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9.最高の風邪

「こんにちは、リント。今日は試験について知らせることがあって来たんだ...って大丈夫?顔色悪いよ?」


え?なんでレイルがいるの?あ、試験についてか。


「だ、大丈夫です」

「うん。駄目そうだね?」

「..........はい」

笑顔で圧を掛けられて逃げられなかった....。


「それじゃあ...リントさえ良ければ家に入れてくれない?試験について人目のつくところで話すわけにもいかないしね。本来なら王城に呼ぼうと思ってたんだけれど...」

家に推しを招くのは...


「...も、勿論です!!推しの願いですもの!!こんな家で良ければ!!」

「あ、ありがとう」

オ、オシ?と気圧され困惑しているレイルを家に入れる。

もてなしも出来なければ、なんなら今にも推しの目の前で倒れそうだ。倒れたら肉体は無事でも(※神様チートなしなら死ぬ)精神的に死ねる。


「あ、あの。風邪でほんの少しだけ辛いので、お話はソファに横になりながらでもいいですか?」

と言いながら足は既にソファに向かっている。許可を取る、とは?


「...リント、だいぶ辛いんじゃない?顔が真っ青だよ。私には気を遣わないで、ソフィアではなくてベッドに寝ていて」

それに、とレイルが続ける。

「話は後でも出来るから。辛いときに訪ねてごめんね。リントさえ大丈夫なら粥でも作るよ?」


「いやいやいや!推しに労働をさせるなんてとんでもない!!」

てか気を遣うなとかどんな無理ゲーよ!!

「ということは、私への気遣いさえ抜けばリントはいいってことだね?分かった、あとで台所を借りるね」


うわあああ答え方ミスった!!推しにこんなことをさせるなんて神様ごめんなさ...って神様ってあいつじゃん。うーむ、いつもその場の勢いで神様とか言ってたけど...実際に神様がどんな人か知っちゃうとやりにくいなぁ。


思考を変な方向へ飛ばしているうちに、レイルが私を横抱きにしてベッドに運んでいく。二回目の、オヒメサマダッコ......ヒュッ。


レイルがベッドに寝かせてくれる。

「すみませんすみません本当に!!顔が上げらんない...」

「んー、目は合わせてくれると嬉しいかな?」

レイルの戸惑った声が正面から聞こえる。

今、私はベッドの上で土下座をしています。


ちなみに、この世界に土下座の概念はないらしい。あと地面(布団)に頭をつけて謝る文化もないとか。

以上のことから、いつも顔だけは笑っているようなあのレイルが、物凄く困っているのが伝わってきました。ごめんって。


顔を上げるなり布団に潜り込む。それでも寒い...。

「じゃあ、私は台所に行ってくるね」

レイルが動いてから暫くして、パタンと部屋のドアが閉まった音がした。


それを聞いて急いで声を上げる。

「ちょ、ちょっとリズちゃんグレイ!!久しぶりで悪いんだけど、レイルを影でサポートしてくれない!?快適に過ごせるようにレイル周りの気温調節とか、散らかってるとこを片したりとか!!」

「い〜よ〜!!」

「勿論だ」

呼ぶと、すっと何処からともなく二人(内一匹)が現れる。


「ありがとう!!お礼にお菓子作ってあげるね!!落ち着いたらお茶しながら話そう!!」

「言ったね!?待ってるから!!」

「言質は取ったぞ」

そんなにお茶したいのか...?

(※神族をメイドのように使う図)


てか皆出て行って静かになったせいで眠気が...。や、ば...推しがいる、の...に。今更だけ、ど、女だってバレないよ...うにしない、と。

それにやらないといけないこと、も......。







「あ、リン?」

は?なんでリンって呼ばれてるの?私こっちではリントって名乗って——

「おーい!早く目開けてー!」

「あ?」

「ちょ、怖いよ!?」

目が無意識に開く。ん。目の前には男が...

「って怖!!ホラーじゃん!!」

驚いて体を一気に起こす。


「あちょっと待っ、って痛ったああ!!」

ごん、と額に固いものが当たった。少しひりひりする。

「はぁ。で神様、何してんですか?」

「何って、貴女が急に起き上がるから、おでこがぶつかったんでしょ!!」

「おっと。寝起き直後の言動といい行動といい、悪かったですね、失礼」

「......。貴女の方がホラーだよ」


神様が額を手で抑えながら、怒り半分呆れ半分のように言う。

「で、私はなんでここに?」

「貴女が寝ている間に来たんじゃないの?」

「ああ」

確かに眠りに落ちる直前、やらなければいけない(スキルについての確認)ことを思い浮かべていた気が...

「それがここに来たいと願ったっていう扱いになったのか」


「今日はなんの用件でここに来たの?」

改まって神様が聞いてくる。てか、まだ額抑えてるし...って睨まないで睨まないで。そんなに痛かったの?ごめんって...。


「神様にスキル?について確認をしたくて」

実際スキルなのか加護なのかわからないが、ひとまず経緯について神様に説明していく。

なんで全く敵わなかったレイルに、いきなり剣を当てることができたのか、それはステータスのその他欄にある『加護スキル』では、など。


「ああ、リンの言う通り、それは私の加護スキルの効果だね」

そんなあっさりと。

「スキルの発動内容・条件は?」

「リンが相手に勝てなそう、もしくは勝てても自分(味方や物含め)にかなりの被害が出そうだと自覚したとき、だんだん身体能力が上がる」

んん...?それは...


「曖昧すぎやしませんかね?」

「じゃあ、具体的にさっき言ったやつの範囲を決める?でもそうしたら、ギリギリその範囲に入らなかったときに大損害じゃない?曖昧な方がやりやすいと思うけど?」

こいつ、すっかりタメ口が外れてやがる。私に後ろめたさがあったんじゃないのかよ。


「...分かりました。その上で聞きたいことが」

「なに〜?」

幼なげな口調で尋ねてくる。それを聞いて少しイラッとした私は悪くないはず。

「『自覚』とありますが、これは少なめの被害の場合でもかなりの被害が出ると無理矢理強く思い込めば、加護は発動するんですか?」

「うん、するよ」


それって危なくないか?いつか無意識にそう思い込むようになってしまったらまずい気がする。危険な場では適切な判断をしなければならないのに、それが出来なくなるのは怖い。


「...あの。発動基準を変えることって出来ます?」

「うん勿論」

意外とすんなりと通った。私が言うものなんだが、こんなに自由でいいものなのか...?


「じゃあ...体力が、1000を下回ったらでお願いします」

「それでいいの?それまでは絶対スキルは使えないんだよ?」

「はい。そんなチートをホイホイ使うのも嫌ですしね。それに基本は自力で強くなりたいです」

もう手遅れな気もするが...ま、まだいけるはず...。


「おっけい!じゃ、そろそろ帰りなさい。レイルだっけ?なんかキラキラしてる男が貴女をそばで待ってるよ」

「え!マジ!?」

「まじまじ」


これ以上見苦しい姿を推しの視界に入れるわけにはいかない!!

「帰ります!さっさと帰らせてえー!!」

「はいはい、もうすぐだよ...っと。じゃあね〜!!」







「——...は?...ント?」

ん?なんか声が、聞こ...える...?

え、声?私の家で人の声喋る人はグレイがレイルくらいしか...ってレイル!?


目を開けるより先に、がばっと体を起こす。急に起こしたせいかそれとも視界が眩しいせいか、少し目眩がしてもう一度倒れる。

「あ、リント。ごめんなさい、起こしてしまったね」

声の方へ視線を向けると、レイルがベッドのそばの椅子に座っている。苦笑混じりの表情だ。


「いえ!!こちらこそ寝てしまい申し訳ないです!!」

「ふふ、休んでって言ったのは私だよ。それに、リントが寝ている間に粥が出来たよ。口に合うといいんだけど」

そう言いながら、レイルがスプーンに取った粥を私の口の前にやってくる。


なんか既視感が...って、あ!!これ漫画の構図と同じだ!!ヒロインちゃんが風邪引いたときの世話!!


俗にいう「あーん」ってやつでは...?それをヒロインちゃんではなく、私に...?

いや怖い怖い!!辞めて!私なんかじゃなくてせめて友人にやったげて!

「はい。口開けてー」


そんな私の叫びも虚しく、レイルがスプーンを私の口にちょこんとつける。うぅ、そこまでいったら食べるしかないじゃん。

ぱくっ。うぅぅ、味しねえよ!推しに食べさせられて正気でいられるやつがいるわけな——


「はいリント、次」

ぺ、ペース、ペースが早いこと!!待って待って、このままだと推しを拝むどころか、こっちが死んで手を合わせられる側になる!


「ん」

...いやいや、まだ死にませんよ〜。推しを観察しないといけませんからね。


「リント、どうかした?」

考え事をしていた私を見てか、レイルに小首を傾げて見つめられる。待って!!それは死ぬっ!!!!かっこ可愛い!!!!


一気に体が火照るのを感じる。このままだと鼻血まで出そうだ。冷静に、冷静に...ふぅ。まずレイルから顔を背けるところから始める。

「そっちは何もないよ?」

知ってます知ってますとも。落ち着くために壁の小さな凹凸を眺めているんです。


「リント、こっち向いて?」

お、推しの願い事だと!?!?それはッ...!!

叶えるしかないよね〜!!


視界の端にレイルがギリギリ映るくらいまで、顔を向ける。

「具合は...さっきより悪くなったりはしていなさそうだね」

額に手を当てられ顔をまじまじと見つめられる。レイルのせいでぶり返しそうだ。


「そうだ、リントが粥を食べている間に試験について説明するね」


レイルの話はこうだ。

試験の結果から言うと、私は新人騎士が行く隊ではなく、第一隊に所属することになった。理由は普通に成績優秀だから。

礼法はともかく...他の三つの試験はどれも合格値を大きく上回っていた。

そこで新人を鍛え、慣れさせるための隊ではなく、特例で第一隊所属が決まった。


だがそんな特例は史上初だし、今後も今回のようなことがあるかもしれないから、お試しとして同じ隊の先輩騎士が教育係としてつけられることになった。


そこで私に、新人騎士の隊を飛ばしての第一隊所属についての感想や意見を聞きたいとのこと。

「特例」を「一般的な流れ」として使えるよう、上層部が出来るだけ早くお試しをしたいらしい。


だから今日はそれを知らせると共に、出来ることなら早速お試しを私にやってもらおうとしていたようだが...


「私は風邪引いてますからね...」

「そうだよね。では治り次第、王城に来れるかな?」

「はい。試験結果を聞くはずまでの三日間、暇だなと思っていたので」

するとしてもイベント阻止のために町を見回るくらいだ。


「分かった。陛下には伝えておこう」

「はい、お願いしま...は?ヘイカ?」

「うん」

「ヘイカって陛下?」

「うんそうだよ」

「...なんでそんな上まで話が行ってんの!?」

「ふふ、なんて言ったって特例だからね」


やだあああ!!!!私はこの世界で目立とうとは思ってなかったのに!!推しが見れる平和な生活を求めてただけ!!


「......はぁ。まあ過去のことはどうでもいいか」

切り替えが早いで定評のある、凛です。

「うん、それがいいよ」

とは言ってるけど、レイルも庇ってくれたって良かったじゃん!!!!


「王城に来たときは、正門の騎士にリントって名乗ってね」

「了解です」

またレイルの話にごまかされ流された気がするが...推しの顔がひたすらにいいので良しとしよう。





◇◇◇◇◇◇


「ふう!!」

昨日の不調はなくなった!!風邪は治った!!王城に殴り込みに行くぞ!(違う)

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