砂上に広がる蜃気楼 ~それぞれが思うココロ(1)~
「み、ミレディさんをご存知なのですか?!」
「ま、待て?なぜミレディの事を君達が知っている?」
「え、えっと・・・もしかして、ザラートが前に言っていた人ってミレディ・・・さん?」
俺達3人を繋ぐ不思議な縁
俺達は互いを繋ぐ、この出来事を境にまた次の話へと進む事となったのである
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【シエル ミーティングブース】
それぞれがお互いに発言の重みを感じていた
・・・それは、過去に護り切れなかった想い人を
・・・それは、挫けそうになったココロを、窮地を救ってくれた人を
・・・それは、途切れかけた命を繋いでくれた人を
3名はそれぞれの思いを、それぞれに伝えていく
「ミレディは、昔共に戦った仲間、そして守ることが出来なかった仲間・・・」
俺は昔従事したある要人救出の作戦を2人に話した
忘れもしない、あの作戦・・・
そう、まだ俺も半人前、自分の身を守る事で精いっぱいだった
オリバーの妹でもあったミレディを、俺は守ることが出来なかった
そして俺は、ミレディに生かされている、そう思っている
あの時、俺を助けるために命を懸けた彼女
・・・2度とあのような気持ちにならないためにも
俺はこの事を、特にミレディがファナンと瓜二つだった事は伏せていた
彼女に過去の出来事を重ねたくは無かった
・・・いや、違う。俺はただ、現実から「逃げていた」だけなのかもしれない
俺は改めて、己の心の弱さを痛感していた
「ミレディさんは、私を一度は捕まえたけど、それでも助けてくれた、不思議な人・・・」
ファナンもまた、彼女と出会った経緯を話してくれた
それはアクアスで起きたファナンの拉致、そして救出に至る作戦で起きた
ファナンは一瞬の隙を突かれ、帝国に拉致されてしまった
部隊を率いる指揮官、連合の動向を探るために尋問される、その瞬間、彼女は助けられた
その助けた相手は、自身を攫った、ミレディだった
攫った事を謝罪され、そして脱出の手助けまでしてもらったこと
俺達と無事合流し、その後はファナンの心身のダメージを考えそれ以上はその時に聞かなかった
聞かれなかったから、言わなかった
それは皆が自分を思っての事、と都合よく判断した私の心の弱さ、甘えだったと・・・
「私もミレディさんが居なければ・・・」
エレオノールもまた、彼女との経緯を話してくれた
10年前
ザディアス星における一つの戦闘で、彼女の居た居住エリアは帝国によって搾取されていた
周りの住民は散り散りとなり、彼女もまた両親から切り離されてしまった
一人で生きていくには彼女は幼過ぎた
周りに居た、彼女と同じくらいの年の子供たちは一人、また一人と力尽きていった
自分より年が上の者も、一人、また一人と連れていかれ
それっきり、戻ってくる事は無かった
そのような過酷極まりない環境が一変したのは、数年が経過したある時だった
口に出すのも憚られるような、この劣悪な環境下でも、彼女は強く生きてきた
しかし、現実は非道であった
そんな彼女に仕向けられた運命は、共に過ごして居た彼女たちと"同じ"ものだった
「出ろ、そうだお前だ!」
エレオノールは数年ぶりにこの牢から出される事となった
彼女の心はこの生活の中で希望という希望を失っており、それは生気の無い、輝きの無い瞳からすぐに判断できた
「ったく、コイツも使いものにならないな」
「まったくだ。まぁ、俺達のタメにはなるだろうけど、な」
「だな。どうせ"例の機関"に預けても改造されるだけだし、その前に俺達が多少頂いてもバレないさ」
エレオノールを囲む3人の男は揃って下種な笑みを浮かべる
それは、彼女を「モノ」としか見ず、自分たちの欲求をぶつけるだけしか考えていない
(ああ、やっぱり私は・・・)
エレオノールもまた、抵抗する事も、考える事も諦めていた
そんな時、突然部屋に一陣の風が吹き込む
「ん、なんだ・・・?」
男の一人がふとその風の吹き込んだ方向に振り向く
その瞬間、その男の首が静かに床に落ちる
「なっ・・・?!」
もう一人が声を上げるが、我が身に何が起こったかも理解できず、先ほどと同様、首が静かに胴体から離れる
「くそっ?!一体何が、どうなってる・・・!」
もう一人は咄嗟に腰からナイフを引き抜き、構える
そして男は、奥から静かに、こちらに歩み寄る一人の人物を認める
「お、お前は・・・」
男には見覚えがあった
そうだ、こいつは確か、"例の機関"に所属している、そう、特殊部隊の一員・・・
「なぜ、なぜ味方である我々に攻撃する?!」
「・・・ソレハ、自身ノ心ニ尋ネルンダナ」
「・・・くそっ!!」
男は捨て身で斬りかかる、その気勢が届いたのか、奴の外蓑を切り裂く
(女・・・だと?!)
斜めに切り裂いた外套から覗く艶めかしい胸元から目線を外す
が、おかしい。目線を上げたはずなのに、右に少しずつ下がって行っている
(な、なんだ・・・?)
「・・・モウ終ワッテイル」
男は自身の視線が斜めにずれていく事に気づき、声にならない悲鳴を上げ、顔を抑えるが
ずれていく視界を止める事はできなかった
目の前で3名の命が刈り取られたにも関わらず、エレオノールは声を上げることが出来なかった
・・・いや、上げ方すら判らなくなっていたのだった
「大丈夫カ?」
フルフェイスのマスク越しに聞こえる声は機械質だった
コクンと小さく頷くだけだったが、彼女にその気持ちは伝わっているようだ
「コッチダ、行クゾ」
エレオノールは差し出された彼女の手を掴み、必死についていく
ついていけば、どうにかなる・・・
半ば諦めの心境ではあったが、彼女についていくと決め、必死に着いていった
そして、建物から外に出た時、彼女の前には一人の男性が居た
「遅かったな・・・。ふむ、どうやら報告に上がっていた以上に内部は酷かったようだな」
彼は、私達の姿を確認して言った
「ハイ・・・危害ガ及ブ恐レガ有ッタノデ実力行使ニ至リマシタ」
「まぁ、やむを得ないな。これはしかるべきルートで処理しよう。と、もうここまで来れば安心だ」
そう言って彼は私の頭を撫でる
「紹介が遅れたね。私の名はドルーア。彼女はミレディだ」
紹介を受けた彼女、フルフェイスのマスクを外し、そして
「ミレディだ。よろしくね、嬢ちゃん」
それから、ミレディとドルーアと名乗った男性の保護下、私は療養を受け、素性を隠して特務機関に配属される事になりました
・・・幾分マシとはいえ、特務機関もそれなりに劣悪な環境でしたが
当然、彼等はこの先にこのような事になっているとは知らなかったのだ
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・・
・・・
「この後、特務機関から有志達と一緒に脱走、そしてここで保護されました」
「そうだったんですね・・・そっか、ミレディさん。帝国軍に居るけど、自分の信念で動いてるんだね」
「・・・アイツらしいな。でも聞いている限り、敵が多そうだな」
それぞれの話に、言葉に、俺達はそれぞれ頷く
「私も詳しくは知りませんが、ミレディさんの所属している部隊は『レインブラッド』と呼ばれる部隊です」
「レインブラッド・・・、俺達ような独立部隊なのか?」
「はい。主に敵地奥深くでの破壊工作、反乱因子の速やかな制圧が任務、のようです」
「もう一人、ドルーアというのは」
「はい。ドルーアさんは帝国宇宙艦隊、第三艦隊の指揮官です。帝国では珍しいタイプの方ともっぱらの評判です。詳しくは済みません、私も判りません・・・」
「そうか、色々とありがとう」
「いえ。それより、皆さんがミレディさんに対してどのようなお気持ちだったのか・・・共有できたのは大きい事、ですね」
「そう、だな・・・」
「それに・・・ほんと似ていらっしゃいます」
「うん。私もミレディさんを始めて見た時に驚いた・・・ここまでそっくりな方が居るんだって」
・・・俺達はミレディの事を共有し、そして互いの気持ちを確認した
『出来る事なら彼女を連合側に戻す』
互いの気持ちは整ったのだった
打ち合わせ直後、ファナンに呼び止められる
「ザラート、ちょっといいかな?」
「どうした?」
「うん・・・。この後、ザラートの部屋に寄らせてもらっていい・・・かな?」
「ああ、構わないぞ?」
「ありがとう」
「ここで話をするのは駄目なのか?」
そう聞くと、ファナンは軽く頷き
「うん・・・ここではちょっと、ね。ごめんね」
「・・・わかった。夜は時間が空いている、その時に来てくれればいい」
「ありがとう、じゃあ、また後でね」
引き続いてミーヴィとエイミー、そしてエマとエレオノールから今回襲撃を受けた件について検討を行う事となった




