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10歳

ローゼ王国を北上すると、国境付近に標高8000m以上の高い山脈が連なる。


この山脈は霊脈の一種と呼ばれ、魔法を発動させるのに必要な魔力、その元となる魔素が満ち満ちていた。


魔法とは所謂超常現象を起こしたり、人事では及ばぬ力を行使させる力。


このファンタジー世界では生活基盤のひとつであり、日常的に、生活で、戦争でなくてはならない力のひとつだ。ちなみに、私も使えるが、1回目、2回目の時は聖女セシリアの魔力には遠く及ばず、影は薄かった。


しかし、この3回目の回帰では何故か、保有魔力量はセシリアに匹敵する力があった。


――もしかして私も聖女に覚醒しちゃった!?と思ったが、そもそも、聖女とは生まれた時に持つ神に与えられた聖紋と、結界、光魔法に特化した力を保有すると言われている。私にはそういった特別な力はないので、まず聖女ではない。


魔法の才を開花させた私は8歳の時から、人知れず魔法の才能を磨き、今では瞬間移動の魔法や、飛翔の魔法、1から10を生み出せる創造魔法を使えるようになっていた。どれくらいすごいかというと、王国の魔法省の人間が権力という権力を使って、鎖に繋いで飼いならしたいというほど。


生前のゲーム知識で「こんな魔法使えたらな~」と軽い気持ちで練習していたらいつの間にか使えるようになっていた。才能って怖いね。


話は反れたが、この国境付近の山脈、人間が取り込み過ぎると毒になる魔素が大量に発生しているので、国境付近の人間はもちろん、国内の人間は近寄らなかった。


魔素は空気中に含まれているもので、普段はこの魔素を取り込み、勝手に身体が魔力へと変換してくれるという仕組みなのだが、二酸化炭素と同じで、取り込み過ぎると魔素病と呼ばれる病気になり、全身に激痛が走り、呼吸ができなくなるといった症状が現れる。


対処するには魔素の元となる大源、発生源をどうにかしなければいけないが、それが調査できない以上、ここは呪われた山と化しているのだ。強力な魔獣や、危険な魔族も生息しているという噂もあるほど。


だが、逆を言えば、この未開の地は誰も近寄らず、例え、逃げ出したとしても探すはずもない場所。つまりは逃亡には持ってこいの場所で、魔素を変換し、対処できる方法がわかっている私にとっては天国に近い場所だ。


さっそく、未開の地を調査して、できるなら秘密基地のようなしばらく暮らせそうなたてものとか探せたらなというそんな軽いノリで踏み込むと、手入れのされていない山は獣道だけが存在し、草木が生い茂って歩きづらい。


魔素の濃い方へ進んでいくにつれて、魔素の色である闇の色は濃くなる。すると、開けた場所にでて、断崖絶壁の中央にはまるでRPGにでてくるようなダンジョンの入口のような場所と、読めない文字でかかれた石碑が鎮座している。


「うわぁ、こういうのって触ったらなにか起こるんだよなぁ」と軽い気持ちで情事防御魔法を発動中の指先で石碑をなぞった。


すると、巨大な旋風が洞窟内から巻き起こり、吹き飛ばされそうになる。大気中にある魔素をフル活用をして身を守っていると、大きな地ならしの音と、断崖絶壁の外壁部分が崩れる音、瓦礫と土埃が辺り中に舞う。


風魔法を駆使して、周りの視界を確保しつつ、飛翔の魔法で上空に舞い上がると、まるでラスボスの居城のような、ヴァンパイアのお城のような廃墟感溢れる城が現れる。


どういうことだ、と首を傾げて、それよりも本当にRPGの世界みたいではないかとオタク心を擽られるシチュエーションに後先考えず、城のバルコニーらしき部分に着地して、ガラスの窓から中を確かめる。


――すると、窓は1人でに開く。開いて、すぐに、ふよふよとうかぶ丸い白光があった。まるで私がこの城の主と言いたげに1人でに城の中を泳ぐので、その後をついていくと、部屋をでて、長い廊下と、細かい細工が施された柱をくぐり、重々しい玉座の間っぽい扉の前につくと、その扉はさきほどの窓と同じように開いた。


「――お待ちしておりました、我らが主、尊き御方」

片膝をついて、無造作にベッドのシーツのようなものを身体に巻きつけて、頭を垂れている、白銀の長髪を持った美男子。瞳の色は見えないが、ほりが深く、鼻筋が高いのは伺えるので、相当な美形だろう。耳が長く、肌も血の気がない白さ。


にわかファンタジー知識を駆使するなら、エルフと似たような外見をしていた――が、肌の白さからすれば、吸血鬼かもしれない。というより――。


「誰」

懐に忍ばせた短剣を取り出して身構える。ここはアースラ山脈。人が寄り付かない場所。つまりは、目の前にいるのは、古の伝承で言い伝えられている魔族。人間が嫌いで、凶暴で、魔法の扱いはもちろん、身体能力は人間を遥かに凌駕する存在で、1000年前に現れた勇者の手によって封印され、その末裔が世界にちらほらといるくらいだ。


――つまり、人間の敵……のはずだった。


美男子は、顔を上げて驚いたようにアメジストの目を丸くさせた。ショックを受けている、そんな表情だ。

「尊き御方。我らは魔王の因子を継ぐ、あなた様の魔力によって目覚めた奴隷です。貴方様に危害を加えるつもりは毛頭ございません」

臣下の礼は崩さず、弁明するように早口で、聞き取りやすい声で紡がれたそれではあるが、はいと頷くほど私も馬鹿ではない。


敵意は見られないが、警戒は崩さずに退路を見つける時間稼ぎの為に対話をする。

「……尊き御方って、なに。それと、顔をあげろとか、発言も許可したつもりもないけど」

「――ッ!も、申し訳ございません。出過ぎた真似を致しました。どうかご容赦ください」

慇懃な態度は崩れず、逆に謝られてしまう。こちらに礼を尽くしている態度だったので、傲慢な発言をしたらさすがに態度が崩れるだろうと甘い期待を抱いたが、美男子は自分の非礼を詫びて、地面に頭をぶつける勢いで頭を下げた。


何故か私が悪いことをしているように見えるし、態度を見る限り、本当に敵意はなさそう。


――距離は保ったまま、質問を続ける。


「あなたは誰。そして、ここはどこ。ここはどんな施設なの」

「――はっ、説明させて頂きます」


ここは、1000年前の大戦で勇者によって魔族が打ち果たされた際に、封印された強力な魔族たちが住まう魔王城で、この山一帯は魔族国家だった場所。魔王の力を持つ、私が魔力を持って封印の石碑に触れたことで、封印が解除されたらしい。


言い伝え通りなら、1000年前、魔族は魔王を中心に人間に悪逆の限りをつくし、剣と魔法の才能に恵まれた勇者一行が魔族討伐のために立ち上がった時の遺跡なのだろうか。


私の考えを読んでいたっぽい男は、「そのとおりでございます」と頷いた。「なんで私の考えが読める……「封印が解除された時に御方が知る記憶を参照したのと、残りは勘でございます」と答えた。――あ、そう。


そして、彼は魔王を支える臣下のひとりで、玉座の間に務め、魔王足りえるものの身の回りの世話をするのが仕事。


名はエルフ種のパイモンと言った。ソロモン72柱の悪魔の名前と同じだとふとよぎったので、好奇心で聞いてみた。

「名前の由来は?」

「生前の魔王様より名を賜りました。元々は名前をつける、という慣習がありませんでしたので」

「へぇ……他の魔族もいるの?」

「はい。この玉座の間に今いるのは私のみではございますが、御方のご慈悲により、魔王城のどこかで復活は遂げているかと。ご命令あらば、即座に呼んで参ります」

皆、御方の拝謁を賜ることは歓喜に咽ぶでしょう。とそれはもう爽やかな笑みを浮かべた。


色々とツッコミたいことは山々だが……。

「実は、シトリーとか、バアルとか……そんな名前がいたり……」

「おります。呼んでまいりましょうか」

……前魔王、絶対日本人で、ごりっごりのオタクだろうと感じた私は、それ以上の名前に関しての質問はしないでおくことにした。問題はそこではなく。


「それは……まぁ、後々ということで。というより、なんで、私が魔王なの?私は普通の人間で、普通の貴族の家庭に生まれたのだけど」

「それは……申し訳ありません。何故、御方が魔王なのかという問いにお答えできません。私たちには詳しく知る術を持たないのです。しかし、現状として、貴方様が前魔王様の覇気と全ての魔族が羨む魔力保有量と魔法、才能を保有しておりますこと。そして、この封印を解いたという事実を持って、私たちは魔王様とお呼びしている次第でございます」


飲み込めないし、納得できないところはあるが、彼の答えには敵意や打算的なものはなにも感じられなかった。あるのは崇拝と敬愛の念だけ。向けられて擽ったいが、不快なものではないので、とりあえず頷いて短剣を収めた。


ずっと立ちっぱなしなのも疲れたので、どこか座るところはないかと訊ねると、パイモンは玉座に案内した。


「いや、それ偉い人が座る場所でしょ。普通に階段に座っても……」

「御方は私たちにとって神の如き存在。であれば、この椅子は貴方様こそふさわしいでしょう」

詰め寄るように顔が近づき、謎の威圧を感じたので、話しを丸く収めるために、罪悪感を感じながら椅子に座った。すると、魔力の熱を帯びたなにかが私の身体を包んだ。


「……魔王城が貴方様を主と認めたのです。害意はございませんので、ご安心ください」

「こ、困るんだけど、いきなり主とか……」

「し、しかし……貴方様が尊き御方であるのは事実ですし……」

「わかった、わかったから。そんな今にも泣きそうな顔しないでよ。男でしょ」


感情の現し方が、女子のような、くるくるとまわる端正な表情に、ついキュンとしてしまう。これだからオタクちゃんは、と突っ込まれそうなちょろさだ。パイモンは耳をきゅんとさせて頷いた。


さて、これから、どうしたらいいのか。ただの家出探しだったのに、とんでもない事件に巻き込まれちゃったな。


……ん、待って、家出?


「ねぇ、ここって、1000年前は国だったのよね」

「左様でございます。封印は解けましたので、手入れは必要ですが、ご命令であれば整備して国を興すことも可能でございます」

「あっ、それは面倒だからいいや。この城も建物の機能として機能するし……衣食住を揃えたり、普通に暮らすことって……」

「もちろんでございます。ご命令とあらば下僕一同動員して準備させていただきます。下僕の中には植物を育てる能力に長けた者、内政に長けたものもおります」


胸に手を当てて恭しい所作で答えるパイモン。


「今からここで暮らす!っていっても迷惑とか」

「とんでもございません。御方がここで暮らして下さるのであればこれ以上にない喜びでございます。主のいない城など城にあらず、ただの瓦礫の山でございますので」

「し、下僕の魔族たちは強いとかって……」

「魔王様の足元には及びませんが、人間に遅れは取りません。魔族一同、忠誠は貴方様に捧げております」


...………建物はあるし、衣食住は完備されている、敵意はないし、自分の身を守れるくらい強くて、好意的なら……もしかしたら過去のような惨劇は繰り返されないだろう。


気持ちは決まっていた。少しだけ利用しているような引け目はあったけど。


「あ、あのぅ……数年先にはなるんだけど、今の家から家出する予定なんだけど、その時は、ここにお世話になることって……可能、でしょうか」

うう、好意に漬け込むような罪悪感だが、自分の安全には帰られない。非難されてもしょうがない、と思っていると、パイモンは期待で瞳を輝かせた。

「左様でございますか!?大歓迎でございますので、その際は簡素ではございますが、歓待の宴を執り行わせていただきます」


その答えで決めた。簡単に決め過ぎだろうとか、警戒心はどこに行ったとか、そんな細かいことはなしで。新しい土地を踏んで不安な毎日を過ごすより、好意的に接してくれる相手がいるところの方が暮らしやすいだろうし。住まわせて貰えるのであれば、私にできることなら、手伝ってもいい。私も意を決して頷いた。


「私、レティシア・スカーレット。レティシアって呼んで。ここに住まわせてくれるなら、あなたたちが言う魔王の務め、できる限りだけど、頑張るから」

「ご尊名お聞かせいただきありがとうございます。改めてようこそこの地へお越しくださいました。歓迎いたします――魔王レティシア様」


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