表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/23

無事、山の麓の町に着きました

 弟子生活にも少し慣れてきた頃。私は食料品や生活用品の在庫の数をチェックしていた。


「そろそろ塩がなくなりそうですね。小麦と……あ、そういえば私の服ももう少しほしい、かな。あと、髪ゴムと、タオルも……」


 必要最低限の服しか持ってきてない私。ここはニアしか住んでいなかったため、女性に必要なものは当然ない。


「なら、麓の町で買うか?」

「ひゃっ!?」


 背後からいきなり声をかけられて肩が跳ねる。振り返るとニアが。しかも、ニヤリと口角をあげて。


「悪い。驚かすつもりはなかったんだが」

「……絶対、驚かすつもりで声をかけましたよね?」


 私の問いに無言の笑顔。やっぱり驚かすつもりだったんだ。最近はこんな感じで遊ばれることが増えている気がする。


 私はむぅ、と唸りながら話を進めた。


「買い物に行ってもいいのですか?」

「必要品もあるし、買い出しに行くのもいいだろう」

「自分で?」

「自分以外に誰が行くんだ?」


 ニアが不思議そうに首を傾げる。一方の私は……


「自分で買い物に行ってもいいのですか!?」


 気がつけばニアに迫っていた。

 だって、自分で店に買い物へ行ったことなんてなかったから。必要なものは屋敷にそろっていたし、装飾品などは商人が屋敷に商品を持って売りに来ていた。


「そりゃあ、買い物ぐらい行ってもいいぞ」

「ありがとうございます!」


 私は両手を胸の前で合わせて喜んだ。キラキラと妄想を広げる私に、ニアの申し訳なさそうに声をかける。


「田舎の山の麓町だからな。目新しいどころか、普通の商品さえもない時があるぞ」

「……自分で買い物ができる」

「聞いてねぇな」


 なんか、いろいろ心配だから、とニアも買い物に一緒に行くことになった。

 私一人でも大丈夫なのに。いや、むしろ弟子なのだから、師匠の手をわずらわすわけにはいかない。そう考えていると。


「……おまえ、塩を担いで、この山を登れるのか?」

「ご同行願います」


 私は素直に頭をさげた。



 麓の町は中心地に神殿と、その周りに複数の商店と飲食店、そして民家がある程度だった。町を分断するように立派な大通りが一本。それを挟んで店が並ぶ。


「昔は岩塩や魔石が採れて賑わっていたらしい。今は採掘場付近が竜族との不可侵の中立地帯になって、こんな感じだ」

「なぜ、不可侵の中立地帯に?」

「利権をかけて争っていたが戦争になりかけてな。だが、人族からしたら、ここは地形的に戦争をするのは不利。竜族は数が少ないから、戦争で数を減らしたくない。そもそも、戦争をしてこの土地を手に入れても、それを補うほどの岩塩と魔石が採れそうにない」

「つまり、戦争をしても採算が取れない。それなら、お互いに不可侵の中立地帯にして争いを回避したほうがマシ、となったのですね」


 納得した私にニアが頷く。


「そういうことだ。理解が早いと説明も楽だな」

「あの、一つ聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「ニアは人のことを人族と言いますが、この辺りの方言ですか?」


 ニアが言葉をつまらす。


「あー、それはだなぁ……」


 素早く視線を巡らせたニアは一軒の店を指さした。


「あそこ! あの店は雑貨屋だから必要な物があるんじゃないか? 服も売っているぞ」


 屋敷を追い出された時は、ニアのガラス工房を目指すのに必死で、店を見る余裕なんてなかった。

 私は小さな疑問はすぐに忘れ、目的の店へ走り出す。


「こういうところは単純で助かった」


 なぜか後ろでホッとしているニアを置いて、私は店に飛びこんだ。


「いらっしゃい」

「ふぁあぁぁ……」


 本で読んだ通りの言葉に出迎えられ、私は感動した。四十代ぐらいであろう女店主が私に笑顔を向ける。


「おや、初めて見る美人さんだね。あぁ、色男の連れかい」

「色男はやめろ」

「まったく。町の娘に見向きもしないと思ったら、とんだ面食いだ」

「違う」


 ニアが会話するごとに不機嫌顔がひどくなる。そんなことより私は棚に並ぶ商品に釘付けになった。


「なんて可愛らしいコップ……あぁ、こっちのお皿も。あ、これもいいですね」


 感激している私を遠くから冷めた視線が飛んでくる。女店主がヒソヒソとニアに話しかけた。


「あれ、ただの木でできた、どこにでもあるコップだよ。皿も木でできた普通の皿だし」

「あぁ……都会育ちで木でできた食器を見たことないんだろ」

「いや、いくら都会だからって、そんなことないだろ。どこぞのお貴族様のお嬢様じゃない限り」


 ニアが苦笑いをする。


「まあ、お貴族様ってことはないね。美人だけど服はウチらと同じだし、手は荒れてるし。あれは働き者の手だね。大事にしてやんなよ」

「いや。だから、そういう関係では……そうだ。欲しい物があるんだが」

「おや、珍しいね。なんだい?」


 ニアが女店主と話している間に私は目的の物を見つけた。両手に抱えて二人のもとへ行く。


「それで全部か? 服は?」

「持ちきれないので、今日はこれで」


 女店主がニアの背中を叩く。


「なに言ってるんだい。荷物持ちなら、ここにいるだろ。もっと買いな」

「え、でも……」

「服ならこっちにカワイイのがあるよ。ほら、試着だけでもしてごらん」


 私は女店主にひっぱられ服コーナーへ。そこであれやこれやと見繕ってもらい……


「ほら、いい感じだろ」


 着せ替え人形となって、いろんな服を試着していた。服を着替えるたびに女店主がニアに意見を求める。しかし、ニアは「あぁ」「うん」と頷くのみ。


 そうですよね。他人の服なんて興味ないですよね。師匠を退屈させるなんて、弟子失格! 早く終わらせないと。


 私は動きやすさと、通気性と保温性に重点をおいて服を選んだ。その結果。


「ちょっと、もう少し可愛らしい服を選びなよ」


 女店主からダメ出しをもらった。


「でも……」

「ほら、あんたも黙って立っていないで。ちゃんと選んであげなよ」


 話を振られたニアの目が丸くなる。私は慌てて止めた。


「い、いいんです! これ以上、ニアの手を煩わせるわけには……」

「オレが選んでもいいのか?」


 予想外の言葉に私は固まる。女店主が笑顔でニアの背中を押した。


「いいよ、いいよ。選んであげな!」

「なら……」


 ニアが服コーナーに消える。ドキドキしている私に女店主が声をかけてきた。


「色男が彼氏だと、いろいろ大変だろ」

「か、彼氏!? わ、私はニアに弟子入りしているだけで、そういうのではないんです!」


 大慌てで否定した私に女店主がキョトンとした顔になる。


「弟子入りって……なんの?」

「ガラス職人の弟子です」

「え? あのガラスの!? コップを作ったら水が漏れる、花瓶を作ったら花が入らない、ような物しか作れない色男の弟子!?」

「はい!」


 女店主がさとすように私の肩を叩く。


「男は顔だけで選んだらダメだからね」

「私はニアの作品に一目惚れして弟子入りしました」

「奇特な子だねぇ」


 あれ? なんか憐れむような目で見られているような。


「辛くなったら、いつでもこの店においで」

「は、はい。ありがとうございま、す?」


 話の流れがよく分からないから、とりあえず感謝しておく。そこに、服を手にしたニアが戻ってきた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ