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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

さがしものはなんですか?

作者: あぶらみん

「私は神です」


  凜然とした声で少女は唐突にそう告げた。

  特別、大きな声ではなかった。でも、なぜだか彼女の言葉は自然と意識の真ん中に入ってきた。まるでモノクロの世界で彼女ひとりだけに色がついているような、 彼女だけが平面の世界からくっきりと浮かび上がっている。圧倒的な存在感だった。

 だから、彼女の言葉を無視するなんてことは出来るわけがなかった。


「今から、皆さんには少しだけ殺し合いをしてもらいます」


  次の瞬間、視界の端で赤い花が咲いた。

  ゆっくりと目だけを動かして隣を見やる。

  屈強な男が座っていたはずその場所には、トマトを潰したような赤いシミが残っているだけだった。

 それだけ確認して再び目線を前へと戻すと、いつの間にか眼前にひとりの男が座っていた。


「ひねり潰してやったのさ。この世に残ったのはその間抜けな地面のシミだけだ」


  男は下卑た声でそう言ってゲラゲラと笑った。

  痩身痩躯の青白い肌をした見るからに不健康そうな男で、目だけはナイフのように鋭くぎらついていた。薄皮の下から下劣な品性が滲み出ていて、男自身もそれを隠そうともせず周囲に発散している。相手を威圧し、脅し、屈服させる。そういう苛烈で野蛮な世界での生き方が身体に染み付いている生粋の捕食者。そんな男だった。


  下卑た笑みを浮かべる男から視線を外して周囲の様子を確認する。

 そこは地獄と呼ぶにも生ぬるいほどの惨状だった。


  集められた能力者は一切の躊躇なく能力を使い、殺しあっていた。

  目の前の男のような、好戦的な者が殺し合いを増長しているのだ。


「はぁ……」


  面倒な状況になり思わず深いため息を吐いてしまう。なんと愚かな連中なのだろう。


「けけけ。周りの心配とはずいぶんと余裕じゃねえか。てめえは自分のことだけ考えていた方がいいぜぇ……」


  顔をしかめたくなるほどの醜悪な笑みを浮かべて男が言う。


「てめえは今から俺に殺されるんだからよおおおおおお!」


  衣が裂けるような甲高い雄叫びを上げて男が飛びかかってきた。


「ひょおおぉっ!!」


  男が宙で、空間を引き裂くように爪を立てて腕を振り下ろした。

  俺はコマ送りのように流れるその一連の動作をぼんやりと眺めてから、半歩だけ身体をずらした。その刹那、俺が先程まで立っていた場所に爆撃のような衝撃が起こり、地面が大きく抉れてクレーターにかわった。

 吹き飛んだ地面が礫となって飛んでくる。痛くはない。だが服が泥で汚れてしまうのが不快だった。


「なにぃっ……?」


  男が驚愕に顔を染める。


「てめえ……何をした?!」


  横に動いてだ避けただけだと言うのに、こいつは何故こうも驚いているんだろうか。あまりのバカバカしい質問に応える気にもなれず、つい欠伸をしてしまう。


  口元を覆うように右手をあげたところで、腕に巻かれている包帯に綻びが出ていることに気づいた。完全には避けきれていなかったようだ。


「……あーあ」


  俺は怒りとも諦めともつかぬ言葉を漏らす。本当に面倒なことになった。

  少しばかりの敵意を込めて、目の前で口汚い言葉を浴びせかけてくる男を一瞥する。


「なんだぁ……ガキが一丁前にやる気かよ?てめえはここでゴミのように死んじまうんだぜぇ。そんで誰からも忘れられちまうんだ」


  男の言葉にわずかな苛立ちを覚えた。言葉そのものが臭気を放っていると思えるほど、その男の声は臭く不快だった。


「黙れ」


  短くそれだけを告げると、男は金縛りにあったようにぴしりと動きを止めた。必死に抵抗しようともがいているようだが、もう何も出来はしない。

 まるで死にひんしたところをアリにたかられ必死にもがく、哀れな虫けらのようだった。

  冷めた目で男を見据えながら、隙間なく巻き付けられた腕の呪具を外していく。


「後悔しても遅いぞ。俺も巻き方を知らないからな」


  呪具によって抑え込まれていた膨大な力が右腕から炎のように吹き上がり、その力の奔流が巨大な龍の姿を成していく。


「名もなき神滅の巨龍……code:シーカー」


  俺の中に封じ込まれた古の巨龍。自分の名前すら忘れてしまった哀れな御伽噺の怪物。失ってしまった探しものを求めて数多の災厄を振りまいてきた破壊の化身が顕現する。


「殺す」


  俺の意思に応じるように右腕が唸りを上げる。

 嵐のような力の激流に指向性を持たせ、極大の光帯としてそれを放った。

  周囲は一瞬にして激光に満たされ、一切合切を無に帰してゆく。


  光が晴れた時、視界には自称神以外は何も残っていなかった。

  その神とやらも身体の半分が消し飛びもはや死に体だ。


「何か言い残すことはあるか?」


  倒れた少女を見下ろしながら聞くと、少女は意外にも微笑みを返してきた。


「あなたたちの探し物がいつか見つかりますように」


  きっと彼女も何かを探していたのだ。なぜかそう思った。


「……きみの探し物も、いつか見つかりますように」


  俺は祈るように拳を振りおろした。

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