#解放される想い ~運命を拓く者達~
ザディアスでの先行調査の任務を終え、後続の研究チームならびに第9、10軍への引継ぎが完了
俺達はザディアスを後にした
この後、俺達は本星へ戻り、今後の作戦について総司令部に赴く予定
合わせて、鹵獲した人型兵器ならびに新兵器の打ち合わせに参加する予定だ
俺が不在の間は、アエル達がそれぞれの任務にあたることになっている
・・・と言っても、部隊の訓練であったり、軍のちょっとした雑用のようなものだが
本星への帰路は大きな問題もなく、無事帰還することが出来た
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【連合軍総司令部・大会議室】
会議室に揃ったメンバーは錚々たる者だった
1から12の各隊大隊長
そしてそれをまとめるネフェル少将
宇宙軍をまとめるアーネスト提督
そして兵器局のゼル局長
最後に、最高司令官であるエイブラムス大統領だ
「それでは、これより参謀会議を始めたいと思います。はじめに最高司令官であるエイブラムス大統領よりお言葉を頂きます」
大統領補佐の司会進行で会議は始まる
「皆、楽にしてくれ
・・・堅苦しい挨拶は抜きに行こうと思う。皆も知っての通り、我が連合軍は未曽有の危機に瀕している
先のエルメディア宙域会戦では我が宇宙軍は敗退し、制宙権は帝国に掌握されてしまった」
アーネスト提督は心底申し訳ない、といった沈痛な表情で俯いている
「現状、資源にも乏しい我が方の戦況は正直言って、悪いと言わざるを得ない。だが、
敵勢力に与するアクアスの奪取、ならびに遺棄されていた惑星ザディアスにおいて発見した、新たな技術に活路が開けたかもしれない」
おお・・・と周りから声が上がる
「そして、兵器局ならびに国内の軍需製造部の努力により、失われていた戦力を少しずつではあるが取り戻すことが出来ている
・・・これを機に我々は、エルメディア宙域会戦にて反攻に出ようと考えている」
補佐が各員に資料を提示する
「作戦要綱はこうだ。現在建造中の航宙巡洋艦を含めた我が艦隊は、エルメディア宙域に展開する敵艦隊に対し奇襲をかけ、これを殲滅する
敵艦隊は現状、突出した宙域に居るため、補給となれば相当の時間、戦列から離れると見込まれる
そのタイミングを狙い、別動隊で惑星エルメディアを奪取、これを前線補給基地とし、絶対防衛線の拡張を図る!」
新規製造される巡洋艦の戦力次第となるだろうが、劣勢な今、巻き返すには攻勢に出るしかない
・・・悪くはないと思う
「大統領、質問してもいいだろうか?」
アーネスト提督が挙手し声を上げる
「アーネスト提督、どうぞ」
「今回の航宙戦・・・戦力はいかほどだろうか。前回の二の轍は踏まないようにしたい、と考えるが」
「よろしい。ゼル、説明を頼む」
「はっ」
兵器局のゼル局長が大統領に代わって説明するようだ
「目下、建造中の航宙巡洋艦は10隻。最後の一隻は間もなく艦隊に編入される予定です」
巡洋艦の諸元は、手元に配られた資料にはこうあった
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名称(艦級):ブルーシャーク級航宙巡洋艦
全長:198メートル
全幅:30メートル
全高:38メートル
基準排水量:25,500t(着水時)
乗員:70名
輸送人員:0名
主機:核融合ジェネレーター1基
補機:恒星エネルギー変換装置1基
兵装:主砲12.7センチ3連装速射砲3基
ミサイルカタパルト12基
対空パルスレーザー砲8基
艦載:搭載不可
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「装備に若干の不安があるようだが、大丈夫か?」
「はい、大統領。急ぎ設計された戦時制定艦ですが、旧来の航宙戦艦並みの防御力を保持しています」
ちらり、とゼル局長はこちらに向き、そして
「設計には、独立部隊の<シエル><アウルム>に採用されている複合装甲を採用しております。戦艦とやり合う防御力は備えていると保証しましょう」
おおお、と各々の声が響く
「皆の者、聞いての通りだ。アーネスト提督、どうか?これなら、帝国艦隊とやり合えそうか?」
「はい。それであれば帝国艦隊に遅れは取りません」
大統領とゼル局長は頷く
・・・正直なところ、帝国軍の航宙戦力は相当なものと考えている
旧型の宇宙戦艦が主であるとのことだが、数で押されると正直なところ厳しいのではないか
単純に数を比べただけだと
連合:(アーネスト提督隷下の艦艇)戦艦1、巡洋艦12、駆逐艦4
帝国:戦艦10、巡洋艦48、駆逐艦64
数の不利はどうしようもないだろう
「続けて、当宙域の戦闘に平行して行われる「エルメディア星」への強襲作戦についてです。ネフェル少将、お願いします」
「はい。では皆様に配布している資料を確認いただきたい。本作戦には我ら連合の歩兵・装甲機動連隊、第1から第12、すべての部隊の全力投入を計画しています」
手元の資料を確認すると、エルメディアの首都エルスルト、その周辺都市に部隊が強襲降下
それぞれの都市を確保後、首都に向け突入という手筈になっている
「敵の熾烈な反撃が予想されますが、これに対し我が1~6部隊は装甲戦力をもって、これを撃破。後続の7~12隊で突破口を広げつつ、首都を陥落させる計画です」
「少将、補給についてはどうか?」
「はい、大統領。我々の作戦に必要な物資については、各隊それぞれ十分な量を配備しております。
惑星攻略の期日には十分間に合うよう計画しております」
「作戦の予定期日はいかほどか?」
「はい、先の第一次エルメディア、ならびにプロキアでの戦闘レポートから、おおよそ1ヵ月を見込んでおります」
「万が一、それまでに決着がつかなかった場合のプランはあるだろうか?」
「はい、万が一に備え、予備戦力を配備しております」
「・・・よろしい」
「他に意見が無いようであれば、本作戦の詳細について各項目、説明します。では・・・」
会議は作戦の細部についての説明に移り、各員から反対意見は上がらず、作戦は承認された
作戦名は「コロネット」
エルスルトを囲む包囲網が、ちょうど馬の蹄に見えることから命名された
作戦開始はこの会議からちょうど3週間後と決定された
各隊は作戦開始に向け、準備が進められることとなった
今回のコロネット作戦には、連合の全兵力を投入している
万が一、この攻勢に失敗した場合、この大戦の趨勢は決する、といっても過言ではなかった
そのことは、この場に居る全ての者が理解していた
負けられない
その強い意志は確認するまでもなく、皆に共有されていたのだった
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・・
・・・
会議が始まる少し前に時は遡る
作戦会議が始まる少し前、今回の作戦についてネフェル少将から個人的に話があると言われた
「ザラート、君に今回の作戦について先に話しておこうと思うのだが」
「どうされましたか。ネフェル少将?」
「・・・今回のエルメディア会戦、大統領は・・・宇宙軍を囮にする計画を立てている」
「・・・やはり。そう、でしたか」
「気づいていたか・・・」
「はい。宙域に展開する帝国軍の戦力は少なく見積もっても、到底覆せるような数ではありません」
「だな。その見立て、よく戦場を見渡せている。・・・本題はここからだ」
そういって少将はタブレット画面をこちらに見せる
「我々12部隊はエルメディア星への制圧行動を行うことになる。アーネスト提督には申し訳ないが、囮として帝国の第一艦隊を引き付けてもらっている間に、エルメディア星を制圧、敵艦隊の補給路を断つことになるだろう」
「ある程度の犠牲は仕方ありませんが、これは」
ネフェル少将は空を見上げ、一つ息を付く
「ああ・・・なんとも、救われない戦いだ。後世の歴史学者には『戦役1の悪手』と囃されるだろうな」
「少将。一つ考えがあります」
「ふむ、聞かせてもらえるか?」
「はい。・・・我が部隊が遊撃部隊として宙域で戦闘を行えば、どうでしょうか」
「ふむ・・・。<シエル><アウルム>の戦闘力を考えると、悪くはない、か。しかし、それでは君たちに危険が及ぶぞ?いいのか?」
「はい。どちらにせよ負ければもう後はありません。出し惜しみをせず、ここは持ちうる全ての手を出して作戦に挑むべきと愚考します」
「・・・さすが、だな。しかし、会議で具申するのは止めておけ」
「はい。いいのですか?」
「敵を欺くにはまず味方から、だな。・・・帝国の諜報は我々の上を行く。どこから漏れるか判らないからな。これは私と君だけで計画しておこう」
「はい」
「それに、君の独立部隊は作戦決定権もある程度認められている。それを活用するのがいいだろう」
「はい。判りました」
賽は投げられた
後戻りはもうできない
俺達の進む道はどういう未来が待っているのだろうか・・・




