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第七話 大会と聖剣勇者




 大武術大会――それは年に1度、人間領の中央都市シャンバルにて行われる、バトルトーナメントのことである。

 世界最強を決めるという、なんとも単純明快なるコンセプトに基づいた、世界で最も有名な大会だ。

“武術”というのは“武”と“術”をもちいた、という意味であり、それゆえに参加者は人間に限らず、5種族全てが参加可能。5種族が一堂に会するという、実は結構グローバルな大会でもある。まあ要約してしまえば、なんでもあり、だ。


 人間たちは“武”――つまり自ら作った武器や武道を駆使して戦い、

 他種族たちは“術”――つまり神に与えられた自然を操る力で戦う。


 一見、人間たちが酷く不利なように見える――それはなぜか力を授けてくれなかった、間の神のせいなのだが――が、実際そうとも言い切れない。

 その証拠に、この大会はすでに74年目、つまり74回ほど行われているのだが、優勝者の6割は人間なのだ。

 なぜ、力を持たない人間が優勝できるのか。

 それは勿論、全ての強者がこの大会に参加しているわけではない、ということもある。がしかしなによりも、他種族のおごりと、そして人間のみが扱う“武”にゆえんしているだろう。

 他種族は、どうも自分の術を過信するあまり、武器などを一切合財使わない。

 確かに彼らの魔術は強力だ。それこそ人間ていど瞬殺できるほど。が、人間たちはそれを見続け、ある程度の対抗策を作り上げたのだ。しかもちゃんと浸透している。町の本屋にでも行けば、そういうような本は必ずと言っていいほど置いてあるくらいに。

 それに加え人間は、己にあった武器を作り、それにあわせて武道を編み出した。しかもそれは、他種族や魔物に対抗して出来上がったものゆえに、その相手には特化している。

 与えられたものではなく――自ら作り出したもので、人間は戦うのだ。

 そうして長い大会の歴史を、人間は戦い抜いてきた。



 ――とまあ、そんな大武術大会なのだが、今年は例年と少々おもむきが違うようだ。

 まず、名前からして違う。

“聖剣勇者選抜”、などというドストレートに目的を宣伝する修飾語がついたのだ。

 その修飾語に惹かれるのは、“聖剣勇者”に興味をもつ屈強なる戦士たちと、“聖剣勇者”を名乗る偽者たち。そいつらのせいで参加者の数は爆発的に増大し、規模もそれに比例して大きくなる。そこに“聖剣勇者”を探している五大王たちが資金援助してくれたりするもんだから、中央都市はお祭り騒ぎの大騒ぎ、大混乱状態である。

 ――そして五大王の思惑通り、本当に“聖剣勇者”がその大会に参加するのである。






 

「希望する方には、ふたつ名をお呼びしますのでお書きください」


 はい、あれから3日経ちました。

 ライたちは、グリオに同行して中央都市シャンバルにまで辿り着く。そして大会である。

 レオンは腕試しに、と参加を表明。ライは……まあ、いつものように


「そういう大会で優勝して世界的に名が知れ渡るってのも、主人公っぽいな」


 などと言って、参加することにした。


「ふたつ名? 通り名とかそういうのですか? さすがにないなぁ」

「いえ、ご自分が呼んで欲しい名で構いません。それで強さを誇示したり、名が通っているなら相手の戦意を削げるかもしれませんよ」


 で、現在すでに聖剣勇者選別大武術大会の受付。参加のための書類を書いている。

 ちなみに誓約書である。内容は『大会中、死んでも責任は自分にあります』的なことである。

 

 受付のそんな発言に、レオンが困ったような顔をして口を開く。


「他のヒトはどういった名を名乗っているんですか?」

「はあ、それがかなりの方々は“聖剣勇者”と名乗っているんです」


 参った、といった風な受付さんに対し、レオンは――“聖剣勇者”レオンは、乾いた笑い声を上げることしかできなかった。

 そんなレオンの横からライが顔を出す。そして堂々と言った。


「オレ様のふたつ名は“主人公”にしてくれ!」


 それにグリオも乗っかって


「ならおれは“誇り高き炎の戦士”で頼む!」


 などとのたまった。

 レオンは呆れたように顔を掌で覆う。しかし受付さんはそれを聞いても動揺などせず、にこにこしている。レオンは戦慄に似た感覚に襲われた。

 一方、ばか2名は――


「はっ! なにが誇り高き、だ、カッコつけてんじゃねえよ」

「ふん、主人公だと? 笑わせる。そんな意味不明な名をよく名乗れたものだ」

「んだと、コラァ!」

「ケンカ売ってんなら買うぞ、ゴラァ!」

「「ぅらぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」」

「はい、ばかどもケンカはやめろー」


 やる気なさそうにリィエはくるり、と指を舞わす。風の拳骨を受けて、ばかどもは頭をおさえて黙る。

 受付さんはにこにことした笑顔を崩さない。レオンは諦めたようにため息をついて


「俺はふたつ名、いりません」


 とだけ言った。









 特訓――いや、そんな大層なものではないし、特別な訓練でもないが、まあ、彼らは特訓と呼んでいる。すなわちそれは、ここ最近ライがレオンにしている剣術指導のことだ。

 レオンは己の剣術技量が低いことを、魔王に負けて思い知らされた。だからライが自分と同じ長剣を扱うことを知って、すぐに教えを請うた。ライはそれをめんどいの一言で断ったのだが、どれだけ断っても諦めない熱意と


「ライ! 主人公は弟子キャラを持つべきだと思うんだ!」


 というセリフに折れた。

 ……なんというか、レオンもライの扱い方が本当に上手くなった。


「振りが大きい、もっとコンパクトにしろ。じゃねえと簡単に隙つかれんぞ」

「く」


 で、ライの教えはとにかく実戦から、だった。

 ライはこと戦闘に関してのみ、どうもマジメというか、シビアなので結構厳しい。

 魔剣が下段を狙う。

 受けるか、避けるか。刹那迷ってレオンは、聖剣で受けた。


「ぃーい判断」


 ライが嬉しそうに笑う。

 今のを避けていたら、返す刃で終わっていた。それだけライは速い。そしてその分、一撃がどうしても軽くなってしまう。

 レオンは、それを見切ったのだ。

 少しの間、剣が鍔競り合ってから、ライは息を吐く。


「ん、まあ、こんなもんだろ。終わりだ」

「……ああ、わかった。今日もありがとう」


 ふたりはス、と戦意を消して、戦闘時特有の緊張した雰囲気を霧散させた。剣を退き、鞘に収める。

 ライは重たく口を開く。


「はぁー。やっぱお前、物覚えいいわ。どんどん強くなってんぜ」

「本当か!?」

「……あぁ」


 少し不満そうにライは呻いた。それに対し、レオンは心から嬉しそうに笑う。


「そうか、だったらそれはライのおかげだな、いつもありがとう。また明日も頼むよ」


 無邪気な笑顔。それを断るのは忍びない。ライは嫌そうに顔を歪めたが、結局は頷いた。毎度の光景だった。

 レオンが言う。


「俺はもう宿に戻るけど、ライはいいのか?」

「ああ、いい。オレ様はもう少し風にあたってる」

「そっか。じゃあ、おやすみ」


 笑顔でそう言って、レオンは宿屋に戻っていった。

 ライはその後姿を見送ってから、空を見上げてぽつり、と呟く。


「しかし」


 ――今の動き


「実戦慣れしてきてんな」


 まあ、そりゃそうか。

 デーモンから始まって、魔王城での連戦、そして魔王との戦い、それにオレ様との特訓――これでレベルアップしないわけもない、か。


「おや? この流れ、なんか嫌な予感が……」


 最悪の未来を想像してしまったライはたらり、と冷や汗を流した。

 弟子が師匠を超えるのは定番だよなあ。ライは頭を振って、そんなつまらない考えを掻き消す。そのままライは、宿屋へと足を向けたのだった。







『さあ、始まります! 聖剣勇者選別大武術大会! 長ったるくていつか噛みそうですが、その時は苦笑で流してください』


 耳に響くような、無駄にテンションの高い声。肌に感じる殺気は、針で刺したようにちくちくして鬱陶しい。そして、眼に映るのはヒトの群れ。人間は勿論、妖精(フェアリー)竜人(サラマンダ)獣人(ビーステア)水霊(ウンディーネ)――確かに5種族が勢ぞろいである。

 聖剣勇者選別大武術大会。その会場にて行われている、開会式だった。


『さて、今年の大会ですが、なんと例年のおよそ3倍もの参加者! さらに各国から来た、会場に収まりきらないほどの観客! 数の上では過去最大規模です!! しかも、とある資金援助のおかげで会場は4つも増えましたッ!! そしてそしてッ、特別観覧席にはなんとッ! 五大王様方が来ております!!』


 わーーっ! とか、ぅおぉぉおおおお! とか、ぃえぇぇぇええええ! とか、観客が叫ぶ。


『おらー、戦士どもー! 最強になりたいかー!? おおー!! うらー、観客どもー! すげー戦いが観たいかー!? おおー!! ぅおっしゃー!! だったら叫べー! 声が枯れるくらいに叫べー!! おおー!!』

「……あの司会者、自分でおおーとか言ってんぞ」

「ひとりでがんばってるねぇ」

「まあ、盛り上げるため、なんだと思うよ」


 そんなうるさい大会のド真ん中でライ、リィエ、レオンは辺りに比べて冷めた様子で会話していた。ちなみにグリオは周りに感化されて「ぅわぁーーおおぅ!!」とか意味不明なことを叫んでいる。それに対する他人のフリが、こうも彼らと周りに温度差をつくっているわけだが、グリオ本人は知るよしもない。

 ライはため息をつく。


「開会式なんぞ、来るんじゃなかったな」

「んー、確かにこのヒトの多さはやだね」

「でも、対戦表は今日しかもらえないから」


 その対戦表を手に、レオンが言った。

 対戦表――伝統を重んずるこの大会は、対戦が全て1対1であり、トーナメント。なわけだが、参加者数が半端ないわけで、それに比例して――


「対戦表――でかっ!」


 リィエの突っ込み。

 それも仕方ない。なぜなら、対戦表はリィエより大きかったのだから。それにライがにんまり、と唇を歪ませる。


「リィエのちびさが、こんな風にアピールされるとはなぁ」

「ち、ちびって言わないでよっ!」

「わははは! ちび以外でなんと言えと?」

「くぅ、ライのば――」

「お?」


 ライとリィエの会話を遮って、レオンが呟いた。

 あ? とライが振り返る。リィエも釈然としないのか、唇を尖らせていたが振り返る。

 レオンが対戦表を眺めながら、言う。


「この組み合わせ……初戦からライとグリオがあたる」

「そんなことはどうでもいいでしょ! それよりもこのばかに1発――」

『さーって、では! 時間もおしてますし、第一回戦始めましょう!』


 またも、リィエの言葉は遮られる。リィエは半泣きになって不貞腐れた。さすがにライも慰めるように、リィエの肩に指をおく。

 そんなふたりに関係なく、司会者の口はべらべらと言葉をつくる。


『はい、本会場第一回戦1試合目は“聖剣勇者”ガゼル・エンリー選手VS“聖剣勇者”フェルテスト・ヒーラ選手です! あーっと、フィールドにいるヒトたち邪魔ですよー、とっとと退いてください』

「っと、本当に慌ただしいな。開会式直後にいきなり試合とは」


 レオンだけはまっとうな反応で呟いて


「まったく、この大会どうなるんだか……」


 苦笑を零した。





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