第十九話 結局リターン
「最近オレ様が主人公役から解説役にまで降格している件について、議論しようか」
「最近って、1回だけじゃない」
ライがばかなことを言った。リィエが突っ込んだ。レオンは横で楽しげな表情をしていた。
「だけ? 1と0じゃあ、全ッ然ちげえからな。経験者は次もよろしくと言われ、未経験者は経験者によろしくと言うんだよっ。なんだこの悪循環はっ!」
「それ解説役の話?」
リィエはライのよくわからない文句にたじろぐ。
ライは大きく頷く。
「たっりめえよ。しかし解説役ってよぉ、人気のないキャラのような扱いじゃないか。なんだ? オレ様は人気がないのか? 人気投票最下位なのか? したこともないんだぞ、人気投票なんてよぉ! それとも実はオレ様に隠れてやったのか、人気投票。 オレ様は何位だったよ? 1位か? 1位以外は認めねえぞっ! ――って、は! そういうことか。オレ様に人気投票最下位でした、って間接的に伝えんがためにこんな仕打ちをしやがったのかッ! そぅなんだろっ!?」
「もう意味がわからないどころか、理解しようという気さえおきないよ……」
リィエは頭を抱え込み、突っ込みを放棄してしまった。
突っ込み役がいないとなると、ライはひとりで暴走し続ける。
「なぜ、ひとりだけに活躍が集中してしまうのか。それはサシにこだわるからだと思うわけだ。別に主人公パーティが多勢に無勢でも問題ないから。魔王ひとりに対しこっち5人でリンチしても正義は我にありだから。全員でたこ殴りにすりゃ、楽勝だしな。つまりこれからは多人数同時プレイになるわけだ。これでみんな一緒に遊べるぞっ! みたいな。イコール人気投票でも上手く票がばらけて接戦を演出できるぜ。まあ、次の1位はオレ様だけどなっ!
あ、いや、待てよ。別にオレ様ひとりでやるというのも考え方としてはありじゃねえ? なにも他のヤツに活躍場面をつくらんでもいいわけだし。確かに前回の魔王はレオンの因縁ということで譲りました、譲りましたよ。けどね、これでレオン編は終わりですから。もうレオンくん、君は噛ませ犬ポジションだから。敵が現れしだいテキトーに剣をふるって、もうだめだー、とか言ってすぐに吹っ飛ばされる役回りだから。役に立つのはその時敵の能力を暴き、オレ様に伝えることだけだから。そんで、後は任せた、とかがお決まりのセリフと化すのさ。
残り3名は……まあ、なんとかなるかなっ! うん。
ふははははっ、ということでようやく本編突入オレ様の世界、オレ様の独壇場にして個人プレイの連続! え、人気投票? ライにしか票が入ってないぞ。ていうかライ以外のヤツの名前が思い出せん。的な状況を作り上げてやるわっ!」
ひゃっほおぉぉぉおおおい! と叫ぶ。ライは絶好調だった。しかし、どこか空回りしている気が、する。
リィエはため息を吐く。本気で無視したかったが、心底無視したかったが、さすがに突っ込まざるをえなかった。
「ライ、セリフが長いとすごく鬱陶しいよ。聞くほうの身にもなれっての。てか、自分でなにを言ってるのか覚えてる? 実際、むちゃくちゃ言ってるからね」
うっ、とライは言葉を詰まらせる。口が勝手に回っていて、自分でもなにを言ってるのかわかっちゃいない。ともかく現実から眼を逸らしたいという一心で口に意識を集中させていたのだ。
怯んだところを、リィエがさらに言う。
「ライ、現実逃避はやめようよ」
「ぐっはぁ」
言われてしまった、というようにライが呻いた。自分の胸あたりを掴み、耐え難きに耐えるといった状態を表現する。
しかし周りの反応が薄いことに気付くと、ライはふっ、と息を吐き、
「わかった、現実逃避はやめよう。さて――」
ぽつり、と呟く。
「次どこ行きゃいいんだ?」
それは彼らの今の心境を、端的に表したひとことであった。
とりあえず颯爽と村から離れてみたけど、別に目的地はないのだ。
目的は、とりあえず魔王と大魔王の討伐だろう。けどそれじゃあ、そいつらはどこにいるのだろうか。
今までの3体は、魔王城という有名ドコに居座ってたり、わざわざ襲いにきてくれたり、レオンが個人的に知ってたりで魔王討伐もできていた。しかし、他は居場所がわからない。居場所がわからなければ、どうしたって討伐はできない。
ある意味、最大の難関である。
はっきり言って見つけてしまえば、戦ってしまえば勝てる、とライたちは思っている。が、見つけられなければ、戦えなければ、どうしようもない。
それは敵が強いとか弱いとか以前の問題だ。
「そしてなにより、こういう場面は最もダレる。てか、すっげえ地味なんだよ、このフェーズ。だりぃったらない。オレ様が漫画を読むのをやめるのは、こういう状況になった瞬間だぞ」
「はいはい。ライがこういう膠着状況、大きらいなのは知ってるよ。でもしょうがないじゃん、ここは冒険の定番、情報収集しかないでしょ」
「やーだやーだ、んなインパクトに乏しいことやりたくなーい」
「子供かっ」
リィエは突っ込みと同時にくるり、と指を舞わす。しかし、
「ふ、甘い」
空気の震えを、最近感知できるようになったライは、上体をずらして風の突っ込みを回避する。さすがオレ様! と頭の中で自画自賛する。が、
くるくる。
「え? ――がっはぁ!」
まさかの連続攻撃。避けたと確信した心の隙間を撃たれた。しかも後頭部にクリティカルヒット、ライは倒れた。
リィエは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ふ、甘いのは……どっちかな?」
「いや、リィエ、やりすぎだから」
さすがにレオンが会話に入ってきた。ゲンナリした様子で、話を戻す。
「えっと、たしか情報収集の話だったよね。それなら情報が集まりやすい、大きな都市とかがいいんじゃないかな」
「おお! さすがレオン。話が簡単にまとまったね、じゃあどこの都市にしようか」
「そうだな、まあ大きな都市っていうのも限られてくるし、行くならゼルクの転移術を使ってもらうとすると、行ったことのある都市がいいと思う」
空間転移なら、行ったことのない場所にも行けるのは行けるのだが、ゼルクへの負担が増えるのだ。できるのなら、行ったことのある場所のほうが確実であり、楽だ。
「ていうと……中央都市? でもあそこは、いろいろと問題があるような気がするけど」
中央都市シャンバル。思い出されるのは、聖剣勇者選別大武術大会。
あそこでは、結構なことをやらかした。リィエはそう思っていた。自然と、聖剣と魔剣に視線がいく。
レオンが頬を掻く。
「んー。でもたぶん人間領では、1番情報が来ると思うんだよな、あそこ」
それに、と付け加える。
「もう一週間くらいたったし、大会も終わってるんじゃないかな」
「……まあ、たしかに」
ライたちが去った後も、滞りなく続けていたなら、すでに大会は終わっているだろう。
なら、大丈夫だろうか。いや、でも少々楽観的すぎる気も……。と頭を悩ませていたリィエをよそに、
「よし、情報収集フェーズをとっとと終わらせるためだ、行くんならすぐ行くぞ、今行くぞ、さあ行くぞ」
話を聞いていたのか、今までダウンしていたライがいきなり立ち上がり、勝手に決めやがった。
リィエはため息を吐いて、レオンは苦笑を漏らして、しかしライの意見を否定したりはしなかった。意外に、ライはこのパーティでの最終決定権を持ってたりするのだ。
「わかったよ、ライ。じゃあ、そういうわけでゼルク、頼むよ」
レオンは、そう聖剣に声をかけた。