#先の見えぬ戦い ~Against nature[1]~
間話、エマの回顧録
本国に戻り、各隊が戦闘の傷を癒しているころ
エマは久々に研究所へと戻っていた
今でこそ第13軍に無くてはならない存在になっているが、元はこの研究所の技術主任である
「エマ主任、お久しぶりです」
「やぁ、ほんと久々だねぇ」
私が研究所に入るや否や一人の研究員に声を掛けられる
彼の名はトビィ、若くして生体アカデミーを主席で卒業
当研究所の若きホープとして期待されている存在である
「研究所随一のエマ主任がまさか現場、それも戦地に赴かれるとは思いませんでした」
「あはは。現場好きが祟ったかねぇ。でも毎日が充実してるよ」
そう言って私は机の上に持ってきた端末を開き
「さぁて、今日も一つがんばるかねぇ」
「お手伝いします、主任」
作業をしながら、今までの事を振り返る
思えば、この部隊と縁を持つことになったのは惑星エルメディアでの出来事だった
正体不明の隕石の調査、という名目で戦闘状態にある惑星に降りることは多々あったが、
これほどまでに戦線に近い場所に配置されることはなかった
身近に迫る死の恐怖
正直、逃げ出したいと思うことはあった。が、それ以上に未知の物に遭遇するという好奇心が勝った
調べるうちにその隕石はとんでもない代物であることが判った
(これは・・・!すごいねぇ、オーバーテクノロジーってやつだねぇ・・・)
隕石と思われていた物体は高い技術力で隠匿された、所謂「宇宙戦艦」であった
これだけの大きさの艦艇を隕石に偽装するなど、現在の技術では到底不可能である
それを易々と行われていることに、エマの研究心は大きく揺さぶられたのであった
その研究心は実際に近くに行って「触れたい」という気持ちに変わる
そしてその機会はすぐ訪れることとなった
一人の重傷を負った兵と共に
「主任!医療チームより応援の要請です!」
「なんだいなんだい?騒々しいねぇ・・・」
徹夜で研究した翌日、一人の研究員から、医療チームから応援要請が入ったと一報を受ける
研究が主ではあるが、一応こう見えて私は「医師」としての資格も持っている
たいていこういった戦地で応援が入る場合、手遅れの事が多い
今回の戦場も先日ほとんどの部隊が全滅したと報告を受けている、おそらく今回も助からないだろう、そうエマは思っていた
・・・前線に近い、野営陣地の医療ブースに彼は居た
「さぁて・・・診察するかねぇ」
滅菌ライトを全身に浴び、さっと白衣を正し容体を確認する
最初に診たとき、正直、彼はもう助からないと思った
全身に負った傷は素人目に見ても軽いものではない、肌の色も良くない、おそらく内臓が何か所かやられている
処置が成功しても生き続けられるかは微妙なところ
しかし、彼からは強い意志を、生きようとする意志を不思議と感じた
(はぁ・・・徹夜続きで私もいよいよおかしくなってきたかねぇ・・・)
所謂”戦場気分高揚”というヤツだろうか、こんな気持ちになったことはなかった
出来る限りの処置を施し、彼を治療カプセルに移し、回復を祈った
・・・彼は必死に生きようとしていた
不思議と、彼の意識が戻るまで、彼の様子を毎日見に行くようになっていた
そして彼は奇跡と言える回復を見せた
生きようという人間の執念か、はたまた、何か得体のしれない、非科学的な力なのか
培養液の中で彼は目を覚ます
「意識が戻ったようだね」
きっと彼は私に色々と飽きない日常を提供してくれる、そんな予感がした
(おはよう。退屈な日々とはサヨナラできそうだねぇ)




