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第六話 新たな展開






 さて、どれだけか時は経つ。ライとレオンが怪我のため、安静に過ごしていた時間だ。

 それだけの間に、世は大きな変動をみせる。

 聖剣の解放、魔王の討伐、そして魔剣の失踪。

 そんな、ひとつひとつでも大いに世界を揺るがすほどの大事件が、同時期に起きたという凄まじいまでの非常識事態に、世界は沸いた。同時期ゆえにそれは、同一人物の引き起こしたことだという推測が難しくなかったことも、それに拍車をかけることとなる。

 しかし、それは一体何者か?

 誰もが頭を捻った。

 ある者は救世主が現れたと歓喜し、ある者は強大すぎる力の持ち主を破壊者と畏れ、またある者は上手い話が過ぎるとそれ自体を否定した。

 いずれにしろ、その噂は瞬く間に大陸全土へと知れ渡り、世を騒がせたことには変わりない。

 さらに、世界を統べる5種族の王たちはその“聖剣勇者”をこぞって探しだす。それと同時に、裏に潜む魔のつく王たちも、暗躍を開始する。

 世界に広がる波紋たち。

 それらはどこかで交わり、少しずつ波を広げ、その大きさを増していき、やがて――大波となる。





 そして、そんなこんな全ての渦中――ライ・スヴェンガルドとレオン・ナイトハルトは今、絶賛迷子中である。


「右だ、右! 間違いない、オレ様の主人公パゥワーがそう叫んでいる!」

「それは何度も聞いたよ、ライ。それで迷ってるんじゃないか、左だよ」


 子供のような口論を繰り広げ、ふたりはとある野原のT字路で立ち往生していた。

 リィエはため息を吐いて、ライの肩からふたりの間に浮く。


「もうどっちでもいいでしょ。なんだったら真ん中行く?」


 あやすように折衷案を出す。

 しかし真ん中って……。たしかに見える範囲は全て原っぱ。行こうとすれば360度どこへでも行けるのだが――


「道から外れたら、村とか町に辿り着けないだろう」


 レオンは苦笑いで正論をかざす。リィエとて、それくらい承知していた。ただの冗談である。

 しかし、ライはむしろ我が意を得たり、とばかりに口の端を吊り上る。


「いいな、真ん中。行こうぜ」

「いやだから、道から外れたら――」

「オレ様が進めば、そこは道となるっ!」


 完全に無視して、ライは原っぱを駆け出す。

 

「ひゃっほーーい!」


 奇声を発して、ライは楽しそうに道なき道を行く。後ろでリィエが呆れたように頬を掻いて、レオンに謝罪した。


「あー、ごめん。冗談だったんだけど……」

「いや、ライのことは、そろそろわかってきたから」


 レオンはその人柄を表すような微笑みを浮かべて「まあ、ともかく見失わないうちに行こう」とリィエに先を促した。

 と。

 

『レオン、魔物の気配を感じます』

「なに? ほんとか、ゼルク」


 レオンは聖剣に問いかける。

 現在、天使ゼルクと悪魔フェレスはそれぞれ聖剣、魔剣の中にいてもらっている。さすがに目立つのだ、彼らは。容姿は勿論のこと、身に宿す強大な魔力も。そんな事情で、姿も魔力も隠すことができる剣の中に、宿った状態でいてもらうこととなったのだ。

 レオンの問いに、ゼルクは肯定を示す。


『はい。それに近くで魔力を感じます。この魔力の感じは……ヒトがいますね』

「ヒトがいるのかっ!? どっちだ!?」


 焦る言葉と同時に、レオンは駆け出していた。

 ゼルクが指示した方向は、そのままちょうどライが進んだ道だったのは、主人公補正だろうか。


「どうしたの、レオン?」


 リィエには、ゼルクの声が聞こえない。勿論フェレスの声も、剣の所有者にしか聞こえないのだ。

 故にリィエとしては、レオンが突然駆け出したとしかわからない。だから問う。


「すまない、リィエ。ここら辺に魔物がいるらしいんだよ、しかもその近くにはヒトがいるって、ゼルクが教えてくれたんだ」


 急いでいるため、ふたりは走ったまま――リィエは飛んでいるが――話す。


「そっか、なら――」


 リィエは一旦区切って、息を肺一杯吸い込み――


「ライーーーっ!! 近くで魔物に襲われてるヒトがいるってぇー! 主人公チャンスだよーっ!!」

「なんだってー!? どこだどこだどこだっ!?」


 叫んだ。すると即座に答えは帰ってくる。さすがは自称主人公、行動が早い。

 レオンはそれを聞いて、苦笑を浮かべながら聖剣を握る。


「いこうか――聖剣」






「ふ、ただのロックゴーレムかよ」


 レオンとリィエが魔物のもとに辿り着いた時、すでにいたライはそんな風に鼻で笑っていた。

 岩の巨人。簡単に言えばそれだけの魔物、ロックゴーレムがそこにいた。


「ウィィィィァァアアアアアアアアアアアアッ!!」


 ロックゴーレムは両腕を掲げ、大音量で雄叫びを上げる。それは獲物を見つけた獣のようで、喜悦に満ちている気がした。

 ――魔物に感情など、あるはずもないが。

 ライはいつものように幾つかあるポケットから愛用のダガーを取り出そうとして……やめた。やめて、腰に帯びた魔剣を引き抜く。


『お? ライ、使うのか』

「ああ、ダガーじゃあ、岩は貫けないしな」


 それに、魔剣の力を試してみたかった。そんな心持ちで、ライは魔剣を構える。


「ら、ライ……お前、剣も扱えるのか?」


 しっかりとした、それでいて隙を感じさせない、剣士としての構え。それを事もなげにするライを見て、レオンは眼をまんまるにして見開いた。 

 まあ、レオンはダガーを使うところしか見たことがないのだから、当然の疑問ではある。


「は! あったり前! オレ様は主人公、どんな武器だって使いこなす万能さがあるんだよっ! ……まあ、ダガー2本が一番やりやすいのは確かだけどよ。って、まあそんなことはどうでもいい――やるぞ、レオン」

「ああ!」


 レオンは力強く応え、聖剣を構える。

 ライとレオン。聖魔の剣の使い手たるふたりの感情の昂りからか、ライの魔剣から闇が噴出し、レオンの聖剣から光が溢れ出る。凶悪な、神聖な、対極の力の波濤を受け、魔物がたじろぐ。


「なんだ、テメエら! そいつはおれの獲物だぞ、邪魔だ!」


 と、そこでまた、違う声が自己主張しだした。それは、魔物に対峙していた――先ほどゼルクが感知した、ヒトだった。

 拳に炎を宿しながら、その男は地団駄踏んで文句を叫ぶ。


「どけ! そこにいたら攻撃できねえだろうが!」

「えっと。危ない、ですよ?」

「だからどうした! こちとら戦士やってんだよ、危ない橋なんて幾らでも渡ってきたわ!」

「ち、うっせえぞ、エキストラ! 助けてやんだからお前は、ありがとうごぜえます、とか言ってりゃいいんだよ!」


 レオンの控えめな忠告を、男はまったく聞き入れない。ライが面倒くさそうに叫んで、男は言い返して。

 ああ、どうしようか、とレオンが頬を掻こうとした、時。


「ウィィィィィィィイイイイイアアアアァァァァァァァアアアア!!」


 ロックゴーレムは拳を振りかぶった。

 途端、会話はやみ、3人は一瞬だけ視線を交錯させる。

 即座に思考と行動を敵にだけ向ける、彼らは戦士だった。

 最初に動いたのは、男。


「ファィィィィィァァアアアア!!」


 叫びとともに、拳を振り切る。すると、宿っていた炎がロックゴーレムに向かって直進する。猛り狂う炎の波――そんな風に表現すべき必殺の一撃。

 巨大な炎に呑まれ、ロックゴーレムは焼き焦がされる。しかし、岩は炎に強かった。岩の表皮は焼け溶けたが、それだけ。生命には、届いていない。


「なにぃ!?」


 驚愕に眼をむく男。

 そんな状態では隙丸出しであり、ロックゴーレムの拳は未だ止まったわけではない。即ち、手痛いカウンターが来る。

 前に――


「はッ!」

「大口叩いてた割には、その程度かよ!」


 光と闇の刃が、ロックゴーレムを断ち斬った。








「テメエら、中々やるじゃねえか」


 燃えるような赤い髪はとても短く揃っており、額からは天を指す角を生やした、体格のよいムキムキマッチョの男――グリオはそう言った。


「ああん? オレ様に助けられておいて、中々だ? メチャクチャやるんだよ、オレ様はッ!」

「まあまあ」


 ライが反論を叫んで、レオンがいさめる。最近よく見かけるパターンだった。

 横のリィエは珍しそうにグリオを眺めている。そして思わず問う。


「ねえねえ、なんで竜人(サラマンダ)がこんなところにいるの? ここ、人間領だよ?」


 竜人(サラマンダ)――火の神の眷属である。

 竜の姿をしていたという火の神に、その姿と力を分け与えられた種族。戦闘に特化しており、火を操る。特徴は額に生える角。角は長く生きるほど硬度を増していくとか。

 グリオは怪訝そうに言い返す。


「あ? んなこと言ったら、妖精だって珍しいじゃねえか」


 人間領なんだから、そう言ってグリオは豪快に笑った。

 リィエは胸をそらして、ふふん、と鼻で笑ってから答える。


「わたしはライの保護者だからねっ」

「ちげえ」


 ライが文句をぼやいたが、誰も反応してくれなかった。

 グリオが言う。


「ま、話を戻して、だ。なんでおれがここにいるのかって言うと、それはおれが戦士だからだ」

「ぅわ、ライと似たようなこと言ってるし……」


 リィエは久々に頭を抱えたくなる。レオンが苦笑で、子供をあやすように問う。


「なんで戦士だと人間領にいるのかな?」

「んだぁ? 知らねえのか」

「なにを?」


 グリオはにやり、と唇の端を歪めて、芝居がかった口調で告げる。


「聖剣勇者選別大武術大会――だよ」


 しかし3人は


「長ェ」

「へえ、知らなかった」

「確かに長いね」


 驚愕耐性がついていて、グリオの望んだような反応とは無縁だった。






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