第三十四話 よくある最終決戦前夜ってやつ
更新遅れて申し訳ありませんでした。
“八番目”の魔王との激戦はどうにか辛勝で終わり、後に残すは大魔王だけ。
しかし、“八番目”との戦いの被害は甚大だった。怪我人や魔力切れの者が続出したのだ。
その中でも最大の重傷者は今回の助っ人、ヴェンデッタだった。
そもそも、ヴェンデッタはなにも持たないヒトの身で、魔王と相対した。なんの変哲もないヒトの身で、魔王と斬り結び、殺し合った。
そんな単なるヒトの身で魔王の蹴りを受け、斬撃を受け、吹き飛ばされて背を打ったりしたら、そりゃあ重傷である。
獣人なので大地から力を得ていた、ということを差し引いても、死んでいてなんらおかしくない状態であった。
思い返せば、ヴェンデッタは後半から全然喋っていなかった。それだけダメージがあったということだろう。
ついでライもライでボロボロ――魔を叩き込まれ、肩から裂かれ、血は流れ、そんな状態で戦った。はっきり言って、こちらも死んでいてなんらおかしくない。しかも魔剣を全力解放したせいで、戦闘終了と同時に気絶してしまった。
放置しておけば死んでしまいそうなふたりに、大急ぎでゼルクが応急処置を施した。
が、そのゼルクも、傷の手当をしている内に――戦闘中に空間転移を2回使用していたわけだし――魔力が尽きてしまう。どうにかヴェンデッタもライも急場は脱したが。
もうひとり、レオンも聖剣の加護なしで魔王の蹴りをもらっていたが、大丈夫だと言って笑った。笑って、ゼルクの治療を断った。ゼルクに無理はさせられないと。
それら一連の全てを、歯がゆげにフェレスは眺めるていることしかできなかった。治癒などできない悪魔の身の上、フェレスはみんなの心配と自分の不甲斐無さに打ちひしがれていた。
そして最後に、リィエは魔力の枯渇と集中力が切れたせいか、ライとほぼ同時に気を失ったように眠ってしまった。
最後まで前衛にでなかった分、リィエは支援に徹していたわけだが、その支援というものが大変だったのだ。
遠距離支援という精密にして精確、緻密な技量と凄まじい集中力が要求される行為を為し、しかも支援を受けるライはやたら速く、そして細かかつ複雑に動く。支援するほうの事情など全く考慮していない戦い方で、リィエはかなり神経をすり減らした。
他にも、風による知覚を最大まで高め下の様子――敵の位置、味方の位置、会話、合図などの様々な戦闘必須情報――を窺いながら必要な場面で干渉、勝利へ貢献していた。
最大の重傷者をヴェンデッタとするならば、今回の最大の功労者にして苦労者は、間違いなくリィエだった。
と、このように全員が全員、戦える状態ではなく、撤退を余儀なくなされた。誰が欠けてもありえなかった勝利、その代償は安くなかったということだ。
一行は動けるだけの体力回復のために少しだけ休んでから、再び中央都市へと戻ることにしたのだった。
という今までの流れを説明され、
「で? またここに逆戻りかっ! 不法侵入だろぅがッ!」
ようやく眼を覚ましたライは、そう叫んだ。
起きて早々、そんな今更感の強い真っ当なことを言われても困る。説明をしたゼルクは視線をそらした。
そうここは、中央都市のとある民家、その1室。前回、4魔王戦での負傷を癒していた家。無論、誰の家かは誰も知らない。紛うことなき不法侵入である。
まあ、ここ以外に休めそうなところもなかったのである。
それに都市内掃討戦は未だ継続中のようで、都市にヒトの気配はない――おそらく分会場にいるのだろう。そのせいで宿をとれなかったと、言い訳できなくもない。
怪我人も少なくなかったわけで、場所を選んでいられなかった、とも言える。
理由は十分、緊急事態ならばやむなし。そんな感じで、傷の療養のために一行はここに2日前から滞在していた。
そしてライは今の今まで、魔剣の反動でずっと寝続けていたのである。
目覚めたライはともかく現状把握を終え、次にぐるりと室内を見回す。家具は今ライの眠るベッドのみということを考えるに、ここはおそらく寝室なのだろう。そういえばこの家にはベッドがひとつしかなく、以前泊まった際には誰がベッドで寝るか――他の奴は地面――を争った。今回は、ライが起きなかったために優先してもらえたらしい。
ふと気付く。
「ってか、他の奴らは?」
室内には、ゼルクしかいなかった。心配性のリィエたちがこの場にいないことに小さな疑問を抱く。
ゼルクは明確に答えを返す。
「治療に、私以外がいても邪魔になるだけと言って、皆リビングにいます」
「あ、そう。つまり今の今まで治療を続けてたわけだ、ありがてえもんだ」
「それはどういたしまして。
それで、ライも起きましたし、明日にでも魔王城へ向かおうと思いますが――ライ、大丈夫そうですか?」
「んー」
ゼルクの問いに、ライは渋い顔で腕を組む。
確かに、また“八番目”みたいなのが創られては拙い。ここは焦ってでも攻勢に転ずるべきか。
しかし、万全でなくては戦っても勝ち目はない。自分の容態を鑑みる。
2日間寝ていた割には、身体は鈍っていない。傷も完治している。体力も問題ない。たぶん、ゼルクががんばってくれたのだろう。それに水の魔術もかけられたと推測できた。まず間違いなくリーリア。わざわざ頼んだのだろう。てか、自分の治癒をまたやってくれるとは、リーリアも普通にいい奴らしい。いや、また誰かに懇願されてしょうがなくか。まあ、どちらでもいいが。
それにしても全く、心配性が多いもんだ。全員、なにかしらダメージはあったろうに、ひとりを優先して。
これで動けないなどと――戦えないなどと、言えるはずがないではないか。
せめてこれ以上の心配をかけないように、ライはいつものように不敵に笑う。
「ん……よし、いけるぜ。絶好調だ」
「では、そのように。
私は先に寝させてもらいます」
「あ? そんなに疲れてんのか? まだ夕方くらいだろ」
窓から射し込む夕焼け。それは寝るにはまだ早いと告げていた。
ゼルクはどこか繕ったような表情を見せ、弱弱しく微笑む。
「ここ2日、ろくに休んでいませんので、明日に備えて早めに休もうかと思いまして」
「……大丈夫なのか? そんなに疲れてるんなら、別にもう1日くらいなら――」
「駄目です」
鋭く、ゼルクは否定を口にする。そして、付け足すように滔々と語る。
「少しでも時間が惜しいのは、ライにだってわかっているでしょう。
相手は神です。もしかしたら、先の“八番目”のような敵が量産されてしまう可能性だって、少なからずないわけではないのです。
そんな量産可能な相手に手間取り、時間をかけてしまえば、いつまでも本命には辿り着けません。ですから、ここは多少無理をしてでも拙速に行動すべきなのです」
「そりゃ、わかるけどよ。お前が万全じゃねえと、そもそもの勝率が下がるだろうが」
「その点なら、大丈夫です。一晩休めば、私は回復しますから。絶対に、回復して見せますから」
絶対。ゼルクがそこまで言った。ならば、ライはもうなにも言えなかった。
ただため息だけをつく。
「わかったよ、好きにしろ」
「では、休ませてもらいますね。
あ、そうそう、リビングに顔を見せてあげてください。皆、特にリィエは心配していましたし、安心させてあげてください」
「ん、そうするよ」
言って、ライはベッドから起き上がり、寝室を後にした。
ありがとう、と聞こえないように呟いて。
「よーす」
ライはドアを無遠慮に開け、軽く言い放ってみた。
それに反応してリビングで雑談中だったリィエとレオンとフェレス、それにヴェンデッタが一斉に振り返る。
全員がぽかん、とした表情でライの顔を眺める。
「んだよ、なに見てんだ、コラ」
集まる視線に居心地の悪さを感じ、ライはチンピラのように悪態をつく。
その言葉で、リィエがはっと気付いたようにライの頭に抱きつく。リィエは、いつだって安心するためにライの体温を感じたがる。
感じながら、リィエは嬉しそうに安堵を呟く。
「ライぃ、よかったよぉ」
「お前はホント大げさだよな、オレ様なら大丈夫だって」
言いつつ、ライは安心しろと言うようにリィエの頭を撫でてやる。くすぐったそうに、リィエは眼を細めた。
それを眺めていたフェレスが、笑みをたたえながらライに向けて言う。
「いや、無事でよかった。魔剣に生命もってかれたかと思ったぞ」
「うん。全力解放のすぐあとで倒れるんだもんな」
心配した、とレオンも口を揃える。
ライは少しだけ困惑した。心配性だとは思っていたが、こんなにも心配されるとは思っていなかったからだ。嬉しいことではあるが、それを口にするには、ライは意地っ張りが過ぎた。
自然と顔をそっぽ向けて、負け惜しみのように言う。
「はっ。相手の意識を魔剣に集中させるには、あれが1番いい策だったんだよ」
「それで倒れてちゃ、世話ねえがな」
「うっせ」
からかうようなヴェンデッタに、素早く返す。ヴェンデッタはからからと笑った。
なにがおかしいんだ、コラ。言いたかったが、それより言うことがあったと思い出す。
「そういや、聞いたか。もう1度、明日――魔王城に行くぞ」
「!」
全員が瞠目。
どうやらゼルクは知らせていなかったらしい。忘れていたのか、伝える気力もなかったのか。どちらにせよ、ゼルクには結構な無理をさせてしまったらしい。あの用意周到な天使が、事前に伝えていなかったのだから、それはきっとそんな余裕もなかったほど無理を強いてしまったということだろうから。
ほんとに明日は大丈夫なのか。思ったが、信じたのだから信じるしかない。ライは改めて思い、もうそのことについて考えるのをやめた。
と、レオンが全員を代表して、でもと口にする。
「でも、ライは大丈夫なのか? それに、ゼルクも」
「オレ様は大丈夫だ。ゼルクも一晩休めば、行けると自信を持って言った。体調に関しては問題ねえ」
「本当か?」
「あんま言いたい言葉じゃねえが……信じろよ」
恥ずかしそうに顔を手で覆い隠しながら、ライは言った。
信じるとか、そういう言葉は口にすると途端に胡散臭く感じてしまう。ライはそう思っていた。それでも言った。これ以上追求されるのも、心配をかけるのもイヤだった。
言われてレオンは眉を寄せたが、そんな風に言われてしまっては頷くしかなかった。
「そう、か。わかった、信じる。明日で構わないよ」
その流れで、フェレスとリィエも次々と同意を示す。
「ま、ライがいいならいいさ。それに時間かけて、また新しい魔王なんて創られちゃ、厄介だしな」
「うん。今度こそ、大魔王を倒さないとね」
という、いい流れだったところを。
「ま、がんばれば?」
ヴェンデッタはいっそ薄情なくらい気楽に言ってのけ、断ち切った。
とはいえ、その言葉に反論を述べる者はいない。そもそも、ヴェンデッタの参戦はイレギュラーであり、命懸けの戦いに何度も連れ回すわけにはいかない。それが全員の共通意識だった。
たとえ、命を懸けるのが日常である戦士だとしても、不本意な形で強要するのはよろしくない。
「はっ。がんばらせてもらうさ」
だからライはさらりと受け流す。最初から期待していなかったというように。
それに、ヴェンデッタは少々不満げな眼をライに向ける。
「なんだ、お師匠さまに助けを請わないのかよ?」
「は、師匠キャラにそんな出張ってもらっちゃあ、オレ様のメンツがたたねえだろうが」
「それもそうか」
何故か酷く納得した様子で言ってから、ヴェンデッタはふうと息を吐く。
「ま、そもそもオレの怪我はまだ治ってねえしな」
「じゃあ、とっとと寝ろよ、ヘンタイ」
「そうだな、オレがここにいちゃあ、最終決戦前夜もできねえだろうしな」
などと冗談めかして、ヴェンデッタはそそくさとリビングから出て行った。どこかの部屋で、寝るのだろう。あれでも1番の重傷者なのだから。
ヴェンデッタが出て行き、気配も完全に感じなくなったのを確認して、ライが口を歪ませる。
「よしじゃあ、邪魔者もいなくなったということで、最終決戦前夜やるか」
「あー、ほんとにやるんだ。というかやるとか、そういうもんなの、それ」
リィエがライの頭の上からつっこむ。ライは肩を竦めて答える。
「ま、主人公パーティとしては通例行事だからな」
「でも、具体的にはなにするの、ライ」
「そうだな……」
アゴに手をあて、ライは思案に耽る。具体的になにをすればいいのかは、考えていなかった。
少し考えると、ぱっ、と思いついたのか表情を輝かせてライはひとさし指を立てる。その指でもってレオンを指し、言う。
「なあなあ、お前好きな奴とかいんの?」
「え?」
「修学旅行か!」
戸惑うレオン、突っ込むリィエ。ライは笑った。
「そうその突っ込みが欲しかった」
なにがしたかったのか。基本的にノリで動く男、ライである。
ライは仕切りなおす。
「じゃあ、ま、最終決戦前夜らしく、全員ひとつずつ抱負ってか、覚悟でも言ってもらおうか――はい、レオン」
「え! 俺?」
ライはニヤニヤしながら頷く。楽しんでやがる。
んー、といきなり振られたレオンは、それでも必死に考える。レオンは真面目な少年だった。
「そう、だな。とにかく、みんな死なないで生きていてくれれば、それでいいかな」
「覚悟でも抱負でもねえな」
「そうかな? みんなが死なないように、全力を尽くすってことを言いたかったんだけど」
「門番であれだ、城主は一体どれだけ強いんだろうな。それでもか?」
ライは試すように問う。ここで揺れる様では本当に勝ち目などないだろうから。
知ってか知らずか、レオンは動じず笑顔で受け止める。
「ああ。俺は、敵がどれだけ強くても、みんながいれば勝てるって信じてるから」
「……そうかい。
あー、流石に最終決戦前夜にもなると、言うことがいちいち臭くてかなわねえな」
「お、俺だって少し恥ずかしかったんだぞ」
「ライ、茶化さないの」
頭の上のリィエが、小さな手でポンポンと叩く。
風を使わないのは、以前のことを気にしてか。はたまた魔力が全快していないのか。
少しだけばつが悪くなり、ライは頬を掻く。けれど、いつも通りの態度を崩さず、ライはすぐに口を開く。
「じゃあ次、フェレス」
「アタシか」
半ば予測していたのか、フェレスは大して考えることもせず、言った。
「逃げないこと、かな」
「逃げない?」
疑問符を口にだして、その後になってから思い出す。フェレスの過去のことを。大戦において、逃避したという過去のことを。
フェレスは後悔のように自戒のように決意のように、ライとレオンとリィエを見据え、告げる。
「そう、今度こそ逃げない。今度こそ絶対に逃げない。それで昔のことがチャラになるとは思えねえけど、足手まといになっちまうかもしれねえけど、逃げないでいようと思う。
前、言ったと思うんだけどさ、アタシは逃げたんだ。戦うことから、恐いものから、仲間を見捨てて逃げた。
それは、アタシに自分よりも大事なものがなかったからなんだよ。自分が1番大事で、だから大事なもんを守るために逃げたんだ――けど今、アタシは自分以外に大事なもんができちまったようだ、逃げようって気が全くわかねえ。大事なもんを、守りたいから。
都合のいい話だよな」
最後には、自嘲するように乾いた笑い声を零す。
その笑い声を遮るように、そんな笑い声は聞きたくないというように、ライは「はッ」と声を張る。
「都合のいい話の、なにがわりぃんだ。いいなら、いいじゃねえか。まあ、ちっと臭いがな」
「ライ、ひとこと余分だよ。もう。
でも、言ってることはわたしもそうだと思うよ。
前のことをいつまでも引き摺っていても仕方ないんだし、フェレスは次からがんばろうとしてるじゃない。それで、十分だよ」
「うん、俺もいいと思う。逃げることは悪いことじゃない、死ぬよりはずっとマシだと思う。それにフェレスが逃げなかったら、俺はフェレスと出会えなかったわけだしさ」
ライは若干茶化すように、リィエは真っ直ぐ正直に、レオンは笑顔で朗らかに、それぞれ思い思いのことを口にする。
そんな3人の真摯な言葉に、フェレスは驚き眼を見張って、そうして小さく笑った。
「みんな……うん、ありがとな」
「はい、次リィエ」
「えっ、はや! 感慨にふけるヒマもなし?」
「いや、なんか湿っぽくなりそうだったしよ」
ライは悪びれた風もなく、肩を竦めて見せる。感傷とかを全く考えない男である。
その無遠慮な態度に、リィエの文句が飛ぶ。
「湿っぽいのが嫌いなのは知ってるけど! フェレスに失礼でしょ、ライ!」
「いや、いいよ。アタシも湿っぽくなるのは好きじゃねえ。それに、リィエの抱負ってのも聞いてみたいしな」
「ぅ、うぅ」
本人であるフェレスに言われてしまうと、流石にぐうの音もでない。
「ほれほれ、なんか言えよ、リィエ」
勝ったとばかりにニヤニヤしながら、ライは急かす。やはり楽しんでやがる。
リィエは少しムッとしたが、諦めて言葉を思案する。僅かばかりの意趣返しを込めて、リィエは思いついたままに言う。
「ん、んー。そうだね、わたしはライが変な行動に走らないか、ちゃんと隣にいて見てないとね」
「なんだそれはっ」
思わずライが突っ込む。
リィエは気にせず胸を張る。胸を張って、力強い言の葉を紡ぐ。
「わたしはライの隣にいるよ。横にいて、一緒に戦うよ。傍らにいて、ずっと同じ道を進むよ。だって、わたしはライの家族で――相棒でしょ?」
「…………」
ライは驚愕に絶句。
10秒で一転して、ライは思わず口元を綻ばせ、我慢できず声を上げて笑い出した。リィエの言葉が、心底面白いというように。
ああ、そうだ。こいつは家族だ。そして、なにより相棒だ。
忘れていた、すっかり忘れていた。ただ護ってればいいだけの存在じゃなかった。後ろに庇っていればいいだけの存在じゃなかった。ともに歩み、ともに進み、ともに生きる相手だった。隣に並び立つ、そんな相棒だった。何故、忘れていたのか。1番大切なことだというのに。
そうだ、思い返してみるとライは、先回の戦いでも先々回の戦いでも、リィエを安全位置において支援に専念させていた。戦術ではあるが、無意識に危険から遠ざけていたとも言える。それは確かに大切にするということだが、相棒の扱いではない。相棒ならば、ともに危険に突っ込むくらいでなくてはいけないだろう。
リィエは護られるだけの弱い存在ではない。ライだって幾度も助けられている。だというのに、上から目線で護ってやるなんてのは、傲慢が過ぎた。そう考えると、魔剣には嘘を言ってしまったかもしれない。
対等な関係にあってこそ、互いに助け合ってこそ、真に相棒と呼び合う仲となる。そのことを、ライは今一度、心に刻み込んだ。もう2度と忘れないように。
ライはどうにか笑いを収め、頭の上のリィエを掴み、顔の前にもってくる。そして、目線を合わせて謝罪する。
「わりぃ――忘れてたわ、お前はオレ様のただひとりの家族で、相棒だったな。傍らで戦うのは当たり前だったな」
「うんっ!」
心から嬉しそうに、輝く笑顔でリィエは頷いたのだった。
「さて、最後にオレ様か」
ライは言いながら、リィエをまた自分の頭の上に戻す。
それからニヤリと笑い、軽くひとこと。
「ま、ちょっくら神でも越えて、伝説になることかな」
「軽く言ってのけたね、ライ」
「それが1番、難しいんだろうに」
「それを気負いなく言えるのが、ライの凄いところだからな」
「うーん、それもそうだねえ」
「てか、アタシたちは神を倒そうとしてるんだよな」
「あ、そういえばそうだったな」
ライの大言壮語に、皆はまともに受け取りそのまま談笑しだす。
戸惑ったのはライ。
「え、なに、突っ込みはなし?」
「だって、本当のことじゃない」
「うん、それを為すために、いままで戦ってきたんじゃないか」
「相手が神でも関係ねえよ」
3人に言われ、ライは眼を白黒させる。てか全員、ライに影響されすぎだ。
ふと、リィエは疑問を抱く。なんの他意もない、純粋な問いだった。しかしそれ故に、的確に痛いところを突く。
「え? もしかして自信ないの、ライ?」
ドン、と音が響く。思わず、ライが壁を殴りつけた音だった。壁は陥没し、込められた力を物語っている。それはライが堪えるための行動だったわけだが、無論、堪えられるはずもなく――次の瞬間には爆発のように叫ぶ。
「んなわけあるかァア! 主人公ナメんなッ! 相手が誰だろうが、神だろうが、勝つに決まってんだろ! 勝ってオレ様が、最ッ高のハッピィエンドを見せてやるッ!」
「じゃあ約束できる? ライ」
「上等だッ! 約束したらァ! 破ったら針千本でも持って来いや、飲み込んでやるよ」
勢いに任せてだが、きっちりとライはそう約束したのだった。
リィエは満足そうに微笑んだ。