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第十四話 ボス直前の変なテンション





「俺の故郷の名はヒレリア。辺境にある小さな村だ。これといった特産物もなく、名所もない。本当にのどかなだけの村だった。名前、聞いたこともないだろう?

 けど、とある日。別に特別な日じゃなかった。いつも通りの1日だった。いつものように俺は隣村に剣の指導をしてもらいに行った、習っていたんだよ、剣術。

 そして、その帰りには――村が凍っていた。

 最初は意味がわからなかった。次は、場所を間違えたと思った。道を間違えて、知らない場所に来たんだと思った。

 そんなわけがなかった。

 少し村を見渡せば、知り合いのおばちゃんや、俺に懐いてくれていた猫、今朝言葉を交わした友達、みんないた。みんな凍っていた。そこで、俺はようやく泣いたよ。

 そんな時、魔王が、俺の前に現れた。

 すぐに直感した、犯人はコイツだと。そのまま怒りに任せて剣を振るって、吹き飛ばされた。アイツは強かった。俺は弱かった。

 俺はこのまま殺されると思った。みんなのように凍らされると思った。けど、アイツは笑ったよ。笑ってから、さも楽しそうに俺に話しかけてきた。

『オレはお前ら人間が書く、娯楽用の読み物が好きでなあ。よく読むんだ。それを真似させてもらうと、こういう場面じゃあ、お前は殺さない。その方が、絶望的なんだろ?』

 そう言って、魔王はまた笑った。そこで俺の意識は途切れた。

 眼を覚ますと、村の外にいた。村のほうは相変わらず凍りづけだったから、俺は行きたくなくて、見たくなくて、後ろを向いて走り去った。

 そうして現実から逃げて4日くらいで、魔王を倒そうと思い立った。復讐なんてくだらない、わかってる。だけど止められなかった。

 力を求めた。圧倒的な力を、絶対的な力を、復讐が為せるだけの、力を。そして見つけたのが――聖剣」


 長い間、溜め込んでいた思いを吐き終えると、レオンはなんだか心が軽くなった気がした。

 道すがらの話題としては、少し暗かったかな。そんなことを思い、レオンは同行者ふたりの表情を窺った。


「大変、だったんだね」


 リィエは予想通り、悲壮な顔を隠せないでいた。

 本当に、素直で優しい娘だな。レオンは思い、かすかな笑みが顔に浮かんだことを自覚した。

 そして――


「ふぅん。まあ、主人公パーティなら、そんくらいの過去もってて当然だろ。オレ様だってあるぜ?」


 ライは、別に普通だった。いつものように、人をくったような笑みで言ってのけた。

 レオンにはそれも予想通りで、思わず苦笑してしまう。

 かわりにリィエが怒って、風を頭に叩き込む。


「ライ! もう少し言い方があるでしょ!」


 しかし、最近ライは風の拳骨を受けてもひるまなくなっていた。すぐに反論する。

 

「るせぇ! 他人の不幸を悲しんでも、どうにもなんねぇんだよ。だから前向きなこと言って誤魔化そうとしたんだろぅが! それをお前、台無しになったじゃねえか! そしてひるまなくっても、痛いのは痛いんだからやめろ」

「ぇえ! そんなこと考えてたのっ!?」


 後半は無視されていた。ライも聞いてくれるとは思ってなかったようで、そのまま話が進む。


「オレ様を誰だと思ってやがる。気配り上手でステキな主人公だぜ?」

「やばい、すごくうざいよ! ライ」

「んだとぅ!」


 ライがキレて、やんややんやとケンカが始まる。

 横のレオンは、心底嬉しそうなニコニコ笑顔でそのケンカを眺めていた。


「はは。本当に、ふたりは凄いな」


 ふたりは変わらない。本当に変わらない。自分の過去がどうあれ、なんの変化もない。そして、憎悪と絶望に身を焼かれて笑みを忘れていた自分を、いとも簡単に笑顔にしてくれた。今だって、ぶり返してきた激しい感情を、こんなに穏やかに受け止めさせてくれる。

 本当に、ふたりは凄い。


「ふたりと出会えて、よかった。ありがとう」


 当のふたりは全く聞いちゃいないが、それでもレオンは言葉にしておきたかったのだ。

 これで――最後になるかもしれないのだから。






「ちっ、今日はこれくらいにしておいてやるぜ」

「それはこっちのセリフだよ、ライ」


 三下っぽい言葉でもって、とりあえずケンカは終わった。

 終わるのをずっと待っていたレオンは、ゆっくり腰を上げた。座って待っていたのだ。汚れた部分を払い、レオンは笑顔のまま言う。


「じゃあ、行こうか。もうすぐだよ」


 ちなみに3人の向かうのは、件の凍らされた村――ヒレリア。

 現在は深い森を直進しているところだ。本当に辺境らしく、進む道は整備などされていない獣道である。

 時たま魔物が襲ってきたり、道が枝分かれしたり、と中々進みづらいダンジョンである。

 ライは少し物珍しそうに先を促すレオンの顔を眺めつつ、問う。


「ん? なんでお前、ニヤケてんだ?」


 それには、何故かリィエが答える。小ばかにしたように両手を広げて首を振る。


「レオンはいつも笑顔じゃない。笑顔を絶やさない男、っていう称号を与えてもいいくらいに」

「いや、確かにそうだが……なんつか、いつもと違う気がするんだよな」

「んん? んー、そう言われると、そんな気もしないでも、ないでも、ないでも、ない?」

「どっちだよ」

「わかんない、ってこと」

「あっそ。で、なんかいいことでもあったのか?」


 リィエとのばか話を切り上げ、今度こそレオンに向き直った。

 レオンは照れくさそうに頬を掻く。


「いいこと? そうだな、いいことはあったよ」

「なんだよ、それ」

「あー、なんていうか――」


 今更、言うのも恥ずかしい。レオンは、走り出す。やはり笑顔で。


「言えないな」

「なっ? おい、待てよ!」

 

 言葉もむなしく、レオンは駆けていってしまった。

 ライは渋い表情で腕を組む。そして呆れたように呟く。


「……なんだ? あいつのあのテンションの高さ……正直、気持ち悪い」

「ライ、いつもはライがあんな感じなんだからね……。でも、んー、なんだろうねぇ。ライのヘンなとこでもうつったのかな」

「どういう意味だ、こら。オレ様は病気かなにかか」

「似たようなもんでしょ」

「てめっ!」


 


 



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