13.同類
まあ、一国の王妃相手に会話の主導権を得ようとした上に王子の話題になるように誘導したんだから、精神的なダメージ(主に疲労)が大きすぎんだけどさ。
完全無欠と名高い私の本領発揮ですとも。別言すれば詐欺師とも言う。そこまで実力はないけど。まあ、でもいざとなれば魔術で精神に干渉出来そうだし......あれ、私神になれる?王国乗っ取り、とか。
いやしませんけどね?リスクを冒すのは嫌いなの!
ちなみに、リターンっていってたのはあれだ。王子と今後も懇意にしてもらえるかもしれないからだ。特に第三王子のセオドア殿下。知に優れているとのことだから、神様からもらった地球の知識とかもあって趣味が合いそうだ。そして仲良くなったところで、レイルの幼少期の話を聞く!そう、セオドア殿下はレイルの幼馴染なのだ!マジ神!!
え?「レイル推し」の趣味は、だって?
そりゃ勿論——合うに決まってますよ!!
なんでかって?それはまた今度詳しく。ね?
てことで、そんなこんなで目的達成後エラ様に「そういえば貴女はどんな用件で来たのかしら?」と聞かれて内心慌てたりしつつも、王子と明日会う約束を取り付けましたとさ。頼むから今日明日は王子には城から抜け出さないでもらって。まあそこら辺は凛花姉が手を回してくれるらしいけど。一体どうやっているのでしょうね?
そういう大人の事情は聞かないに越したことはない。何故かって?それは後がすごく怖いからだ。
◇◇◇◇◇◇
今日は待ちに待った——というほど待ってない、王子達と会う日だ。だって待つっていっても昨日からのことだし。
現在はお城の侍女さんにこれでもかというほど肌を磨かれております。お城に着いて「ではこちらに」って誘拐のように個室に連れて行かれたときに聞いたら、お偉いさんに会うのだから外見を磨くのは普通のこと、とのことだ。いや、漫画とかで知ってはいたけど......いざ自分がやるとなるとだるくね?
少しご機嫌斜め気味で緊張している私ですどうも。緊張してるのは王子の命に関わることだからだ。決して同志と語り合えるからではない。
エラ様とのお茶会部屋の前まで来た。少し緊張する。リアル王子様ってレイルより王子様してんのかな?なんてふざけたこと考えてる内に、案内役の人が扉をノックする。
「リント殿を連れて参りました」
「入っていいわよ〜!」
エラ様の許可が降りると、あとはどうぞ、と言うように案内役の人が視線で私を促す。うわあああドキドキする!!
「失礼致します」
重い扉を開くと、エラ様と一人の青年、そしてキラキラ輝いている人がいた(物理)。
え?いや、は?
いやあの、オーラが、とかじゃなくて、普通に太陽とか電球とかと同類なの。
「ああ、ごめんなさいね。エイダン、その光はしまいなさい」
「申し訳ありません」
途端にすぅっと光がエイダン殿下に吸い込まれていった。コントロール出来るんですね、それ。
「ほら、立ってないでこっちにいらっしゃい」
エラ様が椅子を勧めてくる。いや、ありがたいんだけどごめんなさい今は光がすごく気になる。
でも勧められた椅子に座らないわけにもいかず、とりあえず礼を言って腰をかける。
「よし!じゃあ、まずは自己紹介をするのはどうかしら!?じゃあリントちゃんからね!」
お、おう。王子様からの印象を良くするためにも、無茶振りに精一杯答える。
「お初にお目にかかります。リントと申します。紫剣騎士団第一隊所属ですが、魔術もそれなりには出来ると自負しております」
椅子に座りながら礼を取る。
「じゃあ次はエイダンね!」
おうふ、可哀想、と言いたいところだが王子の様子を見る限り無茶振りは慣れてるっぽいね。
「初めまして、俺はエイダン・ルートナリアと申します。青剣騎士団団長を務めています。どうぞよろしく」
へぇ、団長なんだ。それも青剣の。
紫剣と青剣の違いは、活動をする場所だ。
紫剣は魔物の討伐を主に行っている。反対に青剣は警備や偉い人の護衛などがメインだ。
人と魔物で戦い方は違うものの、どちらが強いかと言えば前者が圧倒的に強いので、紫剣騎士団長が王国で最も強い者がつく座となっている。というわけだ。
「はい、最後はセオドアよ」
エラ様に促され、少しうんざりとした表情をしつつセオドア殿下は自己紹介を始める。
「セオドア・ルートナリアです。貴方は武にも知にも優秀だと聞いていますので、是非何か話せたらと思います。以後よろしくお願いします」
そう言う姿はすごく王子様らしい。まあレイルには負けたけど。レイルの方が王子様やってた。私の推しすごくね?
そうやってエラ様主催のお茶会が始まり、楽にしてありきたりな会話を楽しんでいると、不意にエイダン殿下から爆弾が投下された。
「君って神族契約者だよな」
「...神族契約者、とは?」
少し間が空いてしまったものの、とりあえず誤魔化したが......なんで分かったの!!
リズちゃんは亜空間だよ?前に
『ちなみに、もう1人の神族契約者以外の人には、私の姿は見えないよ。意図的に見えるようにすることもできるけど』
って言われたから注意してたんですけどお!?
なんて動揺を冷や汗をかきながら胸の内でやり過ごしていると、エイダン殿下がにこっと微笑む。いや怖。
「ああ、大丈夫だよとぼけなくても。俺の妖精から聞いたから。国で二人っきりの神族契約者同士仲良くしよーぜ!」
表情を見る限り嘘でもなさそうだし...はぁ。本当にバレてるのか。
何か返そうと口を開く前に、エラ様から興奮した声が上がる。
「まあ、リントちゃんって妖精と契約しているの!?すごいわね、本当!底がしれないわね!」
うわぁ、なんか嫌な方向に話が向かってるなぁ。これ以上色々バラさないでもらって。
あ、そうだ。ちょうどいいからさっきの発光について聞こうか。
「あの、先程発光したのは?」
敢えてなんとなくおずおずとした感じで尋ねてみると、いい笑顔が返ってくる。
「ああ!さっきのは俺の妖精が、この国でもう一人の契約者と会えて嬉しかったみたいでな」
いい迷惑というやつでは?まあでも、神族契約者同士ということでまた話す機会を得れそうだし......よしいっか。前向きが一番だ。楽観的とも言うが。
って本題忘れてた。魔法でGPSもどきをセオドア殿下につけたいんだよね。ただ魔法を察知されると面倒だから、薄く弱めにして......あと隠蔽の魔法もつけようか。
......うん。よし、出来た。これで見張りが楽になる。ほんとこれチートよね。
ふぅ、本題も終わったしもういいよね?よし、次はお楽しみの時間です!
「...セオドア殿下。少々、言いたいことがありまして」
目の奥を輝かせて言うと、殿下は冷たい目で私のことを見てくる。別に媚びるわけじゃないし!お前、覚えとけよ!今にもその目を変えてやるからな!
すぅっと息を肺に入れると、私はノンブレスで言い切った。
「レイルって神だと思いません?ああ恋愛感情はないですよ。劇の役者さんを好きになるのと同じ感情です。まず見た目が歩く暴力ですよね?さらさらとした銀髪に二重の鋭いヴァイオレットの瞳、バランスよく配置されたパーツは完璧なまでに整っていて直視すると目が眩しくてもう。それに少しでも誇りを持って努力する姿勢が素敵すぎて。自己犠牲の性格を直すためにも少しは休息を入れてほしいところですが、その中でも努力する姿勢がさすレイであの強い姿にすごく惹かれたんです。もし殻から抜け出したらどうなることか。世の女性の初恋を全て奪い、優しくなった微笑みで男性をも殺し、最後にあの神がかった性格でドボンですよ。確実に落ちます沼に。落ちたら抜け出すどころか溺れすぎて死にますよ本当。ってうわあああ想像しちゃった。今見たわ神を。あんなの神じゃないレイルこそ神だよ死ねるってあ待って鼻血がっ」
急いで魔法で浄化する。ふぅ、セーフ!
ちなみに周りの様子はというと。
エイダン殿下は「だよな!」と頷き、エラ様は「あらまぁ...」と口に手を当てニヤニヤし(もはや口元見なくてもわかる)、そしてセオドア殿下は。
「分かる。だよね貴方は分かる人だったんだ。それにしても貴方はすごく理解しているね最高だよ。でもねさっきの話には足りないところがある。分かる?それはレイルの幼少期のこと。あれはもうすごかったよ想像してみてレイルの幼少期を。あの顔面が幼くなって内面も丸くなるんだよ。まあとある出来事を除けばだけどね。そうそうレイルの父、公爵からレイルが生まれてそう年が経っていないときのことを魔法で映しながら教えてもらったことがあるんだけどあれはすごいよ。あれこそが殺人鬼だね。今のレイルが可愛くなった上で拙い喋り方で一生懸命話すのがどれほど可愛いことか。かっこいいから可愛いにシフトチェンジしてほんと最高だから。なんなら見る?良かったら今度貸すよ。ねぇ、貴方明日以降また会えないかな?また語ろうよ貴方ほど理解している人は初めて見た気がする。ねぇいいよね?」
私の手を握りすごい勢いで話している。ちょっと怖い。語ってるときの私はこんな表情なの......?やっぱちょっとどころかすごく怖いんだけど。
ってことで、セオドア殿下は私の同志なのであった。ちゃんちゃん。
で終わらないよ、勿論。もう少しだけお付き合いください。
ちなみにあのあと、殿下達とはまた会う約束を取り付けた。殺人の件に関してはあとは王子の動向次第かなぁ。早くて明日、長くて一月弱、待つことになる。
ということでその間に黒幕について調べたい。神様はギーヴィン侯爵と言っていたから、その辺りについて......だと大図書館に情報があるかなぁ。
あ、今は王城の廊下歩いてる。お茶会帰りで家に帰ろうと思ってたけど、やっぱやーめた。大図書館で侯爵について調べてからにしよう。
早速向かおうと廊下を進んでいくが......長い。廊下が驚くほど長くて既に足が疲れました...って、ん?なら浮けばよくね?
ってことで浮いてみた。紙数枚分くらい浮いて空気の上を歩いている状態だ。これなら脚にかかる負担が少なくて済む。
え?もっと浮いて歩かなければいい、って?
いや、それも考えたけど。王城の廊下歩いてて前方を見たら浮いてる変人がいるってちょっと怖くない?だからやめておいた。やっさしー。
「あ、リント?」
不意に後ろから声が掛かる。え、この声はさっきまで話題だった......
「レイル!!」