怪物は地に還るもの?(タマゲッターハウス:パニックの怪)
このお話は『小説を読もう!』『小説家になろう』の全20ジャンルに1話ずつ投稿する短編連作です。
舞台や登場人物は別ですが、全ての話に化け猫屋敷?が登場します。
全生物防衛隊WACは怪獣災害を未然に食い止める活動を行っている。
この物語は若きWAC隊員ジンの物語である。
なお、ジン隊員の正体が宇宙人・アルティメマンライガーであることを知っているのはWAC隊長だけであった。
池のほとりの木の上で、細いクチバシの青い小鳥がチチチと鳴いていた。
その小鳥は枝から飛び立ち、池の上をすべるように飛んでいく。
池の周囲はたくさんの高い木々で囲まれていた。
全生物防衛隊WACの善知鳥 ジン隊員は森林公園の中でパトロールをしていた。
微弱であるが、怪獣反応に似た熱紋パターンがWAC基地のレーダーで検知されたのだ。
その反応はすぐに消えて、誤検知と思われた。が、念のためにジンが調査にきているのだ。
カバン型のセンサーをもって歩くジン隊員の側に、自転車に乗った少年二人が近づいてきた。
「ジンさーん。こんなところで何やってるの? お仕事?」
「おや、カヲルくん。俺はもちろん仕事だよ。怪獣がいないかパトロールしてるんだ。君たちも何か変なものを見かけたらWACに連絡してくれよ」
「あれもへんなものかなぁ……。俺とジロウは、この先の森のお化け屋敷に探検に行くんだよ。ジンさんも行ってみない?」
カヲルくんとジロウくんの話をきくと、森の中に以前はなかった小道ができていた。
そこから森の中に入ってみると見知らぬ洋館が建っていたらしい。
その建物は無人のようで、森林公園の地図にも載っていない。
「変だな。その区域は立ち入り禁止の原生林のはずだ。誰かが無許可で建てたのかな……」
ジン隊員は少年達と一緒に現場に移動した。
彼らの言う通り、原生林の一部に下草がなくなっていて小道になっていた。
その中に入っていくと、古そうな洋館が建っていた。
「人が住んでいるような気配はないな。こんなもの、いつから建っていたんだ?」
ジン隊員が首をかしげていると、手に持っているセンサーがピー……と音を立てた?
「怪獣反応? いや、それにしては弱いかな。カヲルくん。ジロウくん。念のために、この公園から出た方がいいよ」
ジン隊員の言葉に、カヲルくんは少し困った顔になった
「ジンさん。ちょっと待って。ジロウがおしっこするって言って、この家の裏手に走っていったよ。この家のトイレ借りようとしてたけど、カギがかかってるみたいなんだ」
「おいおい」
その時、屋敷の裏手の方で「キャー」という悲鳴が聞こえた。
「ジロウくん! どうしたっ」
ジン隊員は声の方に走り出した。
カヲルくんもそれに続く。
屋敷の裏庭の地面に直径1メートルほどの穴があいており、そこにジロウくんがはまり込んでいた。
「カヲルー……。たすけてー」
「ジロウ……なにを遊んでるんだ?」
カヲルくんが呆れたように言った。
ジン隊員とカヲルくんはジロウくんの腕を持って引っ張ろうとした。
「遊んでないよー。さっきまでは小さい穴だったんだよー。ちょうどいいから、そこにおしっこしたんだよ。そしたら穴が急に大きくなったんだ」
そのとたん、穴の直径が5メートルほどに広がった。
三人は穴に落ち込んだ。
そしてその穴の口は小さくなって消え、元の何もない地面になった。
* * * * * *
「隊長。B3地区の森林公園にケモノ型の怪獣が出現。町の方向に向かっています」
レーダーを操作していたタテナガ隊員がそう告げた。
全生物防衛隊WACの基地では怪獣出現のアラートが鳴り響いている。
各種モニターには、町の住民が地下の避難シェルターに避難する様子が映っていた。
WACの任務は怪獣退治ではない。
人間を含むすべての生物を慈しむことがモットーである。
怪獣や魔獣、宇宙生物をなるべく倒さずに解決させることを目指している。
愛護精神だけでなく、怪獣の遺体による環境被害を抑える意味もある。
もちろん人的被害を回避できない場合は攻撃ができるが、戦闘はできる限り避けることを求められている。
町の周囲には怪獣の接近を妨げる臭気噴霧器や音響発生器が用意されている。
ただしこれらは逆に怪獣を刺激する可能性があるため、使用前に怪獣の特性などを見極める必要がある。
すでに怪獣の調査を行う小型飛行機WACスパロウが現場に急行していた。
「あの森林公園にはジンがパトロールに行っているはずだな。ジンから連絡は」
WAC隊長がそういったとき、タテナガ隊員が「ジン隊員から今、通信が入りました」と答えた。
『マホロバ隊長。こちらジン。生温かい湿った空間に私と一般人の少年2名が閉じ込められています。おそらく怪獣の口の中だと思われます』
「ジン。怪獣はこちらでも確認した。咀嚼されないように注意しろ。自力で脱出できそうか?」
『子供たちは気を失っています。コショウ弾を撃ち込んでいただけますか。くしゃみで口から出られれば、WACワイヤーとWACパラシュートを使って子どもたちと脱出できます』
「了解した。15分でWACスパロウが現場上空に到着する。それまで持ちこたえてくれ」
* * * * * *
ジン隊員はいったん通信を切った。
隣では少年たちは目を回して倒れている。
ジン隊員には、その気になればコショウ弾の援護がなくても脱出する方法はある。
実はジン隊員は地球人ではない。彼はネコ座H85星から来た宇宙人なのである。
変身によって元の姿になると、怪獣と同じぐらいの大きさになる。
ここで変身した場合、少年たちがケガをする可能性がある。
せめて口から外にでてからでないと危ないのだ。
たとえ子供たちがいなかったとしても、ここでの変身は別のリスクがある。
彼がここで変身・巨大化することで、怪獣の頭が破壊される可能性もあるのだ。
不可抗力以外で怪獣を倒すことは、極力避けないといけないのだ。
うっかり殺してしまうとまた隊長にぶたれる。
ジン隊員は気絶した少年たちを両腕で抱え込み、脱出の機会をうかがった。
* * * * * *
森林公園を一匹の怪獣が二足歩行している。
その怪獣はネコを凶暴化させたような外観である。
ネコ型怪獣の進行方向には町があった。
町の方から、二対の回転翼をつけた小型飛行機が飛んできた。
WACスパロウだ。
WACスパロウは回転翼を上に向け、怪獣の前方の空中で静止した。
操縦席にいた女性のナナメ隊員が通信機を操作した。
『ジン隊員、こちらナナメ。WACスパロウで現場上空に到達。コショウ弾は準備完了です』
『了解。ナナメ隊員。こちらも大丈夫です。撃ち込んでください』
『コショウ弾、発射!』
WACスパロウから打ち出されたコショウ弾がネコ型怪獣の前で炸裂し、黒い煙で覆われた。
クシュン!
ネコ型怪獣のくしゃみとともにジン隊員と子供たちが空中に投げ出される。
不運なことに、パラシュートの操作をしようとしたジンもくしゃみをしてしまった。
「ハックション! ああっカヲルくんっ、ジロウくんっ」
子供たちがジン隊員の手から離れてしまったのだ。このままでは墜落する。
「こうなったら……」
ジン隊員は両手首のブレスレットを打ちあわせた。
「ライガーーーーーー」
ネコ怪獣を包んだ黒い煙の中から赤く燃えるオーラの巨人が現れた。
アルティメマンライガーである。
地上では、WAC専用自動車・WACビークルが近づいてくるの見えた。
赤い巨人はWACビークルの近くの地面に、そっと子供たちを置いた。
WACビークルを降りたヨコマル隊員が巨人に向かって叫んだ。
「ありがとう、ライガー。SBH弾の解析が変わるまで、時間かせぎを頼むっ」
SBH弾……別名『帰巣誘導弾』は、怪獣に対して沈静化と帰巣本能の増幅を行う作用がある。
これを使って巣に戻らせるのがWAC基本戦術だ。
ただし最大限に効果を発揮させるには、怪獣の特性に合わせて成分を調整する必要がある。
赤い巨人ライガーはヨコマル隊員に向かってうなづいた。
そして猫型怪獣に向き直った。
「フシャアアアアア……」
ネコ型怪獣が吠えて、大きなカギヅメを振り下ろしてきた。
ライガーは両腕をクロスして受け止めた。
そしてライガーが右足をあげて怪獣を押し戻した。
蹴るというより、突き放す動きであった。
ライガーは突き・蹴りなど打撃を主体とした宇宙格闘技を心得ている。
しかし、WAC隊長から打撃技はなるべく使わないように命じられている。
うかつに怪獣をグーで殴れば、あとでジンが隊長に殴られる。(悲)
怪獣はその体内に様々な病原菌や瘴気、それに寄生虫などを宿している可能性がある。
『怪獣の遺体が出る方が、怪獣が暴れるよりも環境破壊が大きい』という主張もあるのだ。
ライガーは握っていた拳を開いた。
怪獣のカギヅメを拳法の技でさばき、平手でその腹部を押し返した。
バランスをくずした怪獣の左手首を、ライガーが両手でつかんだ。
自身の身体を外側から怪獣の左わきの下をくぐらせて、コマのように身体を一回転させた。
左腕をねじられた怪獣がゴロンと地面を転がった。
ライガーは怪獣の身体を押して転がしていった。
近くの池に怪獣がどぼんと落ち、水しぶきと大波があがる。
びしょぬれになった怪獣が丘に上がろうと四苦八苦していた。
WACスパロウのスピーカーからナナメ隊員の声が響いた。
『ライガー。SBH弾の発射準備、完了です!』
ライガーが頭上で両手首のブレスレットを合わせた。
両腕を左右に開くと、フラフープのような光の輪が現れた。
ライガーは輪投げのように光の輪を投げた。
光の輪は、やっと丘に上がったネコ型怪獣にかぶさり、その輪は小さくなって締め上げた。
『SBH弾、発射っ』
WACスパロウから発射されたSBH弾は、ネコ型怪獣の前でたくさんのシャボン玉になって、つぎつぎと炸裂した。
縛っていた光の輪が消えると、ネコ型怪獣はふしぎそうにキョロキョロとし始めた。
そして、最初に現れた森の方に歩き出した。
怪獣の大きさはだんだん小さくなって、その姿は薄れていった。
そして風に溶け込むように、ゆっくりと姿が薄れて消えていった。
それを見届けたライガーはWACスパロウに敬礼をし、空へ飛び立っていった。
「ライガー……。ありがとーー!」
地上では目を覚ましたジロウくんが、飛んでいくライガーに向かって手をふっていた。
カヲルくんがヨコマル隊員に話しかけた。
「ヨコマルさん。ジンさんはどこ?」
「あれ? そういえばジン隊員はどこ行ったんだ?」
その時、「おーいっ」という声が聞こえた。
そちらを見るとジン隊員がかけてくるところだった。
カヲルとジロウはそちらに手をふった。
「ジンさーん。無事だったんだねー」
ヨコマル隊員はほっとしつつ、つぶやいた。
「ジンも無事でよかったな。でもあいつ、いつも大事な場面でいなくなるから隊長に怒られるんだよ」
* * * * * *
例の屋敷は、森林公園になる前にこの土地の所有者が住んでいたものらしく、古い図面には載っていた。
解体する予定であったが重機が入ると原生林を傷つける可能性があったため、立ち入り禁止にして放置されていたようだ。
建屋はさほど劣化しておらず、簡単な補修で使えることがわかった。
今後は自治体が屋敷を管理し、資料館として活用される方針のようだ。
調査に入った関係者が立ち去った後、その屋敷の庭では一匹の黒猫が昼寝をしていた。
アルティメマンライガーの設定を貸していただいた大浜 英彰様に感謝します。
アルティメマンシリーズは大浜 英彰様の小説の作中作です。