS“誇り高き炎の戦士”グリオ・カータン選手の試合――開始!』


 宣言と同時に、互いに今までの全行動を取りやめ、同時に大きくバックステップ。距離をとる。


「!?」


 そして、グリオがその行動を不審がる。

 人間と、その他の種族の戦いでは、間合いがとても重要となる。

 なぜなら、他種族たちは魔術を用いるのだ、距離など関係ない。がしかし、人間はそうもいかない。なんせ武器だ。遠距離用の弓などもあるが、基本は剣――つまり白兵戦用の武器。人間は距離が開けば、一方的に攻撃されるだけになるというわけだ。

 基本中の基本であり、だからグリオは距離をとったわけだが、じゃあなぜライも距離をとった?

 グリオはそんな疑問に首を傾げた。

 で、ライが距離をとった理由だが、ちゃんとある。その理由を、とっとと済ませることにする。


「――フェレス、フェレース。おーい、フェレスさん?」


 心の中、剣に眠る彼女に小声で呼びかける。言わないと、いけないことがあった。


『ん、んん? ふ、ぁあ』


 欠伸をかみ殺したような声が返ってくる。フェレスだ。


「ん、なんだ? 比喩じゃなくて、ほんとに寝てたのか?」

『いや最近、出番がないからさ』


 少し不機嫌そうにフェレスはそんなことを言った。ライは苦笑してから、ともかく話を進める。


「フェレス、頼みがある」

『頼み? なんだよ』

「魔剣の力、抑えててくれ」

『はぁ? なんだそれ、なんでだよ』


 全くわからない、といった風にフェレスは大きな疑問符を投げかけた。ライは案外真剣に答える。


「魔剣ってのはな――強過ぎるんだよ。さすがにこんなお気楽な大会で――容認されてるとはいえ、人殺しは寝覚めがわりぃ。だから頼むぜ」

『……まあ、わかった。好きにしな』


 色々と、言うことはあっただろうに。それでも承知してくれたフェレスは、やはりほんとに悪魔なのか、と思わせるくらいいいヤツだった。


 と、そんな感じに会話が終わり、ライが意識を外に戻したとき――暑い、と気付く。

 その熱源に視線を遣ると、そこには炎。ドデカイ火の塊。


「ぅぅぅぅ、おっしゃぁぁぁぁぁあああああッ!!」


 グリオだった。


「なんて炎――熱量だ」


 離れたはずなのに、ライは酷く汗をかいていた。

 グリオが口を開く。


「くく、なあライ。この前、見せた炎あったよな」

「ん、ああ」

「あれな、全力じゃねえんだ」

「また月並みにお約束なことを言って……」


 ライは魔剣を構える。そしてにっこぉ、とあからさまな嘲笑を浮かべる。


「相変わらず恥ずかしいヤツだよなぁ、お前。うん、見てる分にはとっても面白愉快だよ――でもな、実際問題、オレ様に勝てると思ってるお前の楽観的な思考が、1番笑えるな、この脇役!」


 ライは、もう全力全開で挑発を敢行する。

 何度も言うが、ライはこと戦闘に関しては、どこまでもシビアな男なのだ。グリオのように直情的なヤツには挑発して、冷静さを失ってもらうのが手っ取り早い。ライの思惑は、そんなところであった。

 ……別に待ち時間の長さにより溜まった鬱憤を晴らしたかったとか、そういうわけではない。たぶん。きっと。

 そして、グリオはまんまと術中にはまる。


「んだと、テメエ! 本気でおれを怒らせやがったな! もう許さん、ぶっ殺してやる!」

「は! 語彙のねぇヤツだな、三下だってもう少しマシなこと言えるぞ。三下以下だな!」

「ぅぉおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」


 グリオは、どうやら本当に本気で切れたらしかった。怒りに任せて、放出していた全ての炎を拳に集束。ほとばしる火炎を手に収め、拳を思い切り振りかぶる。


「燃えろ、焼けろ、焦げろぉぉい――ぅぅぅぅ、ファィィィィイイイイアアアアアァァァァァアアアッ!!」


 叫びとともに、大地に向けて拳を振り下ろす。ドン、という鈍い音が鳴る。瞬間、その拳に宿った膨大な炎が全てを呑み込まんと、フィールド全域を暴れまわる。

 辺りを見れば火、火、火。

 そこはまさに火の海。炎の世界。火炎地獄。


「へえ、本気じゃねぇってのは、ホントだったのか……」


 凄まじい炎――熱に汗をダラダラ流しながらも、余裕を持ってライは呟いた。辺りはすでに火炎地獄の様相であるのに、だ。

 火炎地獄――これでは逃げ場はないに等しい。しかも、グリオに近付くためにも、辺りの炎が邪魔だろう。つまり攻めることも避けることも困難という最悪な状況である。

 

「決まったな、おれの勝ちだぁぁぁああ!!」


 グリオは言葉とともに、礫のような炎をライに放つ。遠くから地味にでも削っていくという戦法のようだ。確かに手堅く、良い戦法だ。

 されど、グリオの相手は――主人公だった。


「その程度で勝った気になるから、お前はオレ様に勝てねえんだよ」


 ため息のように言葉を吐いて、ライは魔剣を無造作に振る。炎の礫は、魔剣に掻き消された。


「なにいぃぃぃぃいいいい!?」


 グリオの驚愕。当然だ、炎が剣に払われたのだから。

 しかし、だからといって驚愕など、している暇はなかった。


「だから隙だって」


 ライはグリオとの最短距離にある炎を魔剣で除く。そして持ち前の俊足で、隙丸出しのグリオに接近、魔剣を向ける。


「見ろよ、見たか、見たな――これがオレ様の、主人公の力だッ!」


 にぃ、と笑いながら言ったライの宣言で、この試合は終わった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ