忍び寄る悪意 ~意図せぬ訪問者~
深夜のテンションで書き上げた、後悔はしていない
【プロキア連合軍駐屯地】
「総員!待機!!」
昨日に引き続き降りしきる雨のなか、部隊副長であるファナンが号令をかける
13部隊の隊員たちはそれぞれ隊列を組み体制を整える
初めての戦場で身震いするもの、支給された武具を整えるもの、身だしなみを整えるもの・・・
各々が準備を進めるなか、ザラートが姿を現す
「総員!敬礼!!」
隊員たちは一糸乱れず敬礼を返す
俺もそれに敬礼で返答する
「総員休め。いよいよ我々も初陣となった。まだこの隊に配属となり慣れないところもあるだろう。
各員、全力をもって対応してほしい。
ただし、これだけは必ず守れ。
『命ではなく敵を落とせ』
以上、各員の健闘を祈る!」
「総員!持ち場に戻り移動を開始!!」
隊員たちはそれぞれ割り当てられた装甲車に乗り込んで行く
「ザラート、お疲れ様です」
「ファナンこそ、副長が板についてきたな。お疲れ様」
俺たちも他の隊員の後を追うように装甲指揮車に乗り込む
見た目こそ他の装甲車と同じであるが、内部の通信機の多さからすぐに指揮車であることがわかる
「隊長、こちらも出発します。かなり荒れた道のようですので多少の揺れはご容赦ください」
「ああ、大丈夫だ。遠慮せずやってくれ」
俺たちを乗せた装甲指揮車もゆっくりと先に行く装甲車に追従する
鬱蒼と茂る密林地帯をゆっくりと搔き分けるように車列が続く
時折、悪路に足を取られる装甲車を別の装甲車が牽引しつつ、進むこと5時間
「隊長、目標地点に到着しました」
運転手から声がかかる
手持ちの端末からGPS座標を確認する。どうやら間違いなさそうだ
「各部隊長に伝達、これより施設の設営を開始する。歩兵部隊は周囲の警戒を開始、支援部隊は待機」
「アエル了解」
「ルルベル了解だよ」
「エイミー了解しました」
「了解だよぅ」
「ファナン、こちらも周囲警戒を行う。各隊に動きがあれば報告を」
「了解」
ファナンは指揮車の天窓から身を乗り出し周囲を警戒する
「こちらルルベル、たぶん友軍と思うけど、草とかで偽装した部隊が展開してるよ」
「ザラート、おそらく例の直掩部隊かと」
「だな、こちらザラート。ルルベル、その部隊は友軍、失礼のないよう対応されたし」
「りょうかーい」
間延びした返事でルルベルからの通信が終わる
ネフェル少将子飼いの部隊、さすがの精鋭でありこの密林内をいとも簡単に動き回っていた
ともあれ、我々13部隊はさしたる障害もなく、無事に後方支援施設の設営を終えることができた
しかし、異変はすべてが落ち着いた夜間にあった
異変が起こったのは先の直掩部隊が引上げ、寝静まった深夜だった
「て、敵しゅ・・・」
いち早く異変に気付いた歩哨は意識を刈り取られていた
「・・・テンカイ」
謎の集団は素早く周囲に展開し、そして的確に野営陣地の要所を抑えていった
・・・ただ一か所を除き
「・・・?」
俺はただならぬ、何とも言えない気配を察し、近くにあった装備を身に着ける
(いくら雨が上がったとはいえ、静かすぎる・・・)
静かに身を起こし、出入り口の天幕を少しずつ捲り外の様子を伺う
特に異常はないように思える、が、この静けさは・・・?
そして不意に目の前に「何か」が上から降りてくる
(なっ?!)
相手は何かを構えこちらに覆いかぶさろうとしたが、俺は寸のところでそれを躱し、その何かを抑え込む
相手を地面に押さえつけ、首元にコンバットナイフを突きつける
「マ、マッテ・・・戦ウ意思ハナイッ?!」
「なっ・・・?!」
俺が押さえつけた相手が月明りに照らされる・・・そこに居たのは
可愛らしい小動物のような耳が頭に生えた、獣人の女の子だった
-----------
「ほ、本当にごめんなさいっ」
『ごめんなさい』
少しずつ夜が明けてきたころ、この謎の襲撃者の正体は明らかになった
彼女たちはこの地に住む「ワーウルフ」だった
所謂「獣人」と呼ばれる種族の彼女らは夜行性で好奇心旺盛、急にできたこの施設に興味を持ち近づいてきたようだ
俺が抑え込んだ彼女がどうやらリーダーだったようで、抑え込まれた姿を見た他のワーウルフ達は怯えた様子でこちらに集まってきて
一斉にごめんなさいのポーズを取っていた・・・
そこまで怯えなくても、と正直思った
なお、何名かの隊員が木陰で気を失った状態で寝かされていた、丁寧に毛布を掛けられた状態で
「さて、被害が出ていない以上あまり事を荒げたくはないと考えるが、意見はあるだろうか」
「そうですね、被害に遭った隊員も許すとの事でしたので、処分は無しで良いかと思います」
「だねぇ。実害ナシだし、ちょっと研究用にイロイロともらえたら文句はないかなぁ」
エマが少し物騒なことを言っている気がするが、まぁ概ねお咎めなしの雰囲気である
・・・一人を除いて
「どうした?ファナン、さっきから何も言わない、というか目が怖いぞ?」
「・・・いい」
「え?何か言ったか・・?!」
「かっわいいいいいいいいい!!」
そう言うとほぼ同時にリーダー格と思われるワーウルフの彼女に覆いかぶさった
「にゃにゃぁ?!」
・・・ぉぃぉぃ
「うわぁ・・・もふもふぅ・・・耳いい!尻尾もかわいい!!」
「こら、耳を触らないでほし・・・あぅぅ尻尾はだめなのぉ・・・にゃふぅう・・・」
「・・・エイミー、どうすればいい、この状況」
「申し訳ありません。ファナンは昔からこういう小動物が好きなものでして」
「まぁ、意外な一面が見られたのでいいのではないでしょうか」
「だねー、意外な一面!」
場は一転して和やかになった
一頻りもふもふしてツヤツヤになったファナンと
すっかり憔悴しきった彼女を除いて・・・
改めて、リーダー格の彼女の名はミリィと紹介された
出来上がった施設、とりわけ「風呂」がワーウルフに好評だった
食事もこういった「調理」されたものは初めてだったようで、甚く気に入った様子だった
その夜、ミリィから
「この御恩は返しきれるものではありません、よければ私たちも協力させていただけませんか」
「・・・軍に入るというのか?」
「さすがに今すぐ、というのは難しいと思います。人間の社会はそういうものだと代々教わっています。
ですが、夜目の効く私たちに見張り、偵察といった仕事を任せてもらえれば恩返しができるかと」
「しかし、本当にいいのか?」
「はい、ご迷惑をおかけしたのは事実ですし」
「・・・迷惑という点ではうちのファナンが」
「あはは・・・まぁあれは事故ですよ。それ以上に我々を嫌悪の目で見ないでいただけるのはとてもありがたいこと、ですから」
「・・・わかった、現地人の協力を得られるということで上層部に掛け合ってみよう」
「ありがとうございます!」
かくして、ワーウルフの助力を得られることとなり、この事をすぐ司令部に報告した
「ははは!なかなかに愉快な話ではないか、現地司令権限で特別支援部隊としての配属を認めよう」
「はい。でもいいのですか少将。いろいろと問題になるのでは」
「なに、構わんさ。現地住民の協力を得られることは何より心強い。それにだ」
そういうとネフェル少将は少し寂しげな表情で
「現地民との友好を築き上げるのも大事なことだ、我々は部外者。元いた者にしてみれば「占領」されるわけだからな・・・」
「はい。そうでした、そこまで考えが至りませんでした」
そうだ
元々ここに住まう者にとって、俺たちがやっていることは「占領」以外のものではない
一方的な侵略、それで穏やかで居られる者なんて、いるわけがなかった・・・
意図せぬ訪問者は改めて俺たちに色々と考えさせられる、良いきっかけになった
ファナン「きゃ~もっふもふ~!これからもずっとよろしくねっ!!(スリスリ)」
ミリィ「ザラートさん、さすがにこれはちょっと怖いデス・・・いざってときは助けてほしいデス」
ザラート「あきらめてくれ・・・止める術を俺は知らない・・・」
ミリィ「そんな~」
続かない




