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第十話 主人公決定戦(?)





 そんなこんなで、ようやく大会の最終日にして、決勝トーナメント16名まで──


「なんかオレ様の活躍がはしょられた!」

「突然なに言ってんの、ライ」


 ライの魂の叫びに、答えるはリィエの不思議そうな突っ込み。そんな風に問われ、ライは急激に勢いをなくしてしまう。


「あ? いや、あの、なんだかオレ様の第三回戦以降の試合が行われていないような気がして……」

「はあ? この1週間で戦いまくったじゃん」


 断言された。

 しかし。言われてみれば、確かにそんな気がしてきた。

 思い出してみる。

 …………。

 ……あ、水霊(ウンディーネ)に水攻めされたり、ちび妖精(フェアリー)に風で殴られたり、オレ様ばりに速い獣人(ビーステア)がいたり、三回戦以降、どれもハードな戦いだった。

 なんで忘れてたんだろ。


「レオンも勝ち抜いて、ライと戦うハメになったよねえ」


 また、なんかはしょった感が……ないか?


「次の試合、全力で戦おうな、ライ」

「お、おぅ」


 レオンの無邪気な笑顔を見て、まあ、いいか。と、ライは適当に結論付けた。






『はーい、ついについにッ! 来ましたよ、決勝トーナメントッッ!! これまでの壮絶にして過酷な2000名以上のトーナメントを勝ち抜いた精鋭16名!! 誰も彼もみなつわもの揃い! 一騎当千の英傑たち! そしてこの大会、第2の目的、聖剣勇者はこの16名の中に果たしているのかッ!?』


 わーーーーーッッ!! とか、ぅおおぉぉぉぉおおおおッ!! とか、ひゃっほぉぉっぉぉぉおおおお!! とかの、これまでで最大の歓声から、観客たちの興奮度が窺える。音量も、これまでで最大である。

 しかし、もう慣れた。ゆえにバトルフィールドのふたりは、全く気にしていない。


「やっぱ展開、はや過ぎねえか?」


 ライは今更なことを呟いた。

 目の前には聖剣を握った、やる気満々のレオン。

 レオンが嬉しそうに口を開く。


「ライ、全力でいくよ」

「おー、おー、好きにしやがれ」

「……えっと、ライ? 俺、結構マジメなんだけど」

「いや、だってさー、お前とはさー、もうさー、何度もやり合ったしさー、負けなしだったしさー、気も抜けるって」


 特訓のことであろう。レオンには耳が痛かった。なんせ今までの特訓では、ライから1本もとれなかったのだ。

 勝機は万に一つにもない――だが、勝機がなかろうと関係なかった。


「俺は勝ち負けより、ライ――お前と全力で戦いたい」


 レオンの決意にじむ断言に、ライの反応はジト眼だった。


「はぁー。戦闘ばかだっけ、お前」

「え? いや、ちっ、ちがうよ!」

「はいはい、わかってますよー」

「ライ、絶対わかってないだろ……」


 そんなバカみたいな会話を、司会者の声が中断させる。


『おッ待たせしました! これより決勝トーナメントを始めちゃいますよ! 決勝トーナメント第一回戦1試合目ッ!! “主人公”ライ・スヴェンガルド選手VSレオン・ナイトハルト選手!! 前置きはもういりませんね? では、試合――開始!!』


 瞬間、会場の音が消えた。

 みなが、固唾を呑んで目の前の戦いに集中したのだ。戦士が全力で戦うように、彼ら観客も全力で観戦する。観戦に、声を出す必要はない。

 この会場にある視線全てを受け、レオンは聖剣を握り締め、ライは魔剣を構える。

 そして――


「いくぞ、ライ!」


 静寂を打ち破るように、レオンは力強く言葉を放つ。それに呼応し、聖剣が光り輝きだす。

 熱はない、ただただ光る。燦々と、煌々と、ピカピカと――それは万象全てを浄化する、聖なる光だった。


「――ってぇ! なに聖剣の力、全開にしてんだテメェはっ!」

「言ったはずだよ、ライ。俺は、全力でいく、と」

「だからって、こんな目立つ場で! お前、どうなるかわかってんのか?」


 聖剣の所在をばらす。

 そんなことをしてしまえば、世界中の魔物に狙われることとなる。勿論、残った魔王どもだって黙っていない。レオン・ナイトハルトという人間を探し出し、追い掛け回し、なんとしてでも殺そうとするだろう。それだけじゃない、聖剣を奪おうとするバカな人間どもが現れないとも限らないのだ。


「わかってる。わかってるさ」


 全てを理解した上で、命を狙われることも覚悟して、レオンは宣言する。


「それでも、そういうリスク全部無視してでも、ライ――お前と全力で戦いたい」


 先ほどと同じ言葉。しかし、先ほどとは違う覚悟。ライは茶化せなかった。

 その眼は、どうしてそんなに真っ直ぐなのか。どうしてこう愚直に生きれるのか。ばかは本当に救えない。

 ――まったく、主人公はオレ様だっての。

 そんな風に口を動かしてから、ライは魔剣を強く握り締めた。


「ハッ! 言うじゃあねえか、脇役! そういうのに応えてこそ、主人公だもんな――いいぜ、受けて立ってやる! ――フェレス! 抑えんのやめだ!」

『いいのか?』


 フェレスが僅かばかりか心配の念を込め、問う。ライはもう迷わず、答えた。


「いいッ!」

『そうか、わかったぜ』


 途端、魔剣に闇が集う。ライの戦気に、魔剣が応えているのだ。

 真暗、暗闇、闇色。全てを喰らう、全てを塗り潰す、全ての果て――それは何処にでもあって何処にもない、真なる闇だった。

 ざわり、とさすがに観客たちも騒ぎ出す。圧倒的なまでの光と闇がもたらす力の波濤に、否が応でも動揺が広がる。

 聖魔の剣の所有者を見つけたと歓喜する者。聖魔の剣の力におののく者。気にせず静かに観戦しつづける者。反応は実に様々だ。

 だが、そんなことは舞台に立つふたりには全く関係ない。すでに、互いに互いのことしか見えていない。

 会場のどこかで、哄笑を上げている者もいたが、勿論そんなことも気にしてはいなかった。




「さあ――全力だ」


 八重歯剥き出しの、獰猛な笑みを浮かべて、ライは魔剣を振りかぶる。

 相対するレオンは、ライの本気の戦気に圧されそうになりながらも聖剣を隙なく構える。

 ジリジリ、とふたりは互いの距離を詰める。視線をぶつけ合い――否、睨み合いながらも腹を探り合う。

 レオンは思う。一瞬でも隙を見せれば、僅かでも視線を逸らせば、欠片でも集中を切らせば、その時点でやられる、と。

 しかし、相手であるライは、そこまで気負いはしていない。確かに隙ができたなら突くが、レオンに絶対隙を見せるな、と教え込んだのは他でもないライ自身なので、そこら辺に期待はしてなかった。

 故に、睨み合っていても意味はない――ならば、先手必勝!

 ゆらり、とライが動く。それに反応して、レオンは全力でもって応える。

 魔剣は振り下ろされ、それを受けようと聖剣が走る。


 ――聖魔対極の剣が、鍔競り合う。


 ガキィィイッ!! と、耳障りな衝突音が響く。それを追うように、光と闇の力が激突、ドデカイ轟音を鳴り響かせる。

 いきなりの正面衝突。相手の出方を窺うなんて素振りもみせぬ、最初から全力全開の剣戟!

 ……最近見てなかったから忘れていたが、やはり聖剣と魔剣。それらはなんと強大な力を、なんと膨大な魔力を、なんと壮絶な出力を、しているのだろう。

 会場が揺れる。騒いでいた者たちが言葉も忘れて、戦いに見入る。

 

「ち」

「く」


 力の拮抗を見て、切り結ぶふたりは同時に剣を引き、後方へ跳び退く。

 と、ふたりは唐突にふらついた。なんだ、と思うが次の瞬間に理解する。これだけの力の放出だ、使い手にも負担がかかるのだろう。


「だったら――」

「ソッコーで潰すしか、ねえなぁ」


 レオンの言葉に、ライが重ねて――互いに再び構え、いつでも斬りかかれる体勢をとる。先ほどと似たような状態に陥ったが、やはりライが動く。


「ぅおりゃ!」


 その場から、一直線に魔剣を振るう。刃は届いていないが、かわりに闇が荒波のように駆け抜ける。

 魔剣が、直接頭に伝えてくる。魔剣の使い方を。これはそのひとつ――纏う闇の操作。

 



「っ!」


 レオンが動揺に表情を歪め、咄嗟に横っ跳びで闇の奔流を回避してみせる。

 しかし、闇が横を通りすぎようとした時、闇がうねった。驚いている暇もない。うねった闇は幾本もの刃をかたどり、レオンを狙う。


「負けるか!」


 レオンはデタラメに聖剣を振った。そんな扱い方でも聖剣は聖剣、闇に触れれば、それを浄化し無と化す。

 やがて、どうにか全ての闇の刃を消し去る。多少、傷は負ったが、致命傷はない。だいじょ――


「――安堵したな?」


 後ろから、声。汗が、頬を伝う。

 忘れていた、ライの疾さを。ダメだったんだ、ライから眼を離しては。


「闇は、囮だったのか」


 魔剣を突きつけられている。このままでは負けてしまう。レオンは必死に打開案を模索した。そしてその思考時間を稼ぐために口を動かす。


「それにしても、あんな技、いつの間に覚えてたんだよ、ライ」

「さっき。魔剣が教えてくれた」

「俺は聖剣に、なにも聞いてないな」

「理由は知らん。で、時間稼ぎしてないで、負けを認めろ。ぶった斬るぞ?」


 脅してみる。ただ、ライは心情的にレオンを殺したくなかった。とはいえ、負けたくない。けど、この魔剣で触れれば、人間ていど消滅してしまうだろうことは、ライにもわかってる。だから脅す。ダガーを出して戦闘不能まで追い込むのもアリだが、隙を見せたくないし。

 

「それは、どっちもいやだな」

「わがままめ」

「はは、ごめん。でも、ライが時間稼ぎに付き合ってくれたお陰で、こっちもなんとかなりそうだよ。聖剣が――教えてくれた」


 その刹那、聖剣がより一層、輝きを増した。強烈な光が、会場を満たす。その閃光は視界を焼く。観客たちは、強制的に眼を閉じざるをえなくなる。近くにいたライは、魔剣が護ってくれなければ失明していただろう。

 その間に、レオンが振り返りざまの斬撃を放つ。


「決まれっ!」

「笑わせんな! たかが電球ていどの光で、このオレ様を倒せると思ってんのかッ!!」


 叫びに魔剣が応える。光を呑み込むように、喰らい尽すように、闇がほとばしる。

 闇の中の光を見つけるなど、容易い。

 ライは迫る聖剣という光を、魔剣で受け止める。


「く、闇を押し返せ、聖剣!」


 レオンも負けじと雄叫ぶ。

 闇と光の激突。

 闇が光を呑みこみ、光が闇を照らす。大地は砕け、空は悲鳴を上げる。風が狂ったように荒れる。

 そして――ふたりは弾き飛ばされた。








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