【閑話】
アルバート・アーサーは800年続くプトラ王国の第十王子。
プトラ王国は水源が乏しく、砂漠地帯が多いので土地も痩せている。そんな中でも生きていけたのは他国よりも魔法使いの多さと、商人としての才覚が故と言えるだろう。
最初は服飾や装飾産業、芸術品などの加工品で経済を築き、周辺各国からは芸術の都として栄えた。金は武力なりという言葉がプトラ王国ではあり、貨幣システムが組み込まれているこの世界では人も物も基本は金で買え、プトラ王国は商業都市の中心国としても南の地域では名が知られている。
経済力でのし上がってきたプトラ王国はなによりも金を尊び、王族も商才がなければ王族にあらずと罵られるほど。逆に才覚さえあれば、何十人といる王子の中でも目立て、次の王位に近づけるというわけだ。
アルバート・アーサーはそんな王子の中でも野心家だが、母親が平民の出なので兄弟や継母からも侮られていた。小さい頃、出自のせいで虐げられ、精神を病んでしまった母の供養のために、兄弟を見返すために、自分や今後できるであろう妻や子が幼少期の自分のような不遇に合わないためにもありとあらゆる商売に手を出した。
――が、既存の商売はすでに競合がおり、その中でも飛び抜けて自分の商品を売り出すためのアイデアやアピール、そして商品の質やアイデアさえもアルバートは思いつかなかった。
才能は努力してもどうにもならない。計算やマナーは決められているものなので、覚えればどうにでもなってしまうが、商売だけは経験や知識だけではなく、商品を考える才能も必要だったのだ。
しかし、いかんせんそちらの才能が皆無で、人を雇うという概念もなかったアルバートは頭を悩ませた。そんなある日、彼の耳に噂がはいってきた。
「ローゼ王国からやってきた商人が不思議な化粧品を売ろうとしていて、それを委託できる商会を探している」と。アルバートはすぐに飛びついた。
この国では女性も多く、美容品の消費率も高いと統計が取れているので、新しい物、しかも品質が良ければ確実に売れるのはアルバートでも理解している。そして本能的にその商品は絶対に売れると悟っていた。アルバートは急いで部下にそのローゼ王国の商人を呼んだ。
そして、その化粧品を売り出そうとしている者の正体が人間よりも魔法技術が高く、凶暴と言われる魔族が作った商品であっても。たしかな品質ならとアルバートは取引を持ち掛けた。
結果的にアルバートの勘は正しく、半年もしないうちにリコリスメーカーの正規品を取り扱う商会として一躍有名なり、20人いる王子の中でも名前が知られるようになっていく。