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ウィーケスト・アーミー  作者: 神楽阪 舞
第4章 永き「時空」を彷徨うモノ
54/140

氷壁に閉ざされし甲兵 ~Whose state of mind~

ザディアスに降り立ち、野営地を設営した俺達は

束の間の休息の後、ここ旧ダリア市の調査を開始した

かつての繁栄の跡は降りしきる雪のように儚いモノ・・・

例えようのない虚無感に包まれていた


-----------

【13隊野営地・指揮所】

「これより各隊、所定のエリアの調査にあたってくれ!」

『了解』

2日目、旧ダリア市内の調査が始まる

調査内容は連合軍が撤退後の旧市街地の状況確認だ


俺の記憶、そして読みが正しければ"アレ"が使えるはず

これが使えればこの惑星内の移動が幾分楽になるはず


しばらくしてアエル隊から連絡が入る

「こちらアエル。目標物を確認しました」

「ザラートだ。・・・やはりあったか?」

「はい。隊長の仰る通りでした。現在科学班にて確認作業中です」

「了解。また何かあれば連絡してくれ」

「了解しました」

「ありましたね、ザラート」

「ああ・・・これが使えれば何とかなるだろう」


俺がこの調査で命じたのは「地下鉄」の状況だった

この特殊な惑星下、とくに発達したのが「鉄道」

とりわけ「地下鉄」は気象に左右されないため各都市を結ぶように整備されていた


しばらくして、他の隊からも別路線確認の報が入る

旧ダリア市から、放射線上に伸びる路線は各都市につながっている

ちょうどダリア市は中央に位置する、大ターミナル駅だった


調査の結果、6つある路線のうち何とか稼働できそうなのは2路線

首都だった"モスワーク"、"ベレッタシティ"への路線は崩落があり通行不可

残りの2路線は電力設備が使用不可となっており、今回の調査は見送ることとした


まずは使用可能だった1つ、行先は"ベルクート"

そこへまずは向かう事とした


『電力設備再起動します』

『変電設備、異常なし』

『各部異常なし、隊長、これなら問題なく使用できそうです!』

「そうか、ありがとう」

無線で別働隊から連絡が入る


ここはダリアシティにある地下鉄ホーム

俺が軍に入る前に何度か乗ったことがある・・・

電力が復旧し、長らく使われて居なかった設備に灯が点る

この星の気候状態が幸いし、各部の劣化はほとんど起こっておらず、運用に支障はなさそうだ


しばらくして、ホームに銀色の車両が滑り込む

懐かしいな、昔はよく乗っていた車両だ

「ザラート・・・。少し、いいでしょうか?」

エイミーがいつもと違う、只ならぬ雰囲気で俺に声をかける

「・・・どうした?」

「この、地下鉄ですが・・・なぜかは判りません・・・私の記憶にあるものと、似ているのです」

「地下鉄だから、そういうこともあるのではないのか?」

「いいえ、そういう意味ではないのです・・・」

そう言ってエイミーは車体の一部を指差す

「・・・このエンブレム。このマーク・・・どうして?なぜ、このマークが」

エイミーが指差した先にあるマーク

それは、赤地に白の星が描かれたもの

もう一つは楕円形に描かれた丸印の中心に、翼を広げた鳥と"M"と描かれたものだった


「偶然・・・では、なさそうだな」

ただの偶然と口にしようとしたが、エイミーのそれは、今までにない衝撃を受けたと一目で判るほど狼狽していた

「どうして・・・?どうして・・・なぜ、偶然にしては・・・ここまで一致・・・?」

「・・・エイミー」

「どうして・・・?・・・この、記憶・・・?わたし、私はエイミー・・・?えい、み・・・??」

「・・・アエル、指揮を頼む。俺とファナン、エイミーは後で向かう。アエル達は先に次の駅"ベルクート"の調査を頼む」

「わ、判った・・・」

「戦闘になることはまずないと思うが、無理はするな?危ないと思ったら引き上げてくれ!」

「了解、隊長たちもお気をつけて」

アエルを臨時で調査のリーダーとして先行させた


様子がおかしいエイミーを放っておくわけにはいかない・・・

・・

・・・

-----------

《SIDE:地球・小林詠美》

【欧州連合・某国首都】

「詠美、どうしたの」

「え、ええ・・・ちょっと人と電車で酔っちゃったかな」

大学の友人と卒業旅行で向かった・・・欧州連合、東側諸国の首都

歴史的な建造物が多く、芸術的にも非常に価値が高い街

そして長い歴史の中で数々の激動があったことを遺す遺構の数々

それぞれの街を結ぶ地下鉄で移動していたが、生憎この日は現地の休日・・・

乗り心地の悪い車両と多数の乗客で気分は優れなかった


しかし、私の目の前に広がる、数々の遺構は私の気分をすぐに晴れやかなものにしてくれた

歴史や芸術に興味のあった私はこの街に来れたことを素直に喜んだ


この地域は歴史の中で話題になることが多かった

歴史上初となる"主義"の成立、革命、戦争、独立・・・そして集合体の成立

その度に起こる出来事に、この国は良い意味でも悪い意味でも変わってきた

それはさながら人生の様に


私もここに来て自分の価値観を見直す事になったように感じる

まだ漠然とした夢しかなかったが、何かを残せる、いや、遺せるような仕事をしてみたい

最先端の技術に触れるような仕事で、これから先の未来に遺せるような

そんな偉業を達してみたい、と・・・まだはっきりとした目標ではないが、そういうのを目指してみたい

そう思うようになった


そういえば、斡旋先に、最先端のバイオテクノロジーを扱う企業が来てたはず

『未知なる世界に羽ばたく技術を』

そんな謳い文句だった、ような気がする

(私も、羽ばたいてみようかな・・・)


・・

・・・


 ・・・私は、エイミー・・・?ううん、この記憶・・・"思い"は・・・詠、美?

 

就職先の研究所の先輩・・・名前は・・・望月 希(もちずきのぞみ)さん

「あなたが小林さんね、私は望月。気軽に呼んでもらっていいからね」

「はいっ!よろしくおねがいします!」

茶色の綺麗で長い髪を後ろにまとめ、クリっとした二重の瞳、

・・・同性でも見惚れてしまうほどのプロポーション

「んー?何かな?気になっちゃうかなー?」

「い、いいえ?!そ、そんなわけではっ」

「あははっ、いいよいいよ気にしないで」

主任、望月さんはとても人当りの良い、良き先輩でした

そして一緒の研究プロジェクトになったことで、とても満たされた毎日を過ごす事ができました


・・・新規プロジェクトで、今までに無い"モノ"を創り出す

そこで、主任と私は今までのノウハウを活かし、更に次のステップへと進んだ"モノ"を目指して


「やるからには、とことん・・・といっても、さすがにこれは」

「大丈夫ですよ主任!安全性は今までの研究で証明されています!何かを"遺す"のであればこれぐらいのことは!」

「うん、でも流石にこれは・・・貴女の立場も、生命(いのち)も危なくなるわよ?」

「もとより覚悟の上です!私の、私がやり遂げたという証明になるのでしたら、この研究にすべてを賭けたい、そう考えています!」

「・・・判ったわ。責任は私も一緒に取りましょう」

「主任・・・!」

「ふふふ、詠美はいつもそう。決めた道は恐れず突き進む・・・少し、そういう生き方が羨ましいな」

主任は優しい笑みを浮かべて私の事を応援してくれた

しかし、机の上に提出された書類を確認した望月は暗い表情に変わる

(詠美・・・"人工多能性幹細胞"から知能を創り出すことは・・・貴女を苦しめることになるわ・・・)


私は、このプロジェクトに結果を出すべく取り組んだ

・・・

結果は、想定以上のモノ

いえ、想定を遥かに超えるモノでした


「すごい・・・これは本当にすごい・・・」

「やりましたね!主任!!」

「ええ・・・でも、これは・・・」

「主任・・・?」

「詠美・・・悪い事は言わないわ。貴女はこの、この研究所を離れたほうがいい・・・」

「ぇ・・・?どうして・・・?」

「・・・」

望月主任は答えてくれなかった

私は、その時、とても失望した

せっかく、せっかくここまでやってきたのに・・・どうして?


しかし、翌日、事態は急変した

「望月主任!君たちは一体何を・・・これは何をやっていたんだ!!」

「・・・もはや、私たちに遺された時間は多くありません。せめて、せめて私たちが生きていた「証」だけでも・・・」

「くそっ・・・君までおかしくなったか!?・・・創ってはならぬものを我々はっ!!この忌まわしい科学の力がなければこんな”有機生命体”など・・・!望月主任、ならびに小林詠美!君たちはこれからの研究に一切関与するな!これは命令だっ!!」

「しかし!これは私達の未来のために」

「黙れッ!従えないというのなら実力行使に出るしかない!」

そう言うと多数の人影が一斉に部屋になだれ込む

「なっ?!ど、どういうことですかこれは?!」

「君たちの研究は明らかに常軌を逸している!これは国家を揺るがす問題だ!」

多数の人影・・・それは自衛のため国家が編成した軍隊

護られるはずの私達にその銃口は向いていた


・・・

私達は失意の中、研究所からさらに下層にある、"何もない"部屋に連れていかれた

私はこの一連の出来事が原因で

言葉を発することができなくなり


程なく、施設全体を衝撃が襲った

この衝撃・・・『焔の6日間』を迎えたのだ


そして、私達の作り上げた"モノ"は、主任たちが研究を続けた"(きぼう)"と一緒に

遥かなる宇宙へと飛び立つ事となった


私達、いいえ、私は・・・


 ・・・希望・・・共に生きる・・・私の、意思・・・


-----------

「・・・」

「エイミー?大丈夫・・・か?」

「隊長・・・、私は・・・」

「エイミー、無理、しないでね・・・」

「ファナン・・・大丈夫、私は、そう、私は・・・エイミー。・・・エイミーであると同時に"詠美"でもある・・・」

エイミーはすっと立ち上がり、何かを決心したように

「私はエイミー、そして詠美・・・私が、私であるように、自らの意思で・・・!」

手を握りしめ、こちらに振り向き

「隊長、そしてファナン・・・改めて、これからもよろしくお願いします!」

「・・・ああ、改めてよろしくな」

「うん。エイミーはエイミーだよ?これからも一緒だからね」

「はい、本当に、本当に・・・ありがとう」


・・・創られたモノに宿った"自我(ココロ)"は遠き星で輝いた者の"遺志(ココロ)"を受け継ぐ

新たな"決意(ココロ)"を胸に秘め

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